第25話

時は進み、時刻は正午を過ぎた頃。

馬鹿みたいに広い校内を歩き回り、他生徒からの視線を集めながらやっとのことで食堂へ辿り着いた俺とスー。


「人多っ!」


てか食堂広っ!

まるで巨大ショッピングモールのフードコートみたいな広さに驚いた俺は、運良く空いている四人テーブル席を確保すると、スーを膝上に乗せた。


「さて、どうやって飯を買いに行こうか」


100以上はあるだろうテーブル席が生徒でいっぱいの今。ここで俺とリーラが席を立ったら、間違えなく肉食動物の様に目をギラつかせて席を探している生徒達に取られるだろう。


スーを残す?却下だ。

今現在リーラはその姿故にかなりの視線を集めている。俺がいても構わずに声をかける奴らがいるくらいなのだ。

スーを一人残したらロリコンと化したハイエナ共が近寄ってくるに違いない。

逆も然り。


何か持ち物でもあれば良かったのだが、生憎今は置けるような物が手元にはない......ない?


「...あ、いや待てよ? 確かステータスカードの中に......あったあった」


俺はゴブリンの耳やら今まで倒してきた魔物の部位をテーブルの上に乗せた。

勿論ステータスカードに入った魔物の部位などは綺麗になっており、血などは付着していない。

これでも置いとくか、と部位を置いた後立ち上がり、改めて部位を見る。

...食事の場には最悪だなこれ。


現に、俺が魔物の部位を取り出した瞬間は周囲は驚いていたが、今はドン引きだった。


......明らかなチョイスミス。

冷たい視線にいたたまれなくなった俺は、無言で魔物の部位を仕舞うと、スーを連れてその場を後にした。

-------------

「最初からこうすりゃ良かった...」


学園の外にあるベンチに腰掛けて、俺とスーはハンバーガーを食べていた。

何故ハンバーガーがここにあるのかと言われると、それはもうアレである。超便利魔法の創造魔法のお陰である。


食べてみると本来の味とは少し違うのだが、やはり美味しい。創造魔法は俺が創造した通りの味で出てくるので単に俺の味覚のせいだ。が、まぁ美味しければ何でも良しと割り切る事にする。


「美味しいか?」


「うん!おいしー!」


スーもご満悦の様で、とびきりの笑顔を向けてくる。

あぁ...女神様や。


そんな感じで食事を続けていた俺達に、正面から2人組の男がやってきた。

見たところ、俺と同い年くらいだが...。


その男達は、俺とスーの前に立つとニヤリと笑みを浮かべる。あ、この笑みはアレだ。いつもの奴だ。

何を言われるのか分かっていた俺は、その2人組が話す前に口を開いた。


「無理だからな?」


「は? いや、何言ってんの?」


「いやいや、どうせスーの事だろ?」


「スーってこの子か?だとしたら違うから」


「...え? あ、そうですか」


やっべー...マジで恥ずかしいんだけど。絶対笑われるよこれ...


