クイーン・オブ・ザ・ストリーキング

(訳者注:これは著者ガーリ氏が東京を訪れた際に付けていた自身の日記のうち1日分を抜粋したものである。英訳版には正確な日付が残されていなかったが、2008年4月~5月頃であることまでは状況から判明している)

 

 今日はたこ焼きですよ。世界的に。はやるなかれ、されど午前の刑務所。前輪が二つに、後輪が一つ、これなーんだ? 答えは「今日俺が府中をサイクリング中に見た変なおばさんが乗っていた自転車」です。もう大変なことになりましたね伯母さん敵機に。伯母さんの魔力とよぼう。知らない道を走りまして目に見えるのは看板看板、磔刑の看板娘、あれは神になった。神になったんだ。すごいことです。リッッパなことだ。脳細胞の溶けすぎですね? 炊飯器にお米が約09834t5764285923409246923581^−1^3523753624w¥^5−^15−234562^3405135t8126465029358y^246374569238549763927629374t659235768−134856^13086973247592356^52968094568928357613683975−613405619275921756t142985−012438508932465423816872^37576¥t23468¥2−3097682093567t−0923756245


粒入っていたから牛乳が腐る、あるいはそれは選択を迫られている。なのでいかにも健康そうなシリアルであるところの「グラノーラ」を食べる、牛乳を入れて。まったくたいへんなおことだからすこしどうしよう。まったくだ。えぐい、そんな血を見るまねを? することになりました、ええ献血は私の生来のゆめでっしtな、献血をすることで世間様に役立つという。、一度行ったときは断られましたが。しかし今度こそ間違いなく血を抜かれる。だからその日までそっとおでこをなでてくれませんか? いいえ嘘だ、もう脱出不可能よーーーッッッッ!! 無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理ィィィィィッッッッッッ!! MURRRRRRRRRRRRRRRRRRRRYYY!!!! 無駄に!!太陽が眩しい!! もしかしてフラグ立ってますか。詰んだのですか。おっとリセットを押さないと終われないパターンだな、しかしもう合わせ味噌をなめながらご飯を食べるのは嫌だから! 納豆を寝るとグルタミン酸が作られるから! おまえ納豆と寝たのか? このシュレーディンガー!! 親不孝者!! 「にげろ納豆」あんな娘っこをかばうとは!! 貴様度が過ぎた遊びだ。今から俺は50%の確率で猫になる。なりますからね!! 俺が人語を理解できる今のうちに好きなだけののしるがいいさ!!! ニャー。いかん不覚にもこころがなごんだ。こんんあことってこんなことってどういう? そうだ納豆はどこに逃げたsンだろう? 知らない知らない!! ばか!! 何をそんなに怒るんだ、まだ話さなきゃならないことがあるじゃないか。しかし後ろから筋引きで頸動脈を一撃。終わった!! 納豆は終わった!!! おわったんだ!!!! ニャー!!! そして猫はじまった!! 猫は始まった!! 今まさに始まろうとしている!!! だから私猫になる! そう言って自転車を走らせながら町で一番高い坂道を滑り降りる俺は高得点な気がする。しかし裏切られた! 国道20号線は自転車では進み切れなかった! 国道20号線に俺は拒否されたんだ! 俺は器ではなかったのか! そpして分相応に生きるために町の靴下屋さんになりました。しかし競争相手の伊藤園が靴下にお~いお茶をドボドボ入れて嫌がらせをしてるし、客からも「何だこの靴下は、お茶が入ってるじゃないか」とクレームがくる始末、もう駄目だ、くらしてけない。いきていkれない。そこでだ。接続詞を代えてみよう。接続詞は、単に言葉を繋ぐものでなく、世界の解釈を表すものだ! 「だから」! 伊藤園がやってきた。「あえて」! 銃身を短く切り詰めたモスバーグショットガンから発射された12番径鹿玉は伊藤園をズタズタに引き裂いた。「俺が触法を恐れるとおもったか? バカめ!」そこに俺の妻が登場し、ボロくズのようになった伊藤園の死体を高々と上げて「これ、家の主人が獲った者どす」観衆「ほぅ」妻「いえもんはんでよかった」死体は振り回されてあたりに血肉が飛び散り、大変不衛生である。「くそおおおお!! 靴下は清潔じゃなきゃいけないんだよ!!」キレる俺。ちょっとまて、もっといい方法があるはずだ、今や接続詞で世界が変えられるんだ。「もはや」!! よく考えろ、これは神が与えた試練だ。精神の階層の一段上に飛び乗るのだ。「もはやここは府中ではないのかもしれない……」気づいたら新小金井街道を全裸で疾走していた。「止まれない」と思った。「走りきるしかない」と思った。「止まると恥ずかしい」と思った。