舞台は霧でぼやけたしけた街。でも、サングラスをかけると途端に煌びやかなネオンサインがオーバーレイ、これは見事なAR。薬や銃に怪しい企業、各国のヤクザも取り揃えて立派なサイバーパンクです。
ストーリーはマフィアのパシリが、ある日追われる謎の少女(+喋るぬいぐるみ)を助け出し……という、正に王道。文体やガジェットの解説に硬さや難解さは無く、むしろするすると入って来て自分も「霧の街」の住人になったかのような気分になれました。
本作の魅力はキャラクターです。「ニューロマンサー」以来、サイバーパンクと言うと、クールな性格や乾いた人間関係が一つの類型となっていますが、本作は真逆。主人公のトシロウは冷めたフリをしていても深い優しさを抱え、またよく悩む一人間です。ヒロインのアンバーちゃんとの掛け合いはもう……いじましく、愛らしさに満ち溢れています。年齢差のせいでロリコン呼ばわりされたりもしますが。そしてアンバーちゃんの方は、もう本文を読んでくれと言う感じの小動物の塊みたいな存在で、目が離せない純粋さと危うさです。かような二人の中が自然に深まるにつれ、読者にも自然とこの先訪れるであろう試練に緊張しながら先を読み進められるわけです。設定や題材の冷たさ・酷薄さに対立するようなキャラ達の暖かさをしっかり感じられる本作をどうぞ皆様も読んでください。
ジェムと呼ばれる合法ドラッグがまん延する犯罪都市を舞台に、犯罪者だが人のよい青年、トシローと、彼に保護された謎の少女、アンバーが活躍するSF/アクションストーリー。
トシローは必要以上にしゃべらないタイプの男だが、アンバーや彼女が持つ動くぬいぐるみ、オウルバニーとの掛け合いはテンポがよく、それぞれのキャラクターを引き立て合っている。
初めはまるで機械人形のようなアンバーが、トシローとの生活でどんどん人間らしくなり、トシローもまた、アンバーと触れあうことで大切なものに気づいて行く。
彼らの周りに集う他の人物達も、一癖もふた癖もある者達ばかりだ。
彼らが巻き込まれるさまざまな犯罪は、やがて一つの大きな事件に繋がって行く。それは、霧の都の根幹に関わるものであった。
拡張現実とは? アンバーの正体とは? 街を裏で牛耳る巨大企業とマフィアを相手に、謎を解き明かしていく。
ハードボイルドながら、読み手を退屈させない軽快なノリもある作品だ。
SF、アクション、裏社会、青年と少女の絆、男の友情。こういったものが好きな人に、ぜひおすすめしたい。