これから! これから 7

時刻は六時。

 夕日に染まり始めた『ココロナ』の町。

 舞陽の写った写真は二十枚ほど撮れた。誰も写っていない背景だけのやつも入れれば、おそらく五十枚ぐらいはカメラに収めただろう。

 今は僕、小春、舞陽で『ココロナ公園』にいる。

 町の名前を付けられたこの場所は、広くはないが狭くもないところで、遊具はブランコとシーソーのみだ。

 ここで最後の写真を撮ろうと思う。二十枚も収めれば、レポートには十分だろう。

 持っているカメラをブランコに向け、カシャ。シャッターを押す。

 まずは、背景だけのものを一枚撮った。

 次に横にいる舞陽の写真をカメラに収めたい。

 だが、普通にその趣旨を言っても、面倒くさがってしまうので、とにかくべた褒めする必要がある。

 今日一日で、彼女にどれだけ賞賛の言葉を送っただろう? 

 ........軽く二十回以上は言ったな。

 「舞陽も写らない? きっと、舞陽のいつもキラキラした感じが、夕日でさらにギラギラするよ!」

 何言ってんだ? 僕は。

 自分で言って、自分で笑いそうになるのを奥歯を噛み合わせ堪えた。

 「しょうがないなぁ。ちっとだけだよ」

 はい、でました。お得意のドヤ顔ですね。

 鼻の穴、少し膨らんでんぞ!

 舞陽がブランコの前にと駆けていく。

 隣にいる小春は今日はずっと静かだ。何回か体調のことを聞いてはみたけれど、首を横に大きく振り、『元気でござる』そう言うばかりなのだ。

 ブランコの前で、能天気シスターはお手手を絡め組み、お祈りのポーズ。

 僕はそこにカメラのレンズを合わせ、

 「いくよ! はいチーズ」

 カシャ。両目を瞑り、お祈りする舞陽の写真を収めた。

 ........その姿は夕日のせいだろうか? 少しだけ神々しく見えた。

 「ありがと、そろそろ写真も集まったし、ここらへんで終わりにするよ」

 そう、僕は少し離れた舞陽に呼びかけた。

 初めての依頼を全うできたということで、声がウキウキしているのが自分でも分かる。

 「んじゃあ、報酬出たら奢りな!」

 もちろんさ。ほとんど、お前様のおかげでなのですよ!

 自然に笑みがこぼれた僕は、視線を二人に一回ずつ送ると、

 「もちろん! 今日は二人共ありがと」

 心の中にある言葉を口に出した。

 「........こっちこそ、役に立たずで面目ない」

 隣でささやく小春の顔は笑っている。

 「そんことないのに」

 けれど、なんか遠くに感じた。

 笑顔というよりも、笑った顔で作られた人形の顔を見ているようで........。

 

 そこに喜怒哀楽の『喜』はなくて、それで........それで........。


 「ちょっと、紺太だけこっちおいで!」

 考えをめぐらしていると、舞陽が呼びつけてきた。

 なんだろう? 

 僕は小春に顔を向ける。「ちょい待っててね」

 「うん」

 彼女は少し弱々しく首を縦に振った。

 小春の仕草一つ一つが気がかりで........。

 傷つけてしまいそうで、深くは聞けなくて............。

 もどかしさは雪のように心に積もる。

 ねぇ、今なにを思っているの?

 できることなら、小春の心を解剖して見てみたい。

 カラクリ人形のような笑みは、なにを意味しているの?

 そんなことを思いながら、ブランコの前に着いた。

 「どうした?」

 僕がそう問いかけると、舞陽は『ダメダメ』を罵るように微かにほくそ笑んだ。

 「分かってない。分かってないよぉ、紺太」

 分かってない? 

 「;;なにが?」

 「ふむふむ、君は世紀のおバカさんだね」

 だから、なんなんだよ。

 「なにが言いたいんだよ! 簡潔に言ってくれよ」

 舞陽はため息をつくと、僕に近づき、

 「じゃあ、今日の小春どう思う?」

 耳元で小さくささやいた。

 赤のサイレンが鳴るように、心の温度が上がるのを感じた。

 目の前にはドヤ顏のシスター。僕よりもずっと、小春と一緒にいた時間は長いはず。

 食い付くように、

 「小春の様子がおかしいのはなんでだ?」

 すがるように僕はささやいた。

 「そんなの普通に考えれば分かるじゃん」

 普通に考えて分かんないから聞いてんだろ!

 「教えてよ」 

 「ダメ、それじゃ小春に胸を張れないでしょ? 自分で考えて、自分で解決して。問題は紺太にあるんだから」

 問題は僕にある?

 今日、小春にひどいことをしたか?

 いや、優しく接するように今日は心掛けていたと我ながら思う。

 「........わかったよ。自分で解決するさ」

 「へぇ~ できるといいね。そんじゃあ、私は帰る」

 余裕しゃくしゃくといった感じの舞陽の姿。

 彼女の考えも全くわからない。

 このタイミングで帰るだと? 自分の顔が引きつるのを感じた。

 「いきなり過ぎだろ!」

 「帰る。今日はもう疲れた。一人で帰る。『聖女騎士』様の像にお祈りしなきゃ」

 なんて、わがままなシスターだ。

 「もういいよ。勝手にしろ」

 流石に少し頭にきて、意地で投げ捨てるように言葉を漏らした。

 今二人にされたら、小春との間はおそらく気まずくなる。

 そのことを、目の前にいるシスターは分かっているはずなのに。

 「あっそうそう。お前、私の写真ばっか撮りすぎ。どうせ『鈴っち』の差し金だろ? 分かってんだからな! お見通しなんだからな! 今回ばかりじゃないんだからな! まぁ、歪んだ愛情を受け入れるのもシスターの務めだし、それに関しては悪い気はしないけどな」

 ........鈴川さん。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

Lv999の次期魔王は魔王になりたくないんで家出することにしました。 もちもちおもち @motimotimotitmotiomoti

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