「俺はネット小説界のダンゴムシ」、作者はこう公言する。
昨今のウェブラノベでは全くメジャーではない、特撮、育成エッセイ、
それに捕獲した動植物を食するエッセイ。これが作者の強みだ。
どれも、ウェブ小説では傍流に属し、滅多なことでは日の目を見ることも
そうそうない。
でもそれがなんなのだろう?
自分から好奇心を抱いて、次の世代に移せるまでの飼育法を確立。
そこに、作者の愚直とも言える探求心を感じる。
一度レビュアーは作者に尋ねたことがある。
「なぜ、利益が出るようなものを書かないんですか?」
返答は「書きたいのはやまやま、でも書く時間がない。それよりも生き物を飼ってるのが。死なれた時は悲しいけど、卵を産んだとき、数が増えた時、それが何より楽しい」
最後に、本文を抜粋してこのレビューを締めくくりたい。
「いつも、命に祈る。これまで、死なせた命に祈る。これから、生きていく命に祈る。
自己満足と、また偽善と言われるかも知れない。
だが、祈りながら行くしかないのだ。今は。」
生き物の飼育日記というと聞こえはいいですが、実はこの作者様はかなり失敗もしています。
それでもあきらめず、色々な飼育に着手する反骨魂には脱帽です。
失敗が多いということは経験も多いということ。
失敗から学び次こそはと創意工夫と努力を重ね、生き物との対話を続けています。
彼らのことを注意深く観察し、彼らのために手間をかけて環境を整え、そして見守る。
相対する生物は生を存続させることで作者様に答えます。
共通の言語がなくてもちゃんとコミュニケーションができているんです。
人間の言語しか離せない自分には、理解できない作品ではないかとお考えかもしれませんが、そこはご心配なく。
物言わぬ彼らの言葉はちゃんと作者様が翻訳してくださっています。
しかも不思議なことに、かなり切迫した状況でも笑ってしまうほど面白いんですよ。
作品に取り上げられた『彼ら』の声に、あなたも耳を傾けてみませんか。
私も、青虫を虫籠にいれて、ちょうちょになって羽化するまで飼う、なんてのをやっています。そのくらいでも、とても面白いものです。
現代社会って、自然に触れることがありません。自然とは「思い通りにならないもの」。誰か、人間が頭の中で考えたものじゃなくて、人間の外側にあるものが自然です。だからわからないし、だからおもしろい。
わざわざ電車や車で遠くまでいかなくても、そこらへんでつかまえてきた団子虫でも、十分に「自然=思い通りにならないもの」を感じられるんです。思い通りにならないし、どうしたらいいのかわからないからこそ、この作者のように、いろいろなものを死なせてしまう。そういう経験から、自然って手に負えないものだなと、本当に理解することができるのだと思います。
「面白い!」に加えて、この作品の大きな魅力のひとつに「ためになった!」という要素があり、読む側の満足度を非常に高めてくれます。
さらに加えて「おいおい、ほんとに?」とツッコみたくなるエピソード満載なのと、ため息が漏れてしまうほどの生物へのあくなき探求心と情熱に呆れ、気がつけば最初から完読してしまうことでしょう。
おすすめは「ドブネズミ」「ハクビシン」「ショウジョウバエ」です。
最新更新分の「人間」を読むと(ああ、作者さん、普通の人なんだ。よかった。安心したぁ)とほっとしました(笑)
あ、訂正。やっぱり普通の人には書けませんわ。この作品!