82_Met...it...x_NN_空に還るものたちへ
ブラウン管テレビに短い手足が生えたような小さな何かが動いている。
実は小さな身体に対して妙に段差が厳しい階段を何段も転がり降りて、階段の踊り場で普通なら曲がらない方に曲がって道なき道を進んできた。
どこかの世界で見るペットボトルなるものに似た物を、背の高いゴミ箱のような装置に一生懸命入れようとしていた。
{ちゃんと拾って入れないとダメジェミ。そもそも投げるのは手が短くて無理ジェミ}
世界はその客人を忘れる。
でもどうしてか、私はこの個体に引き寄せられた。覚えるくんは3つだけ、言われたことを覚えられる装置だ。
「あら可愛いナビゲーターさんね」
誰かの声がした。
『これを拾えばいいの? 手伝うぜ』
「不思議なことをするのですね」
振り返ると、思い出せない、でも敵ではないはずの人影が三つ微笑む。
そう、確かあの人は不思議なことをする人だった。
3つのペットボトルを皆が拾ってくれてゴミ箱の口に入れられた。ポール状の繊細な装置が姿を見せて覚えるくんが起動する。
{覚えるくん、覚えていることを教えてジェミ}
「うん、今覚えていることを教えるよ」
『①ミーちゃんは狭いところが好き』
ミーちゃんは多分ネコだ。でもこれじゃない気がする。
『②私の役目はもう終わり。でも撤去からはしばらく守ったよ』
覚えるくんにも色々あったのだろう。ただこれでもない気がする。
『③「ジェミーしりとりをしよう」
あ、
{え? しりとりジェミ?}
「さよう、しりとりでございます」
“しりとり”なんて定義データ、私は最初持っていなかったはずだ。
「じゃあいくよ。リンゴ」
そう、こんな声で、
{ゴマジェミ}
「む」
{……次にハルカから何を聞かれるかよく分かるジェミ}
そう、そうだ。やっと名前が思い出せた。
あなたはハルカという名前だった。
{ハルカ、もう一度あなたと、しりとりがしたいジェミ――}
涙が出るとはこんな感じなのだろう。なんて幸せで、想いが溢れて。世界が見えなくなっていく。
仮想箱_synonym kinomi @kinomi
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