うだつがあがらない小柳さんと剣吉喫茶店

@nokma

第1話「珈琲が飲めない」

 珈琲が飲めない。物心ついた時からそうだった。

 珈琲は大人の味だからねと母親は言っていたが、本当にそうだろうか。そもそも珈琲を最初に飲もうとした人は、いったい何を考えていたのだろうか。豆を炒って、粉々に砕いて、お湯をぶっかける。どういう思考パターンをしたらそういう発想に行きつくのだ。紅茶や緑茶の発想も近いものがある。私の想像力では絶対その域にはいかない。

 その想像力がないから、今私はここにいるのだ。

 つい10分ほど前に降り立った駅前は、2年ぶりに帰った地元は、何も変わってはいなかった。

 彼は言ったのだから。

『小柳さんにはもっと想像力がなければいけない』と。

 例えば愛する夫を失った妻の役。無垢で何も知らない、幼い子供の役。


 いったい私は、何になりたかったのだろうか。

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