第7話
(翌朝)
消「しかし、あっという間だったな。」
ト「そうですね。二日半ほど、ですか・・・でも何だか、収納箱にいる時よりも沢山のことがありすぎて・・・なんだかあっという間でした。」
消「ケラケラ。まあ、そのくらい君がお騒がせだったのは確かだな。うん」
ト「ご迷惑をおかけました。」
消「いいさ。お前さんのおかげで大分楽しかったよ。しばらく話のネタにも困らん。」
ト「あははっ。」
消「ところでお前さん、本当にそれでいいのかい?赤鉛筆たちじゃないが、別の場所に隠れて余生を過ごすこともできるんじゃないのかい?」
ト「・・・実際、それも考えました。ですがそれでは結局のところ、赤鉛筆たちとやっていることは変わらないんです。僕は生きていたいけれども、本来の役目から逃れて、削さんを片隅からこっそり見守るなんて・・・とても耐えられないんです。それなら、こっちに賭けたい・・・。」
消「ふうん。まあしかし、実際すごい賭けをするもんだな。お前さん、やっぱり変わり者だ。今まで会った中では一番の変わり者だな。ケラケラ」
ト「ははははっっ!喜んでいいんだか悪いんだか、です・・・あ、もうそろそろですね。」
消「おー、じゃあな!上手くいくことを願うよ。」
ト「ええ・・・色々ありがとうございました!」
消「礼には及ばん。わしはただ気まぐれで動いただけさ。ケラケラ・・・ケラ」
定「随分と寂しそうね、消さん?」
消「ん・・・そうかい?・・・気まぐれ屋だからな。こうなる時もある。」
定「いい子だったもんね・・・直情過ぎて、ちょっと危なっかしかったけど。」
消「お前さんが言えることではないがな。」
定「なっ、どういう意味よ!?」
消「ケラケラ。・・・そういうお前さんだって泣きそうじゃないか。あいつのやることが信用できないのかい?」
定「だって・・・・・・初めてのことだもん。あんなこと言い出すなんて・・・そりゃあ不安にもなるわ・・・。」
消「鬼定規とまで言われたお方が、今では随分ともの柔らかになりましたな。ケラケラ」
定「だってさ・・・。」
消「まあ、お前さん方が納得したんだ。腹を据えて決めたことだから、素直に信じてやらんかね?・・・その方がト君も心置きなくできる。」
定「うん・・・。そういえば・・・。」
消「ん?」
定「消さんって二ヶ月前に入ったばかりだよね?それでオジンっぽい喋り方してるけど、どうして?」
消「ん?ああ・・・気まぐれさ。ケラケラ」
定「また誤魔化すんだから。・・・・・・もうすぐ、だね。」
消「・・・ああ。」
男「もう、これでラストかなあ・・・。」
(グッ・・・・・・)
ト「この機会は・・・もう最後ですね・・・。」
削「・・・・・・うん。」
ト「・・・大丈夫です!僕はそう簡単には終わりません。終わらせてたまるもんですか。」
削「・・・・・・。」
ト「だから・・・信じて下さい。決して、僕も、削さんにも、後悔はさせないです。これ以外の言葉が出せないですが・・・大丈夫です。大丈夫なんです。」
削「・・・うん。」
ト「では・・・いきます。」
(ヴーーーーーーーン)
ト「クッ・・・んん・・・!!」
削「・・・まだよ・・・・・・。」
ト「はい・・・ッ!」
削「ア・・・ま、だ・・・・・・ッッ」
ト「ん、くっ・・・ん・・・・・・!!!」
削「・・・い・・・・・・今っっ!!!!」
ト「はいっ!!!」
(グンッ!!)
男「あっ!!引き込まれ・・・ッ!!」
(ヴーーーーーーーーーーン!!!)
ト「削・・・さん・・・あ、とは・・・・・・お願い、します・・・。」
削「わかった・・・信じているから・・・ト君を信じてるからね!!また・・・会おうね?」
ト「あ・・・たりまえ・・・・・・で・・・す・・・・・・削・・・・・さ・・・・・ん・・・?」
削「ト君・・・?ト君・・・・・・?」
ト「愛・・・・て・・・・・・・・・ま・・・・・・・・・・・・。」
削「私も・・・私もよ!・・・・・・ずっと・・・ずっと・・・・・・ト君・・・?・・・ト・・・君・・・・・・。」
消「準備は・・・終わったようだな。」
定「うん・・・あとは、あの子次第・・・。」
男「珍しいこともあるもんだなあ・・・鉛筆削りが全部引き込むなんて・・・。まあいいや。また新しい奴を・・・と・・・あれ?次のが入らない・・・?今のせいかな・・・あ〜あ、屑が相当溜まってらあ。こりゃ捨てないと・・・て、んん。かてえなぁ・・・結構溜まって・・・ん・・・のかぁぁ~~~~・・・んぬぬぬ・・・!!!」
(・・・・・・バカンッッ!!!)
