仮想現実の世界で出会った掛け替えのない人

深見真45歳。昔はSF小説が大好きで作家になる事を夢見ていた少年は、父の敷いたレールを進み、医者としての人生を歩んでいた。
未知のウイルスの対策チームに入り、見事治療法を確立させた彼は間違いなく名医。人生の成功者を呼べます。

しかしちゃんと夢を終えなかった事は心残り。父の敷いたレールの上を進むばかりの人生にはどこか引っかかりを覚える。
そんな彼は現実世界を忠実に再現された仮想現実の世界へと足を運びます。そこは1993年の東京を再現した世界。当時学生だった深見も当時と同じ姿で再現されています。ここで再び、夢に挑んでみるのです。

叶えられなかった夢を追って仮想現実に行く。とても熱い展開です。しかし話はそれだけでは終わりません。出版社に小説を持ち込んだ時に偶然出会った女性、岡安かをり。この出会いが、今後の彼の運命を大きく変えることになるのです。

現実とは違う仮想現実。しかし現実とは違うからと言って、物事を都合よく進ませられるわけではありません。困難が降りかかってきても、あくまで一人の人間として立ち向かっていかなければならないわけです。
岡安かをりと出会ったことで、深見は今までにない困難に直面し、同時に彼女を助けたいと強く思うようになります。
その描写がとても見事で、最後の方は読む手が止まらなくなりました。

医者として成功を収めた男が、夢を追いかけて行った仮想現実で何を思ったのか。
悩みながらも奮闘する深見がとても熱く、心を撃つ物語です。

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