第2話
その色を閉じた瞼の中でぼんやりとなぞっていると、時計がカチっと音を立てた。
アラームが鳴る一瞬前に、時計のボタンをたたく。
いつの頃からか、私は目覚まし時計のなる前に目が覚めるようになっていた。起きられないかもしれないという不安は拭えず、毎日時計はセットするのだけど。もう久しく音をたてさせてもらえない時計は、今日も不満そうに黙々と針をすすめていた。
さて、準備準備。
半身を起こしてうーっ、と伸びをして、ベッドから降りた私の足もとで、ゴトっ、と鈍い音がした。
「…え…」
床に転がった〝それ〝は…。
―乱暴に扱うでない―
「う…うぁ」
まぎれもなく、夢の中で見たあの石だった。光ってこそいないけれど、頭の隅に残っているあの色と同じ紅。
呆然と見つめる私に「石が」言った。
―驚くでない。お主は選ばれし者。この儂が選んだ者―
は?な…なに?
今、声、確かに石から聞こえてきたよね?
しかもその色と滑らかな形に似合わない、頑固そうなジイサマの声。
私…まだ目が覚めてない?
─ともかく儂を手に取るがよい―
呆然と見つめる私に、畳みかけるように石が言った。
―ぐずぐずするでない。ことは一刻を争うのじゃ―
紅玉奇譚 ゆえ @kazetsuki
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