そして、走り続けている限りではそこまで恥ずかしくは感じない自分に驚いた。「わたし、はずかしくない!!」自信に繋がった。気持が高ぶった。自然と笑顔がはじける。「わたし、はずかしくない!!!」いつのまにか道路沿いの歩道には観衆が大喝采で声援を上げていて、後ろからは無数のパトカーが追撃してきた。みんなのためにも! やらねば、完遂せねば! 皆がくれた勇気を、こんどは返す番だから! 皆の声援を、形に結実させてみせるから!! そんなわたしは言うなればあれですね、ピュアですよ。だから何も疑わないで新小金井街道を全力で走り続けた。微笑ましいですね。微笑をさそう愛の物語ですよ。多分。でももう疲れちゃった。ゴールが見えない。足が重い。警察は押し迫っている。街道のゴールはいったいどこなの? 私はどこに向かって走っているの? 誰がために鐘は鳴るの? 郵便配達員は二度ベルをならすの? ううん、らしくない! らしくない! そのとき北府中駅のそばに露店を出している靴下屋が目についた。靴下屋と目が合った。「あれは、あのころの私?」「あれが、俺の成れの果て?」二人はお互いに惨めだと思った。世界に対する存在の仕方がお互いに理解できなかった。そのとき私の足首がボカという音ととtもに骨折した。パトカーはスピードを殺せないかった。スローモーションで走る馬明かりのようによぎる考え。落ち着け、まず落ち着くんだ、誰も見てないときとみんなが見てるときは振る舞い方を変えなければならない、だからそう、「アイハブアパン」とか叫びながらベッドにダイブしてはいけないんだ。しかも食っているのは米だろう、米米うめぼしを食った、ていうかなぜ観衆は見てるだけなんだ? お前達は数少ないランナーに全てを託しているのか? なに言ってるんだ! お前が走らなきゃ、お前のレースははじまらないんだよ! お前だけのゴールにたどりつけねえんだよ!!! 沈黙が訪れた。観衆はなにも言えなかった。が、一人の少年が、ためらいがちに着ているものを脱ぎ捨て、全裸になった。それを見た周りの人達も、恥じらいながら、しかし心に熱い信念を持っているかのように、服を脱いでいった。その波は広がり、老若男女とわず総員が全裸になった。最後の方は熱狂を込めて脱ぎ捨てた衣服を空に放る勢いだった。歓声は、もはや選手のためでなく、全てもののために上がっていた。「みんな………!」胸が熱くなって一筋の涙がこぼれた。しかしいまは泣くときではないからかくした。「戦争よ!」わたしは叫んだ。「小金井市に自由を!!」全裸の人々は雄叫びを上げ、走り出した私についてきた。パトカーは完全に怯んでいる。「警部、発砲の許可をください!」「バカ、この数じゃ、一生分の始末書を書くはめになるぞ!」「死ぬのは嫌だああああ!!」恐怖に屈して吉田巡査長は発砲した。最前列を走っていた一人の少女が脳天を撃ち抜かれて崩れ落ちた。周囲の住民はいっっしゅんとまどう。「走りをとめないで! みんなの夢!」檄を飛ばす。だれだって怖いのだ。だからこそ走り続けルしかない。一台めのパトカーに到達し、数人が殴る蹴るの攻撃で車に傷をつけ、窓を割って中にいた警官を引きずり出そうとしてる。警官はおそれおののき発砲し、撃たれた男が血を噴き出しながらひっくり返る、しかしもうだれもおそれてはいなかった、みんな勇者になっていた、窓をもぎとって警官を引きずり出すと集団で蹴りを入れた。後から続いてきたものはパトカーを踏み越えて突き進む。「市役所を守れ!!」警部は言う。「貫井トンネルまで南下されたら市の運営システムは崩壊する」新小金井街道にはいくつもの非常線が市警を総動員して張られ、最後の砦、高架線トンネルでは、戒厳令の発令により高架線上に迫撃砲と重機関銃が設置された。わたし、一生懸命走ったの。どこまでもいけることを信じて。しかし折れた足が痛み出し、びっこを引くようになってしまった。すると後ろから、撃たれたはずの少女が追いついて、「これを使ってください。私に打ち込まれた鉛玉を加工して作りました」それは靴下だった。私はそれを履いた時、「あのとき」のわたしだった靴下屋の存在理由をさとった。今までの自分の行いにはすべて意味があったのだ。そしていまこそそれが集約される瞬間なのだ。お礼を言おうと振り返るともう少女の姿は見えなくなっていた。靴下はあたたかかった。わたしは片足だけの靴下で思い切り踏み込み、高く飛翔した。「フォロー・ミー!!」私は言った。「ウオオオオオオォォォォ!!!」と民衆が答える。玉川上水をはさむ五日市街道が見えた時、そこに非常線が張られr邸ルtの側赤田l、まけないわたしやる!! 神様、と靴したにキスをして祈ったら、紫色の煙が発生して、風下にいる警官がバタバタとたおれはじめた。あわてた警官はとっさに口を塞ぐと針山を道にしいた。でもみんな突撃のスピードをおとさない「まって、あれじゃ通れないわ!」私はそう言ったけどとまらない「わかってます!」あるものが言った。そして針山に到達すると、「自由万歳!!」