しかし、男は馬鹿にしてくる様子は無く、俺に用があると言った。


「...でー、俺に用とは?」


「さっきお前がステータスカードから出した物って本物?」


物というと魔物の部位だろうか。


「まあ」


「全部お前らでやったの?」


「そうだけど」


「そうか...なら俺達と勝負してくれね?」


え、何で?展開が急すぎて分かんねぇ。


「何でだ?」


「俺はこの学園を卒業出来なくても冒険者になるつもりだからよ、先に冒険者の腕を知りたいわけ。あんだけ魔物を倒したなら結構強い奴ってのは分かるし」


「ほーん」


「で、勝負してくれんの?」


そう言って、男は首を傾げた。

そんなの当然決まっている。


「やだよ、面倒臭い」


そう答えた後、ハンバーガーの最後の一口を食べた俺は、同じくポテトを食べ終わったスーと校舎へと向かおうと足を進めた。


「スー、午後の授業は実技らしいから手加減しろよー」


「じつぎってなにー?」


「えーっとな、授業で習った魔法とかを実際にやる事だ」


実技の意味は違うが、今回実技で習うのはその内容だしあながち間違っていないだろう。

スーは手を挙げ「わかったー!」と元気良く返事した。


...にしてもさっきの奴ら、何か言ってくると思ったけど...俺の思い違いか。

振り返っても、ベンチで座ってこちらを見ているだけだし襲ってくるってのも無さそうだな。


結局、俺とスーが教室へ帰るまで男達が現れることは無く、授業開始のチャイムが鳴り響いた。


皆が次々と席に着き全員が揃うと、ミキナミが話を始めようと口を開く。


「これから実技の授業に入るわけだが、実技専用の場所があるから私に続けよー」


ミキナミが教室を出ていくと、それに合わせて周りの生徒達も教室を出る。


「スー、行くぞ」


「うん!」


俺達も後を続こうと廊下に出ると、見知らぬ生徒達も俺達と同じ方向に歩いているのが見えた。


「合同授業か」


「ごうどうじゅぎょー?」


「あぁ、他のクラスの連中と一緒に授業を受ける事だな」


「ゆーたなんでもしっててすごいねー!」


「はっはっはっは!そうだろうそうだろう!」


ま、実際には誰でも知ってるんだけど、スーの評価を更に上げるチャンスだから他の人も知ってる何て絶対言わん!


