恋する王子と森の魔女
eXs
第1話
森には、魔女が住んでいます。魔女のネーデルは今日も掃除で忙しい、曲がった腰に皺くちゃの手、よぼよぼした瞼の下の目玉をせわしなく動かしながら、人々が生活することで生まれる汚れを綺麗にするのが彼女の日課です。汚れは様々な姿をしています。ネバネバしたのや、カチカチしたの、空を飛ぶのや火を噴く汚れだっているのです。そういった汚れを掃除しているうちにネーデルはよぼよぼのしわくちゃになっていったのですが、本人はそれを誇らしく思っていました。「ああ、今日もまた一つ良い事をした」
しかしこの日は大変でした、また特大の汚れが街の方から飛んで来ては火を噴いて、毒の雨を降らし、終には大地さえ割ってしまったのです。さすがのネーデルも掃除が終わるころにはへとへとになっていました。しかし休んでいるわけにもいきませんでした、掃除した汚れの中からなんと少年が現れたのです。
少年はグリムという名前、それ以外をすっかり忘れてしまっていました。「魔女様、どうかわたしを此処に住まわせてくれないだろうか?」少年の願いに魔女は二つ返事で了承をしました。「どうぞ、記憶が戻るまで此処にいてくださいな」
魔女の家に住むことになった少年は、魔女の手伝いを始めました。毎日毎日、人々の為に汚れを掃除する魔女、少年は不思議に思って問いかけます。「この生活がつらくはないのですか?」魔女はよぼよぼのかおで笑います。「つらいけれども大丈夫、私が頑張ればそれだけ助かる人がいるのですもの。それに今はあなたが手伝ってくれているからずいぶん楽なのよ」少年は胸が痛くなりました。よぼよぼのしわくちゃになってまで人の為に働く魔女がとても愛おしく思えたのでした。
ある日のことです、少年と魔女は街へ買い出しに出かけました。森だけでは手に入らない日用品を買う為です。歯ブラシにコップ、フォークにスプーンも買いました。そんな時大通りに人だかりができているのが目に入りました。なんでも、お城の王子様が行方不明になってしまっているらしいのです。王子様は先日、巨大な汚れに銜えられて何処かへと連れ攫われてしまったのです。魔女と少年は目を合わせてうなずきました。「もしかして」「もしかする、かもしれません」お城の兵士に事情を説明した二人はすぐにお城へと通されました。「おお、間違いない。記憶は失っていても、姿はそのまま、王子様であらせられます」大臣がいいます。「しかし、王子大変ですぞ。あと三日以内に妃を決めねば王様になる事が出来ませぬ」
大臣の言葉と同時に、美しいお姫様達が次々と広場に通されます。サラサラと輝く髪に艶々としてしわ一つない肌、眼はぱっちりとしていてお星様をちりばめたようでした。「さあ、お選びくださいませ、王子様、あなたは誰と結婚なさいますか?」王子は悩みませんでした。「わたしはこの人と結婚します」広場にいた誰もがざわめきました。王子が手を握ったのはしわくちゃの魔女だったのです。「王子、おきは確かですか?そんな魔女よりも美しい姫がいるでしょう」広場の誰もが見つめる中で、王子は言いました。「この手の汚れも、肌のしわも、誰かのために一生懸命働いてきた証明です、誇りこそすれ、疎む事などありはしません。わたしはこの人が美しいと感じたから結婚したいのです」
しかし、手を握られた魔女は否定の言葉で返します。「御免なさい王子様、私はあなたと結婚できません」「何故ですか魔女様、私はあなたを愛しているのです」「わたしが森からいなくなれば、汚れを掃除する人がいなくなってしまいます。それでは多くの人に迷惑をかけてしまいます」そういうと魔女は空を飛んで森へと逃げ帰ってしまいました。
森へ帰った魔女は泣きました、しわくちゃの肌は水を得て潤い、よぼよぼだった眼がぱっちりとするまでなきました。そこにいたのは美しい少女でした。
コンコンとノックの音がします。魔女は返事をすることができません、コンコンとノックをする音がします。魔女は眼をこすりました、ドアの向こうにいたのはあの王子でした。「例え姿が変わってもあなたなのだとわかります、一緒に暮らした数日間でわたしはあなたの心に恋をしたのだから」
魔女は不思議に思って問いかけます。「あれから三日たちました、あなたは誰と結婚したのですか?」「誰とも結婚してはいません、今はただのグリムです。行くあてもない私をどうかここに置いてくれませんか?」
魔女は二つ返事で了承しました。
「ええいいですとも。あなたさえよければいつまでも」
恋する王子と森の魔女 eXs @eXs
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます