エピローグ
上層の塔。へばりつくように設置された桟橋に飛空艇が停泊している。既に乗客のほとんどは飛空艇に乗り込み、桟橋は閑散としている。そんな出発間際の飛空艇を前にして、ノッポとVは向かい合っていた。
「本当にいいのか?」
「うん」
「ここで暮らしたっていいんだぞ」
「うん」
「市民権だって与えられるし、お前が望むなら誰かの養子になることだってできるんだぞ」
「うん」
「それでも行くんだな」
「……うん」
少しだけさみしそうに顔を伏せたVの頭に手を乗せて、わしゃわしゃと撫でてやる。
その時、Vの胸のシャツの間から、チビがひょっこりと顔を出した。
「しつこいぞ、ノッポ。しつこい男は嫌われるぞー?」
「う、うるさいな! こっちは心配して言ってるんだぞ!」
あの後、マクディーン中将は違法な研究を推し進めていたとして、逮捕された。これは噂だが、元々メアリー女王とマクディーンは敵対していて、互いに相手を蹴落とす機会を探っていたとかいなかったとか。……まあ、噂は噂だが。
これまで自動人形にされてきた人たちへの対応も行われた。どうやら、脳をそのまま使っているため、命令系統さえ破壊してしまえば、元の人格を取り戻せる可能性もあるそうだ。……もしかしたらエリックも帰ってこれるかもしれない。今は研究が進むのを待っている状況だ。
それから、ククたち「兄弟」への援助も行われることになった。女王も下層の貧困は知らなかったようで、下層全体への資金援助を行うことになったのだ。
とはいえ、規模が規模だ。どんなに資金援助を行ったところでそうすぐには状況は変わらないだろう。あの中央炉の老人がどうなったのかは俺には分からない。でもきっとこのまま一生あの場所で暮らし続けるんだと思う。
そういえば、アランのおっさんも生きていた。昇進の話もあったらしいが、何故か蹴って、下層に残ったそうだ。「しぶとい奴だな」とククは言っていたが、その時嬉しそうな顔をしていたのはまだ指摘できていない。
そうやってほんの少しだけ世界は変わった。
飛空艇の出発時間が迫り、二人は慌てて飛空艇へ駆けていく。その背中に、ノッポは声をかけた。
「じゃあな、二人とも! Vもチビも元気でやるんだぞ!」
「おう、ノッポも元気でな!」
「またね」
一度だけ振り返り、二人は飛空艇の中に消えていった。
「なあV、俺たちこれからどこへ行こうか」
「どこかに」
「なんだそりゃ。曖昧にもほどがあるだろ」
「でもまあ、お前と一緒ならきっとどこでも楽しくやっていけるだろうさ」
ドラゴニック・オートマトン 黄鱗きいろ @cradleofdragon
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