そんな事を思いながら俺達は外へ出た。恐らく実技専用の場所というのはあの大きな建物なのだろう。

一見体育館に見えるが、何か建物を覆うように膜みたいな物が張っていた。


生徒達に続いて、俺達も中へ入る。

中は、これまた体育館と殆ど変わらないのだが、驚く事にこの建物の大きさを軽く超える程の広さだった。恐らく魔法なのだろう。


俺と同様に驚いている生徒達を見て、今期の入学生である事が伺える。

って事はそれをクスクス笑いながら見てるのは、中等部から進級してきた奴らか。


「はいはいお前らー。各クラス順に並べー」


台の上にいるミキナミの言葉によって、皆列を作り始めたので俺とスーも列の一番後ろに並ぶ。


皆が並び終わったのを確認したミキナミは、授業の内容を説明し始めた。


「えー、今から実技の授業を始めるわけだが、新入生もいるのでこの実技の授業について説明しよう」


そう言って、実技の有用性や何やらを説明しだすミキナミ。

割と長い話だったので殆ど流していたのだが、取り敢えず重要っぽい事は聞けた。


この実技専用の建物。

外から見ると膜みたいな物で覆われていたが、あれは魔法による物で、あの膜が覆っている中、つまりこの建物内でどんなに暴れようが建物は一切傷つかないらしい。

そして人や物の場合は、死ぬか、派手にぶっ壊れない限り、どんなに傷付いても膜の外に出れば元通りになるそうだ。


「では各クラスに別れて、指導のもと授業を始めるぞー」


ミキナミの言う通り、他クラスと一定の距離を取りつつ集まったKクラス。

ミキナミは人数を数え終わると唐突に、


「んじゃあお前らー、一人づつ全力で魔法を撃ってこい」


と言い出した。

戸惑う生徒達。人に向かって魔法をぶつけるなんて抵抗があるのだろう。しかも全力と言う。

Kクラスだろうが、流石に初級魔法は使えるので躊躇いを持つ生徒でいっぱいだった。


そんな中、4人の生徒だけは違った。


「え〜、皆ビビってる感じぃ?なら俺から行っちゃおっかな〜」


「やるか...」


「指示が聞けない奴は嫌いだ」


「え、えっとその...ミキナミ先生なら大丈夫だと思いますっ」


俺達新入生とは違う進学生だ。


「じゃあ、行っきまーっす! 流るる風よ この手に集い力を示せ 風級ウインドボール!」


チャラ男アーサーの詠唱と共に魔法がミキナミへと向かって行く。

まぁしかし流石はKクラスと言ったところか。

めちゃくちゃ弱そうなへなちょこボールだ。大きさもソフトボールくらい、速度もあんまり早くない。

これじゃミキナミが全力で当ててこいと言った理由も分かる。


風球がミキナミに当たると、ボフッと音がして消えた。ミキナミの体に変化はない。髪が少し派手に上がったくらいだ。


「よっしゃっ!」


アーサーはグッと握り拳を作った。

成程。他のクラスからたまに聞こえてくる、カスのKという名前はお似合いかもしれない。

高等部の最下位でこれなら中等部から下はどうなるんだ...


それから3人続けて得意の魔法を撃っていくも、どれも同じくらいだった。


「よーしっ、次はお前らだな。いいから早く撃ってこい。今のを見て大丈夫だと分かっただろ」


ミキナミの言葉によって安心した生徒達は、次々と魔法を撃っていく。まぁ当然これもさっきの4人と同じ感じだった。

俺とスーも手加減で合わせる。


そうして皆が一通り魔法を撃ち終わると、ミキナミは一人一人にアドバイスをして回った。

当然俺のとこにも来て、イメージが足りないと言って次のとこへ行ってしまう。


アドバイスを聞いた生徒達は、各自で練習を始めた。

練習と言っても、壁に魔法を撃ちまくったり、的を狙って魔法を撃ったりするだけだ。

なので、俺は暇していた。


「スー、俺達も何かしようか」


「なにするー?」


「いや、特には決めてないな」


「じゃーだっこー!」


そう言って飛び込んでくるスー。受け止めたは良いもの、周囲から視線が痛い痛い。最高です。

優越感に浸りながらも、周囲の視線に全く気付かないスーを撫でていると目の前にミキナミが現れた。


「おい、ブレイザー。初日から良い度胸してるなぁ?」


あ、マズイ。怒ってらっしゃる。


「あー...いやあれですよ。これも授業の一環としてですねー...」


「ほーう?幼女を抱き締めながら撫でる事の何処が授業の一環なんだ?」


「すみません」


「真面目にやれ!」


「グエッ」


何か変な声が出た。

ドロップキックを受け、地と接吻を交わした俺はスーに心配されつつ立ち上がる。


って言われても壁に魔法ぶつけるだけとか暇すぎるぞ。

他のクラスは何をやってるんだろうと見てみると、生徒達で模擬戦みたいな事をしていた。


「いいなぁー。絶対こっちより楽しいだろ」


「文句を言うな!」


「グエッ」


またドロップキックを受ける。

酷い!体罰だ!まぁ全く痛くないんだけど。


「しょうがない。授業が終わるまで壁当てでもするか」


俺とスーは壁と向き合うと、大人しく魔法を撃つことにした。


「はいボーン。ボーンボーン。ボボボボボーン」


壁に何発も魔法をぶつけていく。

早く授業終わらねーかなーとそれだけを思って火球を撃ちまくった。


...それにしても、辺りがやけに騒がしいな。

そう思った俺は魔法を撃つのを止め首だけを動かした。


......あれ?何で皆こっちを見てるの?


わけが分からずクラスの皆の方を向くも、皆が皆驚いた顔をしている。

あれー...俺なんかしたっけなー...


「スー、俺って何かした?」


「わかんなーい」


「だよなぁ」


困っていると、ミキナミがこちらへやって来た。

彼女も驚いた表情をしていて、更に俺は困惑する。


何だよー...マジで。俺何もしてないじゃん。ただ言われた通りに魔法を壁に向けて撃ってただけじゃん。壁にバンバン撃ってただ...け。


....ん?


壁にバンバン?


あ...詠唱してないかも。


「ブレイザー...お前。無詠唱で魔法が撃てるのか...?」


...やらかした。

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ステータス∞主人公の異世界生活 縁ノ雷斗 @Raito0428

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