第4話 鬼ごっこ
ミラール・ミラーレ。
犯罪組織「クラウン・レイド」に所属する。D級犯罪者、主に、組織や施設の中に入り込み、その中で仲たがいやすれ違いをを起こさせ、その様子を楽しむの趣味という典型的な愉快犯。
目的が犯罪行為を行うことそれ自体なので、当局もなかなか尻尾をつかむことができずにいる……か。
スマホでハンターズギルドの登録ページから賞金首情報を、手に入れる。便利な時代になったものだ。
「賞金、たった四万なの? しけてるわねぇ」
「そりゃ、基本愉快犯で、混乱起こすけれど直接死人は出してないからな。賞金が安いのは当たり前だろう。っていうか、なんでそんなにお金に汚いんだよ? 姫様じゃないのか? 言葉遣いも汚いし……」
「あたしの国の貧乏具合をなめないでよね? ほぼ仕送りなしなんだから。それに一応王宮で育ったけど、母は庶民よ? よく正妻に教育がなってないって怒られてたっけ」
「それで、表だけでも改善しようとも思わないあたり、相当だよな?」
「いいのよ、あたしはこれで、王侯貴族の相手は妹たちで十分。あたしは庶民に愛されるお姫様なの」
「お前がそう思うんならそうなんだろうな」
お前んなかではなと、心の中で付け加える。
さて、いま俺たちは賞金首を追いかけている。なんでそんなことをしているかというと、ちょっと前にさかのぼるのだが……。
◇◆◇
あの後、裸の美少女にぶっ飛ばされて気絶した俺が目覚めるのを待って、リザードマンのカルグム先生が俺達に問いかけてきた。
「お前たち、あれだけ戦えるということは、ハンター証は持ってるか?」
なんだよ唐突に……。
「はい、まあ戦えなくても、15になったら大抵はとるでしょ? 身分証として優秀なんですから」
ハンター証。混沌歴において、多様化した犯罪に多角的かつ柔軟に対応すべく、作られた公的組織「ハンターギルド」が発行する。暴力許可証である。
取得年齢は15歳から。これは多種族間の様々な寿命を考慮して設定されている。
これがないと正当防衛も行えないというクソみたいな法律が議会を通ってしまったため、大抵15になったらとるのが当たり前だ。
なのでペーパードライバーならぬ、ペーパーハンターが大量にいたりする。
「等級はいくらなんだ」
「私は2級だけど……。あなたは?」
「俺は8級だよ、てかその年で2級ってどんな人生歩んで来たら、そんなんなるんだよ?」
「降りかかる火の粉を払い続けてたらいつの間にかねー……ってか、あたしのこと知らないの?」
「知らないな。よく知ってるけど全く知らない」
裸見たしな!
「もう一度ぶっ飛ばされたいんなら、そう言ってくれないかしら?」
「いや、冗談だって! で? いったい何様なわけ?」
「姫様よ!」
マジで様のつく称号が帰ってくるとは思わなかった。あぁ、そういえばどっかの国の王族が留学のために来日とか言ってたな。あれうちの学校だったのか。
「2級に8級か、十分すぎるな。君たちにミラールを捕まえる手伝いを頼みたい。いま、入学式の準備中で人手が足りないのだ。」
「そうなんですか?」
「うむ、教員は準備で、手が離せないし、生徒たちはまだ夏休みだ。入学式の今日ここにいるのは新入生だけなのだよ。頼む!」
そう言って深々と頭を下げるカルグム先生。
俺と、姫様は目を合わせて頷き合い。
「わかりました」
「おぉ、わかってくれたか!」
「あんたがミラールだってことがな!」
俺がサイコキネシスで相手をバランスを崩し、姫様が岩の拳を叩き込む!
