BABYMETALにハマったオタクだけどその魅力を上手く伝えられない
深水えいな
書いても書いても伝わらない!
つい最近まで、私は自分のことを「文章を書くのが上手いほう」だと思っていた。
今よりはるか昔のことだが、学生の頃は、読書感想文コンクールで何回か入賞したし、小論文を書けばほぼ満点を取り、見本としてクラスの皆に私の小論文が配られるほどだった。社会に出てからも、「君の原稿は分かりやすい」と会議の資料作りを任されたり、プレゼンの資料作りを任されたりしていたので、なんとなく、自分には文才がある、と思っていたのである。
しかし、ネットに小説を投稿するようになり、なんとなく他の投稿者の作品を見てみると、何のことは無い、私より文章の上手い人は、梅雨時のナメクジみたいに、そんじょそこらにウジャウジャいることに気づいたのだった。
私は、文章力を上げようと、他の人の作品を積極的に読み、レビューを書こうと心に決めた。
しかし、レビューやキャッチコピーを書くということ、これが実に難しい。普通に小説を書くときの数倍悩んでしまう。
便秘時にうんこをひねりだす時だってこんなに唸らないだろうって程唸って、頭を抱えて、苦悩の末ひねり出したレビューを投稿してみるものの、どうも他の人のレビューに比べてパッとしない。
どうも他の人のレビューはもぎたてフルーツみたいに新鮮でキラキラ輝いているように見えるのに、自分のレビューは都会のビル群のように灰色で無機質に見るのである。
しかも、普段から文を書きなれている投稿者のレビューに比べて私のレビューがパッとしないのはまだ分かるが、明らかに読み専っぽい人が投稿した1行ぐらいの感想にすらインパクトで負けているように思える。一体、私の文章のどこが悪いのだろうか? 私は悩んだ。どうすれば他の人のレビューみたいなフレッシュレモンになれるのか。
さて、話はがらりと変わるが、わたしはBABYMETALというアイドルの大ファンである。
(個人的にはBABYMETALはアイドルでもアーティストでもなくパフォーマーというのがしっくりくるが、一般認識としてはアイドルだろうと思われるのでアイドルと表記することにする)
BABYMETAL(以下ベビメタ)といえば、日本人で坂本九以来59年ぶりに米ビルボードの総合アルバムチャートで40以内に入ったことで一躍有名になり、最近では、ピーター・バラカン氏が「まがい物」「世も末だ」と発言し、炎上した事でも知られている。
私は某音楽番組でベビメタが「イジメ・ダメ・ゼッタイ」というふざけたタイトルの曲を披露したあたりからファンになった。
最近のアイドルにはついていけなかったが、若いころバンドミュージックが流行っていたこともあり、ふざけたタイトルからは想像もつかない格好良いサウンドを奏でるこのグループだけは好きになった。
その時には、このグループにこんなにアンチが居るなんて思いもしていなかったので、炎上のニュースを聞いた時には驚いた。
そして、ネットニュースやネット掲示板を読み漁り
「こんなグループがなぜ人気があるのか分からない」という書き込みを見つけた。
そして、そこには様々なアンチの意見があった。
一見して、それらの批判が的外れな物ばかりだと感じた私は、あれも違うこれも違う、全部全部違う! と反論を始めた。
例えば
「他のアイドルと一緒だろ」
という書き込みには、
「他のアイドルとはサウンドが違う。音が本格的で格好良い」
と反論した。すると、
「人気があるのはバックバンドのおかげ。前の女の子たちがAKBだろうとももクロだろうと同じだ」
という書き込みをされた。なので私は
「そんなことはない。女の子達には才能がある。ボーカルのバンドの爆音に負けない伸びやかで澄んだ声は正に天才。口パクなんか絶対しないどころかライブになるとCDよりさらに良くなる何てグループが他にあるだろうか? 横の2人も、キレキレのダンスでメタルの速いテンポに合わせて踊りながら歌うこともできる。プロのダンサーにも認められた腕前だ」
と返した。さらに私は書き込んだ。
「激しい演奏とレベルの高い歌声とダンス。3人の容姿も可愛いし、曲もキャッチーで何よりアイドルとメタルの融合というコンセプトが素晴らしい」
すると、こんな事を書かれた。
「色々偉そうな事を言ってるけど、結局ロリコンなんだろ」
「ロリコンおやじだって事を認めろよ」
ロリコンだなんて、ネットで顔が見えないのを良いことに、なんて的外れな事を書くのであろうか。
私には、そういう危ない性的嗜好は全く無い。
3人の女の子と同じくらい、BOHさんや大村さんといったバックバンドのメンバーも好きだし、私がベビメタを見る目は、性的対象というよりは親が我が子を見守る視線に近い。
ゴールデンウィークにもかかわらず今日も出勤し、リポDの飲み過ぎで胃を痛めながらも24時間走り続ける社畜な私が 、若い子たちが世界を舞台に頑張る姿に元気をもらう。それの何が悪いのか。
私はやけになって反論した。
「ベビメタ好きだけどロリコンじゃないしアイドルおたくですらない。それに周りにはベビメタが好きな女性の友人だって沢山いますよ」
すると今度は
「そんなの見た事ない」
「メタルファン気取ってそれを隠れ蓑にしているおっさん達は沢山いるけど、俺にいわせりゃ結局皆ロリコンだ」
「架空の女友達だろw」
ときた。さらには
「なんでこんなにベビメタ信者って理屈っぽくて偉そうなんだ?」
「必死になっててキモイ」
ざっけんじゃねーぞ! オラ! お前のその根性叩きなおすぞ!