男「うわあっ!!!!」
(モワッッ・・・)
定「・・・・・・は、は、あははははっ!!!削、上手くやったじゃない!!」
削「はぁ・・・はぁ・・・じ、定・・・う、うまくいった・・・?わたし、踏ん張るのに疲れちゃって・・・よく、見えないよ・・・。」
定「大成功よっ!!すごいわ!!!・・・ト君もがんばったね。あんなに高く、舞い上がって・・・ほら削、見上げてご覧よ!!」
削「はぁ、はぁ・・・・・・。わぁ・・・・・・。」
消「う~~~~ん、なんと言うか・・・もう積乱雲だな。」
定「しかも、黒だけじゃない・・・赤、青、緑、黄色、ピンク・・・。沢山の色が混じり合って・・・すごい光景・・・・・・。」
削「ト君・・・私の中に入った後、先に入っていた皆を説得できたんだ・・・ふふふっ・・・ト君らしい・・・。」
消「あの入った十数秒の間に?・・・はぁ、こりゃたまげた。」
定「・・・・・・削。これなら、本当にできるかもしれないよ。ト君の言っていたことが。」
削「うん・・・!」
削(昨日の夜・・・。)
定「一体・・・何なの?」
ト「ほとんど同じになりますが・・・僕を、削って欲しいんです。」
削「・・・そ、それって・・・・・・。」
定「前と同じじゃないのよ!!何も変わらないじゃない!?あんた、それじゃあ削がまた・・・。」
削「・・・・・・続きが、あるんだよね・・・。?」
ト「はい。」
定「え・・・?」
ト「削るまでは同じです・・・だけど、ここからが違います。」
定「ど、どういうことよ?」
ト「・・・ぼくは・・・・・・どの方法がいいのかと、いろいろと考えました・・・。削さんと共に終わりを迎えるかとか、主には見つからない場所に隠れて、彼女を見守っているかとか・・・。でも、それではいけないんだ。僕は役目から逃げるのではなく、終えた物として削さんと一緒に暮らしていたい。そこで、ある疑問に行き着いたんです。」
削「・・・何?」
ト「削さんが行ってきた、仕事で削った僕らの体は、果たして死んだモノなのだろうか?というものにです。」
定「うん?・・・よくわからないんだけど・・・。」
ト「つまり、僕たちの削られた体はバラバラになったとしても、働きを終えただけであって、別に死んだわけじゃない。繋がっていなくたって、僕の体はまだ僕自身のままなのではないのか。と・・・。」
定「なんか、分かりにくい話ねえ・・・。」
ト「承知の上で言っています・・・でも、僕たちはモノだ。生物じゃない。そこから考えると・・・これからやる賭けが成功する可能性も出てきます。」
削「原型が無くなっても、貴方は貴方のまま・・・?」
ト「たぶん・・・それは今の僕と同じではなくなってしまうかもしれない。でもそれは、削さんによってできた僕の分身に近いものになると思うのです。」
定「ふうん・・・・・・それがわかったからって、何か変わるの?」
ト「はい、その後の行動が、全く違うものになります。ただ、これは僕だけではできないんです・・・・・・削さん。」
削「・・・うん。」
ト「貴方に、協力して欲しいんです。」
削「わたしが・・・?」
ト「はい。削さんがいなければ、この賭けはできないんです。」
削「・・・話して。」
ト「削さんは、明日僕が削られるとき、何とかして僕の体を全て引き込むことはできないでしょうか?」
削「・・・できないことはないけど・・・タイミングを貴方と合わせれば・・・。」
ト「そうしたら、明日僕を全て削りきって欲しいんです。それも、できるだけ細かく。そしてお願いは・・・もう二つあります。」
削「・・・うん。」
ト「僕が貴方の中に入った後、主に粉々になった僕たちを取り出すように図って貰いたいんです。幸い、削さんのポケットは僕が来てから一度も取り替えられていない。そうすると、僕一本分が貴方の中に入ることになる・・・。」
定「それが、一体何に繋がるのよ?」
ト「・・・はい、それは最後に繋がります・・・・・・削さん。」
削「なに?」
ト「最後のお願いは、主にポケットを取り出される時・・・僕たちの入った中身を、ぜんぶ空中にぶちまけて欲しいんです。」
定「え・・・えええ!?な、何考えてんの?」