と言って、先頭を走っていた何人もの人が針山に倒れ込み、彼らが身を呈して作った肉の橋の上をみんな走ることができたから、私のゴールは私だけのためじゃないんだって思った。そこから学芸大学までの道は長い下り坂だった。空から警視庁のヘリコプターが、氷柱を落としてきた。みんな裸だから、体が底冷えした。直撃して背骨がへしおれたり、皮膚がはりついて氷柱と一緒に転がってしまった者もあった、反撃しようとして、これは罠だって分かった。坂道でスピードを出しすぎていた民衆は自分の足についていけなくなり、転んだり暴走したりしていた。一人の男が街路樹に上ってヘリにとびつき落とそうと、街路樹に向って走りながら飛びついたが、スピードが出過ぎていて、幹に体が当たった瞬間に毛細血管が破裂して全身から血をふきこぼした。いけない、もう、もう、これ以上犠牲者を出さないでえええええっっ!! と叫んだら急に走る力を失い、へたり込んでしまった。もう学芸大学は目前だというのに。だが、そこにはまた非常線がしかれていて、一列にならんだ警官が、ライアット弾が入ったショットガンを担っていた。スピードを出しすぎた民衆は勢いを殺せず、無防備に警官隊に突っ込んでいった。「だめーーーーーー!!!」私が叫ぶのとけたたましい銃声が響いたのは同時で、私が凍りついている間にコッキングの音と、二発目の発射音が聞こえた。絶望を感じたと同時に、頭がまっ白になった。わたし、たいへんなことをしてしまったのね。もう次の朝が人々の希望を照らすこともないのね。目の前がまっ白。でも靴下がほつれていってるのがわかる。もう、これで踏み出すこともできない。みんなが服を着てさえいれば、せめて生きながらえて……そのとき声が聞こえた。まっ白な風景の中で、その姿はぼんやりと浮き上がった。あなたはだれ……?「未来……この時のお前だ。お前は、あの時の俺だよ」俺……? わたしは急に恥ずかしくなった。あのとき、「あの時」の私を見た時、わたしは靴下屋なんて卑しい職業だと思った。「このとき」の私は、今の、全裸で右靴下だけ履いてる私の姿を見てどう思うだろう。その右靴下すら、ほつれてなくなりかけていた。「見ないで……」腕で体を隠しながら、そう言うのに精一杯だった。「ゲヘヘヘヘ」このときの私は下品に笑った。「なによおおおおおおおおおお!! 馬鹿野郎、死ね! 死ね! 死んでしまえ!!」右手が熱く迸り、「このとき」の私を拳が貫き通した。「美事だ」「このとき」の私は言った。「勇気だけでは走り続けられない。恐れや絶望、後悔に屈してしまうだろう。いまお前に『殺意』を受け渡そう。ゴールにいく課程には必要悪もあるのだ……これを持っていけ」そこで目が覚めた。わたしは学芸大学の校門近く、裸の人たちが死屍累々と折り重なった中に座っていた。日は暮れていた。警官隊はわたしの前で銃口を並べていた。右手が重かった。と思ったら、アルミ缶のようなものを握っていた。「このとき」のわたしがくれたんだろうか。「抵抗するな死にたいですか」と警官は嘲笑する。わたしはアルミ缶のタブをひねって抜いた。火花がチョロチョロと吹き出てくる。警官は一瞬戸惑ったが「すてなさい」と強気。「よくも仲間を……」わたしの中に、いままでにない気持が膨れ上がっていった。「みんな死んじゃえ」アルミ缶は猛烈な勢いで火柱が立った。それは炎の剣のようであった。闇を切り裂く炎を浴びた警官はあまりの高熱に悲鳴を上げて転げ回る。仲間が水をかけたが、火は消えるばかりか飛び散って被害を広めた。「テルミット焼夷弾…………!!」わたしは己の武器の残酷に驚いた。警官隊は大混乱を起こし、非常線は崩壊した。慌てふためく警官の間を静かに歩きながら、「闘いはこれからよ」と、たった一人で進みはじめた。すぐ前には最終防衛線、高架線トンネルが迫っていた。「そこでとまれ」線上にいる警部が言った。「もうこれ以上、だれも死なせたくないなら、服を着るんだ」すると橋の下から斥候が出てきて近づいて、男物のジャンパーを差し出した。これをはおる図は許し難かった。わたしは斥侯とジャンパーを焼き払った。「天の真実をこの地上にも!!」わたしは走り出した。迫撃砲が発射され、爆発が起こる度に転がって回避した。アスファルトと砲弾の破片が飛び散り、体中を怪我して血が流れ出た。必死の思いで警部に向って思い切り投げたテルミットは、ブローニングM2重機関銃の掃射で撃ち落とされ、火の玉になって散った。あっけなかった。心を最後まで支えていた何かがなくなり、ふと、わたしはここがゴールなんだとおもった。あのテルミットとおなじように、爆発するように散ってみせる。その姿が、人々の心に刻み込まれれば、そこに勇気と、必要とあらば殺意を受取ってくれるだろう、それが生きる力だと、わたしは示した。そして、いつか誰かがもっと先にあるかもしれないゴールにたどり着ければ、それはわたしのゴールでもあるんだ……わたしは目をつぶり、両手を開いて空を仰いだ。警部はわたしの心境を察して、射手に射殺を命じた。激しい重機の爆音がわたしを包んだ。


