黒と金と、ぼくと。
参加出来なかった第二回にごたんのお題を拝借。二時間半で。
【スワンソング】【オッドアイ】【てのひらの中の楽園】【かりそめの恋人】
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いつだって世界はぼくに無関心で、目を閉じるそんな僅かな時間にだって様変わりしていく。いつまでも立ち止まったままのぼくは、きっかけを探しながら真夜中の街を彷徨い歩いていた。
「ねぇ、ぼくの為に歌ってよ」
そう声をかけたって、誰も、ぼくが求める歌を聴かせてはくれない。
「君の声は、うーん、好みじゃないや」
「や、やめて、お願い、なんでも、なんでもするから」
「うん、やっぱり、違う」
「い、いや……ッあ、あぁあ……」
ぼくの
――だめだ。全然だめ。
首を傾げて、かつん、とヒールで地面を叩く。
「うーん、こっちの音の方がよっぽど奇麗な音だよね」
そう独り言ちたって誰が答えをくれるはずもなくて、ぼくは、ただただつまらない気分で歩き出した。思い切りごみ箱にぶつかりそうになって余計つまらない気分になったけれど、悪態をついたって茶化してくれる人がいないのだから、ぼくはむっつりと黙り込むしかないのだ。
――ぼくはきっと、どうかしている。
そんなことは、誰に言われなくったってとっくのとうに知っていた。つまらない、どこにでもありふれた女子高生だったぼく――まぁ多少、何をとは言わないまでも患ってはいることについては否定しない――が、どうかしてしまった理由も、ちゃんと分かっている。分かっているからこそ、ぼくはいつでも真夜中の街を彷徨い歩いているのだった。
真っ黒になるはずなのに、人工的な青い光で必死になって照らそうとする、そんなこの街のことがぼくはそれなりに気に入っていた。眩しくなって俯いて、それで、足元にあった水溜まりに映る月も、やっぱりそれなりに気に入っている。
黒と、金色。ぼくの心を疼かせるその二つの色は、愛しくも、憎たらしくもあるものだった。
ぼくの前に急に現れて、ぼくの前から急に消えてしまった黒と金色。有り得ない色彩の
――いとしい。にくらしい。
椅子に縛り付けたぼくに、あの男は囁いた。なんて腐ったつまらねぇ世の中だと。そんな世の中でのうのうと暮らしていやがるお前も腐ったつまらねぇガキだと。責めて、責めて、責めて、ぼくを少しずつ壊していって、そして、囁いた。
『腐ったお前を愛してやるのは俺しかいねぇ』
きっとこれが彼の有名なストックホルム症候群というやつなのだと思う。まぁ、そんなことをぼくが考えられる時点で違うのかも知れないけれど、とにかく僕は、あの男に惹かれるようになっていたのだ。
あの男の為なら、何でも出来る。そう思うくらいに。いや、実際、そうしてしまうくらいに。
ぼくに
そこは正しく楽園だ。あの男が持ってくる
たとえそれが酷く歪で、かりそめにも恋人と呼べない関係であったとしても、ぼくはあの男を愛していたし、きっと、あの男もぼくを愛していたのだと思う。
――それなのに。
あの男は、姿を消した。ぼくの前から、ふっと掻き消えてしまった。僕は楽園を飛び出して、いつからか真夜中の街を彷徨うようになっていたのだ。
きっと、ぼくはあの男をまだ求めている。たくさん解体していたら、きっとあの男が帰ってきてくれるはずだと思っているのだと思う。
そう、決して、決して、
「違う」
そう呟いて、頭を振る。ふらつき電柱に頭をぶつけてしまって、思わず唸った。あの男がいなくなってからものによくぶつかってしまうのは、何故だろう。
ぶつけた頭がじんじんと痛む。明日には腫れているかも知れないと思うと、途端に憂鬱さが倍増した。そんなことを考えてみたって、馬鹿にしたように笑ってくれる人がいないのだから、じっと我慢するしかないのだ。
「今日はもう帰ろ」
――こんな気分では、新たな
つまらなそうな顔をしていつか楽園があった場所へ歩き始めるぼくの姿が、停まっていた車に映り込んだ。
黒と、金色のアイリス。生きている黒と、ただ嵌まっているだけの、つまらない金色。
『ははははは! 出来た、完成だ、俺の
頭の中に響いた雑音を、ぶつんと切る。雑音だ。雑音だ。あの男の声じゃない。違う。
言の葉ひとひら 相良あざみ @AZM-sgr
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