さっきは完璧に止められてしまった岩の拳だが、今度はクリーンヒットする。するとカルグム先生はボフンと煙のように消えてしまった。
そしてどこからともなく、声が響いてくる。
「へぇ、すごいや、こんな短時間で見破られたのは初めてだね。どうしてか聞かせてもらってもいいかな?」
「話が唐突すぎる上に雑なんだよ! もっとよく脚本練りやがれ、この三流作家が!」
「僕は作家じゃなくて、詐欺師さ。だから脚本なんていい加減でいいんだよ。人をだますコツって知ってるかい? どんな、荒唐無稽な嘘でも、自信満々に言い切ることさ。人は自分が常に正しいなんて思えないものだからね。相手が自信満々なら、自分が間違っているんじゃないかって疑ってしまう。そのスキを僕たち詐欺師は狙うのさ。でもそれだけで、よくあんな行動に出れたね? ちょっとでも自分が間違ってると疑わなかったのかい? 先生が本物なら大変なことになってたよ?」
それはそうだ。でも確信したのはそれだけじゃない。
「あたしたち、実は先生にもう会ってるのよね。入学試験の面接で。」
「それだけじゃ、理由にならない、僕だって下調べはしたさ。彼女に直接会ってもいる。なんで僕の演技を見破れた」
「てめえが知らない情報だろうから教えてやる。先生はな、生徒と話す時はもっと気さくな口調なんだよ!」
「バカな! 僕は、生徒に成りすまして会いに行ったんだぞ!」
「先生には見破られてたってことでしょ? だからそういう対応しかしてもらえなかった。だから、躊躇なく攻撃できたのよ。そんな間抜けが先生を直接操れるわけがないってね」
どや顔で胸を張る姫様。そんなにしたらまた弾けるぞ? ただでさえうちの制服。胸元が頼りないんだから。
「はは、そうか、そういうことか。ならこの勝負は、僕の負けだな。仕方がない、いいことを教えてあげよう」
「なんだよ、負け惜しみでも聞かせてくれんのか?」
「いやいや、そんなつまらないものじゃないさ。実はね、入学式の会場はここじゃないんだ」
「「……はぁっ!?」」
俺と姫様の声が重なった。
「今年は学校の体育館が改装工事の遅れで使えなくなってね。市民体育館で行われることになったんだよ。君たちへの案内は、僕が改ざんしたから、知らなかったろうけどね。おかしく思わなかったのかい? まだ時間前だからって人が少なすぎるって」
「ちょっと、マジなの? あたし市民体育館なんて場所知らないんだけど!」
「大丈夫だ。ダッシュすりゃ、ここから十分もかかんねえよ。ただ問題は……」
「そう、君たちの友達は僕が預かっている。魔力耐性の低い子となりたてゾンビだったから簡単に眠らすことができたさ。今、十時十五分を回ったところか……お友達を見捨てりゃ十分間に合うね」
語尾に四分音符が並んでるんじゃなかってくらい弾ませて言い切るミラール。
「あぁ、そうだな十分間に合う」
「ちょっと何言ってんの? 入学式に出れなかったら入学取り消しなのよ!?」
「ははっ、随分と見捨てる決断が早いねぇ。ゾンビになったお友達の方が、まだ暖かい血が流れてるんじゃないかい?」
「誰が見捨てるって言ったよ? 悠斗探し出して、てめぇをぶっ飛ばしてからでも十分間に合う時間だって言ったんだよ!」
俺は争い事は嫌いだ。
基本は植物のように静かに暮らしたいと思っている。
でも、ここまで! ここまで、嘗めたマネされちゃあ、黙っている方が心穏やかでいられないってもんだよなぁ! おい!
「俺は必ず、てめぇをぶっ飛ばす。いいか、ミラール・ミラーレ。これは予言だ。俺の数ある異能の中で最も得意な能力だよ! 『俺はてめぇをぶっ飛ばす』これは確定事項だ! いいな!」
「はは、それじゃあ、僕は運命に抗う、さながら主人公だね! いいよ。たまにはそういう役柄も悪くない、付き合ったげるよ」
こうして、俺たちとミラールとの入学をかけた鬼ごっこが始まったのである。
カオスアフター 尾坐 涼重 @woza
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