そんな私は、いい年こいて魔法少女になったり

 気が付くと私たちは、駅前公園にいた。周囲には誰もいない。

「それでは早速、本題といこう。私と君は、この人間界で魔法少女を生み出すことでコンセンサスをを得たわけだが」

 ルシファーとか名乗る魔族が、わけのわからない横文字を交えて話し出した。

「おケツバイブ、君がその嗅覚で魔法少女候補を探し出すとアサインされたわけだが、それがこの娘さんということでよろしいかな?」

「仕方ないではないか。今時、『彼氏いない歴=年齢』などという女性は、そうそういるわけではあるまい」

 おケツバイブが反論する。

「おケツ、一体こいつ何者なのよ? まさか、あんたたちの敵ってわけじゃないわよね?」

「吾輩と同じ、魔族の者だ。少々癖のある人物ではあるが、敵ではない」

「それじゃ、大魔王に滅ぼされたっていうところの一人ってわけ?」

「さよう」

 しかし、私の中で、一つ疑問が生じた。

「で、あんたは、大魔王の呪いとやらで、黒猫に変えられたわけでしょ? なんでこいつは、魔族の姿のままなのよ!?」

「実はこの者、姿こそ変えられてないが、魔力の大部分を吸収された。大魔王と戦う力は残されていない」

「姿を変えられなかったのが、君のような意識の低い魔族と、私のような意識の高い魔族との違いだ」

 ルシファーとかいうやつが、途中で話に入り込む。

「お主のようなやつが、人間界で言われるところの、『意識高い系』というやつだな」

 意識高い系――わけのわからない横文字のビジネス用語を羅列し、自分は意識が高いと勘違いする輩を呼ぶ、ネットスラングである。それにしても、おケツバイブ、よくそんな言葉を知っていたもんだな。

「しかし君も、黒猫の姿にさせられておかげで、魔法少女候補を探し出すことができるようになったという、意識の低いものとしては役に立つようになったな」

「黙れ若造」

 おケツバイブと、ルシファー――意識高い系魔族が、口論になった。

「私が当初欲していたのは、それこそ少女というにふさわしい、若い女性だったわけだが……この娘くらい年が行った女性もいいものだな」

 意識高い系が、私に近づき、頬を触ろうとする。私は、素早く手を振り払おうとする。

「やめろ!」

 意識高い系は、私の頬を触ることをあきらめ、後ずさる。

「しかし、君の説得では、魔法少女になるというコンセンサスは得られなかったと、そういうわけだな。」

「仕方ないではないか。この娘、強情なのだから。」

「それが、意識の低い君と、意識の高い私との違いだ。私なら……こうする!」

 意識高い系が指をパチンと鳴らすと、閃光が走った。次の瞬間、巨大なイソギンチャクのような魔物が姿を現した。

「行け! イソギンチャッくん!」

 イソギンチャク状の魔物が、私に近づいてくる。そして、私の手足に絡みつく。

「さあ、娘よ、どこまで耐えられるかな? 素直に、魔法少女になるといえば、解放してやるところだが。」

「お主……相変わらず悪趣味だな……」

 イソギンチャク怪物が粘液を出す。私の衣服が溶けていく。そして、私の胸や、あろうことに陰部をまさぐりだす。このまま私は、快楽の虜に……


 なるか~!


 私は、まばゆい光に包まれ、そして一瞬だけ裸になり、胸、腰、足が光を発する。気が付くと、イソギンチャク怪物は、消し飛んでいる。そして、光は消え……

 自分の姿を見て、驚愕した。トレーナーにGパン、スニーカーというラフな格好で来たはずなのに……すっかり、違う衣服に包まれていた。ノースリーブの、丈の短いベストに、ひざ上30センチもの超ミニスカート、足にはブーツ、全てがパステルピンクに統一されていた。また、ろくに手入れしていなくてぼさぼさの髪は、サイドテールに結われていて、なんと、ピンク色になっている!

 もしかして、私は、『魔法少女』とやらになったのか?

