魔法少女はBBA!?
ふたぐちぴょん
アラサー処女の奇妙な冒険
人のオナニーをのぞくな!
「さ~て、一発抜いて寝るか!」
私は、風呂から出てきたそのままの姿で、足を開き、陰部をまさぐり始める。
「……んんん……!」
この、『風呂上がりに全裸でオナニー』は、私の日課になっている。別に、男が欲しいわけではない。一人の状態で、精神統一したいだけなんだ。昨年末に、セクハラ上司の頭をぶん殴って強制退社させられて以来、ネトゲ→オナニー→寝るが、私、武田乃亜の生活の全て。『働いたら負け』と、心から思う。この生活も悪くないけど、どこか心の中に、空洞がぽっかり空いている。だから、自分で自分を慰めるのだ。 御年30にもなって、彼氏もいないとか、定職についてないとか、そんなことはどうでもいい。世間一般では、立派な『オバサン』、最近流行りの言葉で言うと、『BBA』とかいうやつだ。
ふと、何者かの視線を感じる。一人暮らしの身で、このアパートには、誰もいないはずなのに。
周りを見回すと、一匹の黒猫が、私のオナニー姿をじっと見つめてる。
「すまん、失礼をした」
猫がしゃべった……?
いや、そんなことはどうでもいい。
「ちょっと待てや貴様~!どこから見てた~!」
「いや、一部始終を……」
「はぁ!? 貴様のケツに、バイブ突っ込んでやろうか~!服着てくるから、そこに直れ!」
すると黒猫は、部屋に入り、ちょこんと座った。
とりあえず、トレーナーにGパンという、色気もそっけもない普段着を着てあぐらをかき、改めて黒猫と向き合った。
「まずは、名を名乗ってもらおうか。」
「吾輩の名は、魔族の王、ベルゼバブなり」
尊大な態度で、黒猫は答えた。
「え? ベル……なに?」
「ベルゼバブだ」
「おケツバイブ?」
「違う! ベルゼバブだと、言っておるだろう!」
「はははっ! おケツバイブ! おケツバイブ~!」
我ながら、いいあだ名をつけたと思う。
「で、そのおケツバイブ様が、一体なんで私のところなんかに来たのよ?」
黒猫……もとい、おケツバイブは、かしこまったような態度をとった。
「先ほども言ったとおり、吾輩は魔族の王だった」
こんな、単なる黒猫にしか見えないやつが、魔族の王、ねぇ……
「しかし、大魔王サタンの軍勢が、吾輩の領地に攻め込み、あっという間に支配された」
「あんたって、意外と弱いのねぇ」
「黙れ小娘!」
少なくとも私は、『小娘』ではないのだが、ここはスルーしてあげることにした。
「そして吾輩は、サタンの奴に呪いをかけられ、黒猫の姿にされた」
「ふ~ん、だからあんたはそんな姿をしているのね。まあ、私には関係のない話だけど。」
「大いに関係がある。実は、サタンの奴、この人間界にも攻め入ろうとしているのだ」
要するに、この世界の危機ってやつか。まあ、私には関係のないことだ。ネトゲしてオナニーして寝るだけの、この私に。
「だったら、こんなところうろうろしている場合じゃないんじゃないの?」
「確かに吾輩は、このような姿にもさせられたし、一人でサタンの軍勢に対抗できるわけではない」
『一人』だって? 『一匹』の、間違いじゃないか?
「だから、この人間界に、我らと手を組んで戦う者を探している」
「だったら、こんなところで道草を食ってる場合じゃないんじゃないの?」
「話は最後まで聞け。お主、『魔法少女』というのは聞いたことがあるだろう?」
魔法少女、ねぇ……よくテレビで、日曜朝にやってるようなやつか。
「ピュアで穢れのない少女に、我ら魔族が力を与える。すると、サタンの軍勢にも対抗しうる、強力な戦士が誕生する」
なんか、夢物語を聞かされているような感じだが、とりあえず話を聞くことにする。
「だったら、こんなところで道草食ってないで、『ピュアで穢れのない少女』を、探してきたほうがいいんじゃないの?」
「いや、そこが問題なのだ……」
はぁ?