(ここから下は非日記妄想)


 目を開けたら、天国だって、思ってた。でも場所はかわらずの小金井だった。そして目の前には、わたしを守って弾を一身に受けた「あのとき」の私がいた。「『あのとき』の……!!」「遅くなってすまねぇ……みんなの分…………作ってたら時間かかってよ……」振り返ると、倒れたはずの多くの同志が靴下をはいて凛と立ち上がっていた。「みんな……!!」「いくら裸がいいったって、裸足じゃ痛かろうよ」「あのとき」のわたしは血を吐きながら言った。「わたしのために……!」「勘違いするな。『俺』のためさ」皮肉に笑いながらそう言った。「いえもんはん!!」「やべぇ、家内だ」「店を3日も閉めてなにやってるのかと思ったら、まあ! こんな暴力沙汰に首つっこんでるなんて、バカもたいがいにしな!!」「すまねぇ、これだけは外せねえ用事なんだ」「まったく……アンタかい、うちの亭主を巻き込んだのは!」奥さんはわたしに言った。「す、すいません……ご迷惑おかけして…」「やれやれ、とんだ迷惑だよ! 警察まで出てきて! これじゃあ、奴らを叩きのめして騒ぎを止めなきゃ、おちおち商売もできやしないよ」「え?」奥さんは警官隊に向き直り、着物の懐から鎖鎌を取り出して振り回しはじめた。「靴下は全部買い取ってもらうからね!」奥さんは無愛想に言った。「……ハイ!」わたしは目に熱いものをためながら言った。「分かってきたようだな、最後に必要な感情を」振り返ると、「このとき」のわたしがいた。「どんなに勇敢でも、どんなに強くても、それだけじゃゴールは見えてこないさ。……もう気づいてるんだろう?」「……はい。はっきりと分かります。今の気持は……」「そう。闘っているのはきみ一人じゃないんだ」すると遠くから「そうともよ!」と声。東の道を振り返り、「あのとき」の私はびっくりした。「伊藤園じゃねえか!」「おう! 見ろよ、この傷。お前に撃たれた傷はもう消えないってさ。いつか俺と同じ目に遭わせてやろうって思ってたのによ、警官に撃たれただ? へっ情けねえや。お前がここで死んだら俺の怒りのやり場が無くなっちまうからよ、しょうがねえから手伝ってやるぜ」伊藤園はUZIサブマシンガンを抜いてくるくる回してみせた。さらに西の道から「ニャー」というかわいらしい声と、独特の臭いが同時に訪れた。「『猫』と『納豆』………!」猫「ニャーニャー」納豆「……………………」「あなた達も手伝ってくれるの?」「ニャー」「おっと、俺たちを忘れてもらっちゃ困るぜ!」北の道から、「炊飯器」「たこ焼き」「グラノーラ」「変な自転車に乗ったおばさん」が現れた。そして空には、虹のように国道20号線がかかり、村主章江と浅田真央がスケートで滑りながら降臨してきた。「みんなの力が………!」わたしは両手にいっぱいの「愛」を抱きしめていた。皆の愛のエネルギーを。「切れ! ゴールのテープを!」だれともなくそう叫びはじめ、すぐに大喝采となった。「わたし、やれる!!」私は愛を抱きかかえながら高架線に向って跳んだ。警部「ええい、撃ち落とせ!」次々と迫撃砲が発射されたが、わたしに触れる前に蒸発した。愛の塊となったわたしには何も通じなかった。「みんなの愛が、ゴールを切るナイフに変わっていく……」わたしは愛を切断エネルギーに変換した。群衆の闘争心、「あのとき」のわたしの鹿玉、奥さんの鎖鎌、「このとき」のわたしのテルミット、伊藤園のお茶、猫パンチ、納豆のねばねば、炊飯器の保温、たこ焼きのタコ、グラノーラのビタミン群、自転車おばさんの変なオーラ、トリプルリッツとダブルアクセルの合わせ技……みんなの力と気持が一つになって、高架線を貫通した。そこから垂直に波動がほとばしった。高架線は真っ二つになって、たちまち崩れていく。警部「うわあああああああああああっっ!!」コンクリートの塊が警部の頭蓋骨を砕き割った。そしてあらゆる兵器もがれきの中で朽ちていった。


