紅玉奇譚

ゆえ

第1話

 真の闇というのは、こういうものなんだろう。

 目を開けていても、なにがどこにあるのか、その輪郭すらつかむことができない。

 …と、その闇の中空に突然、紅く小さな光がともった。

 さながら星。

 たったひと粒のそれは、空に見放されたように、ゆっくりと、はらはらと、螺旋を描きながら落ちてきた。

 弱い明滅…それでも紅と判るその光は、確かにこちらへ向かって降りてきていた。

 ちょうど目の高さまで降りてきたそれへ、思わず手を差し伸べていた。

 そのまま地上へ降りたなら、雪のように消えてしまうような気がした。

 ふわり。

 手のひらに降りてきたそれは、小さな卵の形をしていた。滑らかな表面には中心で光る紅がぼんやりとにじんでいた。

 軽い。まるで重さがないようだった。

 私の手のひらに触れては浮かび、それを数回繰り返すうち、光はその色をなくしていった。

 光が消えるにつれ、羽根ほどにしか感じられなかったその重さが次第に現実のものとなっていった。

 しっかりと私の手におさまったそれは、冷たい石のようだった。

 最後の光が消える瞬間〝石が〝呟いた。

―お主の面相…なかなか気にいったぞ…―

…えっ?


 忙しく朝食をとっているらしい小鳥の声が聞こえてきた。

 カーテン越しの光を瞼の向こうに感じながら、私は、頭の隅で消えていく光をぼんやりと追った。

 夢…か…。

 妙な夢みたな…特にラスト。

 なんで石が喋ったりすんだか。

 それにしても、きれいだったなぁ…あの紅い光…。

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