「これで君も、立派な『魔法少女』だ。おめでとう!」

 意識高い系が拍手をする。

「ありがとう、なんて言うと思ったか~!」

 冗談じゃない。こっちとしては、厄介ごとを背負わされただけだ。

「まったくお主は、趣味の悪い方法で魔法少女を誕生させてからに……」

 おケツバイブが、やれやれといった表情でつぶやく。

「年齢がちょっと行ってしまっているが、それはそれでいいものだな。特に、そのお腹のぷにぷに感がたまらない」

 意識高い系が、私の腹部を見つめる。腹出しヘソ全開で、たるんだ腹が丸見えである。

「さらに言うと、胸や太もももな」

 奴の視線が、あらわになった上胸や、丈が異常に短いスカートから見える太ももに移る。

「やめろ~じろじろ見るな~!」


 そんな、くだらないやり取りをしていると、背後から、巨大な魔物の影が……

「お、お前は!?」

「大魔王サタン!」

 おケツバイブと意識高い系が、一斉に叫んだ。私にもわかる、邪悪な気配。こいつが、大魔王とやらか。

「吾輩を猫の姿にした代償は高くつくぞ」

「私の魔力を吸い取ったこともな!」

「それは、お前たちがあまりにひ弱だからだろう。このまま、人間界も乗っ取ってくれよう」

 なんか勝手に話が進んでるんですけど……

「お主が、儂に対抗すべくこいつらが生み出した、魔法少女とやらか」

「まあ、そんなことだろうけど、何か文句ある?」

「何物も、儂の侵攻を食い止めることはできぬ。まずは、お主から始末してくれよう」 

 大魔王がそう言うと、人間の頭に豚面をつけたような怪物が、5体ほど現れた。

「オークどもよ、かかれ~!」

 魔物たちが、一斉に襲いかかる。

「さて、魔法少女のお手並み拝見と行きますか……」

 意識高い系が、にやにやしながらこっちを見ている。おケツバイブは、やれやれといった表情で見ている。

 魔物の一匹が、手に持った棍棒を、露出された私の腹目指して振りかざしてくる。

 やられたか!?

 しかし、私の腹が、棍棒をはじき返している!

「君の体は、防護霊気で守られている! 首から上がやられない限り、無事だ!」

 意識高い系が、叫んでくる。

「それでは君も、反撃していきたまえ! 頭の中で思い浮かべた武器が、実際に具現化する!」

 武器? そんなものは必要ない! セクハラ上司を殴り飛ばした私の拳、なめるなよ?

 魔物は、今度は顔面目指して棍棒を振りかざしてくる。首から上は危ない? しかし、敵の攻撃がやたらとスローに見える! 私は、カウンターで拳を叩き込んでやった。相手は、いとも簡単に弾き飛ばされる! これが、魔法少女の魔力とやらか? 今度は背後に、魔物の気配を感じる! 私の体が勝手に動き、後ろ回し蹴りを喰らわせた。残りあと3匹! 前後から挟み撃ちにしようとする! 私は、ハイキックとエルボーで、同時に2匹を倒す! 最後の1匹が、私めがけて突進する! ここは、昔の漫画みたいに仕留めてやるか! ジャンプして、相手の喉元に蹴りを喰らわせようとする。

「レッグ・ラリアート!」

 しかし、実際に敵の喉元にあたったのは、足のすねの部分ではなく、太ももだった。これじゃ、『太ももレッグ・ラリアート』ではないか。

 何はともあれ、敵、といっても雑魚だが、を全部倒した。私は、顎を斜め上に上げて大魔王とやらを睨みつける。

「まあ、好きで魔法少女になったわけじゃないけど、軽~くこんなもんね」

「勘違いするな。今回は、貴様の腕を確かめただけだ。次は、命があると思うなよ」

 そう言うと大魔王は、姿を消していった。

「おめでとう! 魔法少女の初陣としては、まずまずだな。しかしこれから、大魔王の手先が君のことを狙ってくる。その時のために、もっと力をつけておかないとな」

 意識高い系が、そんなことを言ってくる。なんか結局、厄介なことに巻き込まれているのは間違いないんですけど。

「おっと、これを渡しておかないとな。」

 手渡されたのは、きれいな水晶のペンダントだった。

「この魔水晶を使えば、いつでも好きな時に変身できる。敵が来たら、これを掲げるようにな。それでは、また会う時まで」

 そう言うと、意識高い系は姿を消していった。

 「どうじゃ? 体を動かして、少しはすっきりしただろう」

 と、おケツバイブが言う。まあ確かに、家の中で悶々としているよりは、多少は気分がいいかもね。

「もう、戦闘は終わったから、魔法少女の衣装は解いていいのだぞ」

 そう言うが、先程のイソギンチャク怪物によって、衣服は溶かされている。結局、魔法少女の衣装のまま家路につくとする。幸い、真夜中なので、人とすれ違うことはなかった。

 家に着き、改めて鏡をのぞいてみる。普段、化粧などしない私が、きれいにメイクされている。

「魔法少女に変身すると、メイクもちゃんとされるようになる。今はそれだけでなく、戦いの後でりりしい表情になっているな」

 おケツバイブがそんなことを言う。

「これから吾輩は、お主のお目付け役として、ここで暮らすことにする。よろしく面倒を見てくれるようにな」

 え? 勝手に居座るつもりですか?

 結局、厄介ごとに巻き込まれてしまった。しかし、やれるだけのことはやってやるつもりだ。

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魔法少女はBBA!? ふたぐちぴょん @pyon_xp

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