 「……やったのか………」群衆の一人が言った。「やったんだ。俺たち、ゴールを遂げたんだ」「……でもあの人は?」「あの人はどこへ……?」わたしは戻ってこなかった。ざわつく群衆は、やがて「もしかして、あれは自爆だったんじゃ……」「バカ、そんな事言うなよ!」「じゃあ、どうして姿が見当たらないんだ…」と、不安をあらわにしはじめた。群衆の一人が、「このとき」のわたしにつっかかった。「あんたもしかして、こうなることを分かって、あの人にさせたんじゃあ……」「わかっていたわけではない。ただ、大きな愛も使い誤ると、身を滅ぼすことにはなる」「どういうことだ」「彼女は、みんなの愛を攻撃という形で使ってしまった。そこにはわずかだが、愛ではない感情が混ざるんだ。もし彼女がその邪念にとりつかれてしまったら……大きすぎる精神エネルギーに身体が耐え切れず、崩壊する」「やっぱりてめえ、あの人を当て馬に使ったんだな!!」「馬鹿野郎!」「このとき」のわたしはその男を殴り倒した。「おまえら、アイツが信じられねーのかよ!!」「だ、だってよ………」男はそれ以上喋れなかった。みんな、一抹の可能性に信じたかった。だが、残酷にも時間はただ過ぎていった。ゴールテープは切ったのに、虚しさしか残らなかった。ため息をつくもの、嗚咽するもの、自らの非力さに震えるものもいた。夜は深まり、やがて明け方となった。何かが起こってほしいとだれもが願っていた。だが崩れた高架線は沈黙を守り続けていた。


 やがて、東から朝日が昇った。それは、暗黙のうちに諦めるきっかけとなっていた。群衆はもそもそと立ち上がり、力なく帰ろうとした。伊藤園も、これ以上待つ義理もないと、立ち上がって、朝日を一瞥した。

 しかし、そこは、何かおかしかった。朝日の方に何かある。「あれは何だ?」伊藤園は群衆の一人に聞いた。彼は向きもせずに「市役所だよ」と言った。「違う、その上のあたりだ」伊藤園は声を張って言った。多くの人が振り返った。市役所のあたりに、雪のようなものが降っていた。「あっ!」浅田真央が素っ頓狂に叫んだ。「国道20号線がない!」浅田と村主の来た道が、元あったところになかった。「一体どこに……」村主があたりを見渡すと、市役所の上空で、雪のようなものが帯状に積もっていた。「あれは……」村主が駆け出すと、堰を切ったように皆走って向った。

 市役所の上に、虹のように国道20号線がかかっていて、その上からだけ雪が降っていた。皆呆然と地上から見上げるが、やがておかしなことに気づいた。降ってきた雪は、暖かいのだ。「もしかして、これは………愛?」風が吹き、国道の上の雲が流れた。国道の上に立っていたわたしは、吹雪のなかから下をのぞき見下ろし、皆に微笑んだ。「あの人だ!!」一瞬で歓声は全員に伝わった。まるで長い冬が突然春に切り替わったような、暖かく大きなものだった。もう誰も不安のための涙は流さなかった。国道上のわたしは裸ではなく、愛をつむいでできたローブにまとわれていた。ローブをひらめかせるたびにまわりから雲が生まれ、雪のような形になって降っていった。「このとき」のわたしは、それを仰ぎ見ながら不覚にも涙をこぼした。わたしは地上にも届くように大きな声で言った。「みんなの愛、すごいのよ。あの高架線を落としたのに、まだこんなに余ってるの」降りしきる雪状の愛は、地面に落ちるものもあれば、市役所に吸い込まれるものもあった。外壁には、すでに積もりはじめていた。「市役所に愛を分けるわ。これでこの街の政治はかわる、わたしたちが大切だと思うことを、市役所も大切だとおもってくれるのよ」愛はすでに市役所を深く包んでいて、朝日によってまばゆく輝いていた。ローブから一閃のオーロラが降り、群衆の上に落ちて散った。かれらはかれらのゴールテープを切ったのだ。愛の雪の降るあたりだけが、どこよりも暖かかった。


 「あのとき」のわたしは、少し離れたところに立ちながらそれを見ていた。「やれやれ、あれ、未来の俺なんだよなあ。参っちゃうよ」と言った。奥さんは鼻で笑った。「悪くないんじゃないかい」そばに寄ってきた猫が、急に暖かくなったので伸びをして、それから「ニャー」と鳴いた。





END

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少女列伝 阿修羅凶作 @kyo-saq

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