ト「そう・・・ここからが賭けの内容です。バラバラになった僕は中に入ったあと、引き出された動きをうまく利用して、できるだけ高く飛び上がる。芯の部分などは細かいから、一度飛んだ後も、しばらく空中に留まれるでしょう。それを使い、僕たちは仕事場として働いているこの机に霧散し・・・体を食い込ませる。」
定「と・・・取り込むってこと?」
ト「そんな大層なものではありません。表面にしか入れません。ですが、この机にはいくつも傷や隙間があるから・・・上手くいけば、そこに細かくなった僕の身体の一部をできるだけ多く食い込ませることができる・・・。加えてこれは僕だけじゃなく、それまでに削られた他の鉛筆たちも説得して、できるだけ多く、一斉にやってみようかと思うんです。」
定「な・・・なんだかすごいね・・・。」
ト「はい。ただ削さんには大分無茶を押し付けてしまいますが・・・・・・。」
削「・・・もし仮に成功したとして・・・・・・ト君?」
ト「・・・はい。」
削「私は・・・また貴方と話せるように、なれるの・・・・・・?」
ト「そこは・・・まだ、わかりません・・・・・・ですが、二度と話せなくなるよりかは・・・話せなくても、姿かたちが変わろうとも・・・生き続けられさえできれば、削さんのしていることの重荷を少しでも取り除けると思ったんです。」
削「いつかは・・・話せるようになれるって・・・約束してくれる?」
ト「・・・・・・貴方の為なら、なんだってします。」
削「信じて・・・良いんだよね?」
ト「・・・・・・はい・・・!」
(バタバタッ、バタッ、バタバタッ)
男「なんで、こんないきなりっ!!うあ・・・あっっ・・・えっくしっっ!!ずー。あ~。なんか最近こんなんばっかだなあ・・・ついてねえ・・・・・・。」
定「あはははっ、なんかあの主、何だか可愛いわね。」
消「可哀相と言ってやってはどうかね?まあ、間抜けには見えるが。」
定「うん・・・煙も・・・・・・大分収まってきた・・・。」
削「あの中に・・・ト君がいるんだよね・・・。」
定「・・・そうよ・・・・・・。」
削「もう・・・話せないの・・・かな・・・・・・?」
定「・・・・・・っこらあ!!あんた何言ってんのよっ!!」
削「・・・え?」
定「好きなんでしょ、ト君のことが!なのに、削がそんな弱気になってどうすんのよ・・・ト君は、あんたのことを信じているんだから、あんたもそれに応えてあげなさいっ!!」
削「・・・う・・・・・・ん・・・。ぐすっ」
定「納得して待つって決めたんでしょう!だったらそんな涙ぐんでないでビシッと待ってておやんなさい!そうじゃないと・・・ト君が心配するでしょ!」
削「それって・・・どっちかというと待たない方に言う・・・。」
定「いいのよっ!時間はまだたっぷりあるんだから・・・気長に待っててあげなよ。あの子がいつか落ち着いて、話せるようになるまで、さ・・・。」
削「定ちゃん・・・ありがと。でも・・・定ちゃんも涙出てるよ?・・・ぐすっ。」
定「ぐすっ・・・うっ、うっさい!あーもー・・・貰い泣きよこれは・・・もー。・・・ぐすっ。」
削「ぐすっ・・・く、んくくっ。」
定「・・・ふふっ。」
削「ふふふっ、あはは・・・っ!」
定「はは、あははは・・・っ!」
削「あはは・・・はぁ。・・・そうだよね。ト君は、私の笑った顔が好きなんだもんね。いつまでも、こんなくよくよしてちゃ・・・笑われちゃうよね・・・。」
定「うん、そうよ・・・あんたは、ト君にとって・・・とびきり大切な存在なんだから・・・。」
削「・・・うん!」
削「(スゥッッ・・・)おーいっ!!!ト君っ!!!聞こえるーーーっ??わたしは・・・ずっと待ってるからっ!!あなたといつか話せることを、楽しみに待ってるからっ!!!そして、信じてるっ!!!だから、ト君も頑張ってっ!!!はやく・・・また・・・話せるようになろうねーっ!!!・・・。」
定「・・・すっきりした?」
削「うん。すっきりした。」
消「・・・・・・さあて、お前さん方。どうやら殿様も落ち着いたようだ。また、仕事に戻ろうか?」
定「そうね。じゃあ削・・・いこっか?」
削「うん!」
消「・・・なかなか、甘酸っぱいものにはどうにも敵わんね。傍目で見ても照れくさくって仕方ないもんだ。ケラケラ」
トンボ鉛筆がベタ惚れしたようです かくぞう @kakuzou
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