「魔法少女になれる条件として、心がピュアである以上に、『体』がピュアでないといけないという前提がある」
要するに、処女じゃないといけないわけね。
「ところが、最近の少女たちは、普通に彼氏がいたりすることが多くある。この世界のスラングで言うところの『リア充』というやつだ」
だんだん、話が呑み込めてきた……ってまさか!?
「お主、心はともかく、体はピュアなままなんじゃないか?」
「はぁ? 『心はともかく』だと?人なめてんじゃねぇか?」
彼氏いない歴=年齢をなめるなよ!?
「確かに吾輩は、呪いによって黒猫の姿に変えられたが、その分、嗅覚だけは格段に上がった。そこで、ピュアな乙女を探し回ってたところ、お主が見つかったということだ。まさか、全裸で自らを慰めているとは思ってもいなかったがな」
うるせー黙れこのおケツバイブが!
「この際、いわゆる『BBA』であることは不問に帰そう。吾輩と契約して、『魔法少女』になってみんか?」
「はぁ? 魔法『少女』?」
「ほかに順当な語彙が見つからないのだから仕方がない。ましてや、『魔女』なんて言うと、さらに語弊があるだろう」
魔法少女……昔は幼い女の子の『将来なりたい職業』ナンバーワンだったが、今では、『なりたくない職業』ワーストワンだと云われている。ちなみに、なりたい職業ナンバーワンは『プ○キュア』で、その次が『セー○ー戦士』だと聞く。私には、それらの違いはよく分からんが。
「『契約』と言ったわよね? 確かにあんたたちからするとメリットがあるかもしれないけど、私になんかいいことがあるわけ?」
「お主の今いる『終わりなき日常』の世界に終止符を打って、刺激に富んだ生活ができるようになる、というのではどうだ?」
「いや私は、『終わりなき日常』に、十分満足していますが」
「吾輩には見える。お主が、本当は今の生活に満足していないことを」
正直なところ、もうちょっと今の生活を見直そうとか、考えてなくはない。しかし、いきなり『魔法少女』とかいうのになって世界を救うというのは、なんか違うと思うが。
「とにかく! 魔法少女なんて、私はなりません! 第一、少女じゃないし。そんなもんになるんだったら、部屋の中で、『終わりなき日常』を満喫するだけだからね!」
「ううむ……強情な娘だ」
そのような不毛なやり取りをしていると、ふと、家の呼び鈴が鳴る。私はしぶしぶ、インターホンごしに話しかける。
「こんな真夜中に、一体どなた?」
「ここに、変な黒猫は舞い込んでこなかったかな?」
「まあ、いますけど、いったい何故にそんなことを聞くんですか?」
「とりあえず、その黒猫と話がしたい。」
この黒猫……おケツバイブを追っ払ってくれるのか? それとも、こいつの仲間なのか? 後者だったら迷惑際なりないのだが……とりあえず、ドアを開けてやるとするか。
出てきたのは、私と同世代――30くらいの青年だった。しかし、いくつか変わったところがあった。髪の色が青で、耳がとんがっていて、頭にはヤギの角のようなものが生えている。やはり、おケツバイブの仲間なのか? すると、おケツバイブが、玄関まで走ってきた。
「お、お前は、ルシファー……!」
「おケツバイブ、あんたの仲間なの?」
私は、たずねてみた。
「仲間……というのは少々語弊があるが、確かに魔族の者だ」
おケツバイブが答える。
「その者が、君が探し出した、魔法少女候補なのかな?」
「まあ、そんなものだな……『少女』ではないが。ところで、こんなところで立ち話もなんだから、場所を移動しようか」
おケツバイブが、そう提案する。
「よかろう、おケツバイブ君。それでは、そこのお嬢さんも一緒に」
「お主まで、その名で呼ぶか……それでは、場所はお主に任せる」
なんだなんだ? 二人……一人と一匹だけの話だったはずなのに、私も巻き込まれる羽目になるのか?
ルシファーと名乗る魔族が、いきなり私の腕をつかんできた。許可なく私の肌に触れるな! と思ったが、次の瞬間、周囲が暗転した。
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