第1章 誘拐 - 密室(1)

暗い暗い闇。父はもぬけの殻のような姿だった。服と父の骨は無く、まるでゴム人間のようだった。うつ伏せで顔はまるで見えない。たぶんこの景色………これは私が祖母と叔母の話から、勝手に作り上げた父の亡骸だ。




父の名前は今だに誰も教えてくれない。





景色は変わらず父の死体と暗闇ーー。












さむい。ああ何て目覚めが悪い。


そして、どうしてか歯が痛い。そういや私歯ぎしり酷いんだよね。寝ると特に前歯が痛くなるよね。


「つーか身体中いたいわ。いつの間にか起きてるし。え、てかここどこ?」


ふと心臓の心拍数が激しくなっていることに気付く。として口の中が血の味……。


「あああーー!歯がーー!最悪!」


そして冷たく濡れたコンクリート。空は暗い。


「うわぁ……まじかよ。誰だよー!外に私を放り投げたやつー!」


自慢の野太い声で叫ぶ。口の中が血の味で最悪………。すると周りがぐわんぐわんと自分の声で響いた。


「え?うそ密室?」


いま学校じゃ無い何処か。人がいない。口の中血だらけ。身体中痛い。密室。


「………誘拐?嘘だ。だって、トイレに誰かいた?まさか、そんな。そんな。そんな。そんな。そんなそんなそんな……。」


心拍数がさらに早くなっていって身体中が震える。必死に震えを抑えて、呼吸は荒く、そして叫んだ。


「嫌だ…………嫌だ。絶対いや、いやいやだっ!いやだ!!お父さんみたいに死にたくない!!誰かーー!助けてーーーーー!お願いーーーー!お願いーーーーー!助けてよーーーー!!」


びしゃびしゃのコンスクリートを壁伝いにはしって、大きい声で泣きじゃくった。こんなに大声出したの火事の時以来だ……………。


「だぁぁぁぁれぇぇぇぇぇかぁぁぁぁぁぁ!!!!!!うっげっほ」


喉が潰れるわ馬鹿野郎。だーーーもーーー誰か…。寒い。絶望感の後に来るこれ寒い。なんだこれ。


「もうやだ……もうやだ………」


多分殺人鬼がきて私を剥ぎ取りに来るんだ。もう終わりだ。もうだめだ。終わりだ。

涙やら汗やら鼻水やら、何が何だか分からなくなるぐらいびしょびしょになっていって、体も汗や泥水やらで悲惨なくらい濡れた。部屋は私の嗚咽だけが響く。


しばらく私はうつむいていると、天井や床、四面の壁を叩かれているんじゃないかというぐらい激しく部屋が揺れた。



………………だだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだ


「あっ?!え?!!ひっ………うっ……じ、地震…?!…うっ……うっ」


「まさかこんな部屋で、1人で死ぬのかよーーーー!!嘘だろーーー!」


…………………だだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだだ


思考は停止していた。私は両手で目を閉じて、コンクリートの壁に寄りかかった。呼吸は荒くて酸素と二酸化炭素なんてどうでもいい。ただ落ち着けるところがほしかった。


気がつくと、ワンテンポの静けさが部屋に広がる。次の瞬間、「ボットン」とボットントイレに大量のうんこを落としたんじゃないかというぐらいと音がした。

すると、指の隙間から微かな光が漏れるのが見えた。次は爆発かとおもって上を見上げると、水銀灯なのか、それはゆっくりと部屋を照らした。煩わしさはなかった。光がこれほどまでに私を感動させるなんて、



いや、それよりもだ。



これは夢なのだろうか。夢だと良いな。

どうして目の前に龍太郎がいるんだろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

あの日の冬虫夏草 石時春 @Campuskokuyo

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