ぼくはサンタさんを許さない
霜月トイチ
ぼくはサンタさんを許さない
――ぼくは昨日、サンタさんなんて本当はいないことを知った。
もうすぐクリスマスのある日、小学校の友達が言ってたんだ、
「サンタさんなんているわけないよ。だってあれ、お父さんとお母さんがプレゼント置いているだけだもん」
それにぼくは「知ってるよ」と答えた。
知らなかったけど「知ってるよ」と答えた。
だから家に帰って探したんだ。お父さんとお母さんがクリスマス用のプレゼントを用意しているのかどうか。
そしたら、あったよ。
見つけるのに三日くらいかかったけど、廊下の物置の奥に、ヨーカドーの大きな袋に、それは入っていた。
そして、気になって中身を見てみたんだ。僕の頼んでおいた『DX妖怪ウォッチタイプ零式』が入っているかどうか。
そしたら、なかったよ。
入っていたのはもっと前に出た古い型のやつだった。
……コレジャナイ。こんなの、要らない。
ぼくは泣きそうになった。
ずっと楽しみにしていたサンタさんからのプレゼントが、ぼくの欲しいものではなかったから。
でも涙を流すのは我慢した。
――それでも、サンタさんはぼくん家にやってくる。
クリスマスの日、朝起きて枕元を見ると、そこにはプレゼントがあった。
中身はやっぱり古い方の妖怪ウォッチだった。
それを見た瞬間、ぼくはもう泣くのを我慢できなかった。
コレジャナイ、コレジャナイとわんわん泣いた。
そんなぼくを見たお父さんとお母さんは、
「これだって別にいいじゃないか」
とか
「ほらここ押すと光るんだよ」
とか言ってきたけれど、ぼくはそれでもコレジャナイと泣き続けた。
ずっとそんなことをしているうちに、怒鳴られた。
「そんな風にしていると来年からサンタさん来ないよ!」
怖かった。
だからぼくはその古い妖怪ウォッチを大切にしようと思った。
ずっとずっと、大切にしようと思った。
ずっとっていうのはずっとだ。
将来大人になって、
結婚して、
子供ができるまで、ずっとだ。
……でも、ごめんなさい。
ぼくは良い子じゃないみたいだから「これはぼくの欲しかったものじゃないけど、お父さんとお母さんがせっかく買ってきてくれたんだ」なんて――――全然思っていないんだ。
ぼくはね、
将来大人になって、
結婚して、
子供ができたら、
クリスマス前にその子と一緒にヨーカドーに行くんだ。
そして自分の子供が自分の目で見て選んだものを、クリスマスプレゼントとして買ってあげるんだ。
ぼくはね、お父さんやお母さんみたいに自分の子供に「良い子にしてればサンタさんがプレゼントをくれる」なんて、そんないつかは必ず壊れてしまう〝夢〟なんか見せないんだ。
だって学校の先生が言ってたよ。『〝嘘つき〟は泥棒の始まり』だって。
そう。ぼくはね、自分の子供に「良い子にしてればサンタさんがプレゼントをくれる」なんて、そんな〝嘘〟はつかないんだ。
だってそんなの、子供が可哀想じゃないか。
そんな夢を見せるのに……いや、そんな嘘をつくのに、一体何の意味があるっていうの?
たぶんさ、サンタさんに夢を見ているのは、本当は大人のほうなんだ。
大人が勝手に『自分は子供に夢を与えている』っていう夢を見てるんだ。
こんなのはただの大人の自己満足だよ。
子供を利用して気持ち良くなっているだけだよ。
何で大人はみんなそれに気が付かないの?
大人は何でも知っているんじゃなかったの?
ぼくたち子供はね、実はサンタさんの存在なんて――――どうでもいいんだよ?
子供は誰も『良い子にしてればサンタさんがプレゼントをくれる』なんていう〝夢〟という名の〝嘘〟なんて求めていないんだよ? 知ってた?
だってぼくたち子供が求めているのはいつだって、
――『今一番欲しいオモチャ』だけ、なんだから。
それをくれるのは、別にサンタさんじゃなくてもいいんだ。
ぶっちゃけ誰でもいいよ。
お父さんでも、お母さんでも、おじいちゃんでも、おばあちゃんでも、誰でもいい。
だからね、ぼくはこの妖怪ウォッチを大切にするんだ。
将来大人になって、
結婚して、
子供ができて、
その子と一緒にヨーカドーに行くまで、
ずっとずっとずっと、大切にするんだ。
――今のこの悲しい想いを、絶対に忘れないために。
ぼくはね、『良い子にしてればサンタさんがプレゼントをくれる』なんて〝嘘〟をつく大人を――――、
絶対に許さないし、そんな大人にはならない。
了
ぼくはサンタさんを許さない 霜月トイチ @Nov_11th
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