私は思わずキレそうになった。
お前らが「どこがいいのか分からない」って言うから一生懸命に解説したのに、それを理屈っぽいだと!? じゃあ一体どうしろっていうんだ!
しかし、1番心にきた書き込みはこれだった。
「結局どこがいいのか全然伝わってこない。音楽は歌が上手いからとか演奏が上手いからとかで聞くものじゃない」
そんなの分かっている。ベビメタの魅力はそれだけではない。もっと伝えたいことがたくさんあるはずなのだ。
ベビメタに出会った時の感動、ライブ映像を見た時の興奮、それらをもっと伝えたい。
しかし、私の今の文章力では「歌が上手い」とか「演奏やダンスが上手い」と言う言葉でしかベビメタの魅力は伝えられない。
書いても書いても伝わらない、その事実に私は絶望した。
ネット掲示板だけでなく、現実世界でも、私は友人にベビメタの良さを伝えようとしたが、これもなかなか上手くいかない。
私が必死になってベビメタの良さを語れば語るほど、友人達が引いてしまうのを感じる。いくら「音楽的に素晴らしいんだ!」と息巻いても、「いい年してアイドルだなんて……」と言われてしまう。
その日も、私はベビメタについて熱く語りすぎて友達にドン引きされていた。
するとそこに、別の友人がやってきてこう言った。
「ああ、ベビメタ? 私も最近ちょっと気になってる! こないだMステでたまたま聞いたんだけど、うちの3歳の娘が初めて聞く曲なのにいきなり踊りだして。良い曲だよね!」
すると、先ほどまで私がいくら勧めても全く興味が無さそうにしていた友人が、
「へぇ、じゃあ今度youtubeで見てみようかな!」
と言い出したではないか。
この時初めて、私は自分の文章のどこがいけなかったのか気づいた。
「歌が上手い」「演奏が上手い」だけでは伝わらない。なぜならそんな文章では、ベビメタを聞いている私自身が全く見えてこないからだ。
それに比べ「見ていた3歳の子供がいきなり踊り出した」という言葉の説得力たるや! 実際にテレビでベビメタを初めて見た親子の驚きが目に見えるようだ。
私は考えた。ベビメタを初めてテレビで見た時、何を思い、何を考えた? そして何をしたんだろう。
考えた末、私はこうネット掲示板に書き込んでみた。
「ベビメタを見て、もう着る事もないだろうとタンスの底に長い事眠っていた、黒いゴスロリのスカートを思わず引っ張り出した。この子たちのライブに行きたい!」
すると
「わかるわかる。私も元バンギャ(ヴィジュアル系バンドのファン)だからタンスに黒いスカート眠ってるw」
「今度ライブ行ってくるよ! 昔若気のいたりで買ったパンク系ファッションと黒いマニュキュアの出番だな」
と、私と同じ20代か、30代前半と思われる同世代の女性からの書き込みがついた。
ロリコンおやじ! などと的外れな事を言ってなじる人は当然ながらいなかった。ネット越しに、私の顔が見えたからだろう。
今までは「私女だけどベビメタファンです!」とか「女性のベビメタファンはいます! ロリコンじゃありません!」とか「伝説の黒髪を華麗に乱したエマ・ワトソン似のヴァンパイアの美少女です!」だとかいくら書いても誰も信じてくれなかったのに……
それを踏まえて、私は今まで書いたカクヨムのレビューを見返してみた。
「文章力がある」「構成がうまい」「キャラクターに魅力がある」……そんな誰にでも書けるような言葉ばかりが並んでいる。メタルの翼で飛び立ちたくなった。
BABYMETALにハマったオタクだけどその魅力を上手く伝えられない 深水えいな @einatu
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