第3話 シャワールームブレイク

「わー、すごい。広いわねー」

「っ!?」

 入ってきたのは、目の覚めるような美少女。ブリックは可愛い系だったが、こっちはきれい系だ。軽くウェーブのかかった濃い茶色の髪に、気の強そうな釣り目。すっと通った鼻が奇跡としか言いようのないバランスで配置されてる。何より、ブリックと違うのは胸。彼女の胸は実に豊満であった。

 ……って、なに冷静に描写してんだ俺!? やっべぇ油断した! 完っ璧っ、さっきまでのでシャワー室イベント終了だと思ってたわ! あのクソ会長、まさか隙を生じぬ二段構えでくるとは、この加藤の目をもってしても見抜けなんだ。……って、ふざけてる場合じゃねぇ。何とかこの場を切り抜ける……っあ、目が合った。つーか、胸でけー。何カップあるんだあれ? 顔がみるみる赤く染まってくな。マジで、言い訳を思いつかないとやべぇぞ。えっと、こういう時は……。

「何見てんだゴラァっ!」

「えぇっ? これ、私が怒られる場面!?」

 よっし、逆切れ作戦成功。こういうのは先に怒ったもん勝ちだよな。

「ここは男子シャワー室だっての。痴女かてめぇっ!」

「ち、痴女じゃないわよ!」

「じゃあとっとと出て行ってくれ、そこにいられると俺が出られないだろうが!」

「え? あ、はい……」

 困惑しながらもシャワー室から出ていく謎の美少女。

 ふう、窮地はしのいだか。

 それにしても、仮にも生徒会長のやることかよ? 犯罪だぞ犯罪!

 シャレになってねぇ、許せることと許せないことがあるよな、実際!

 脱衣所で、さっきの彼女に鉢合わせになることもできないのでシャワー室内で、今度会ったらどうしてくれようと考えていたら、脱衣所への扉が三度開いた。

 あっ、今度はちゃんとバスタオルを巻いてる。俺もだけど。

「やっぱりこっち、女子用じゃない! パンフレットにも書いてあるし外の札も女子用ってなってたわよ!」

 怒りの形相で彼女はこっちに歩いてくる。

「はぁっ!? 俺のパンフにはこっちが男子用って書いてあったし入ったときにかかってたのは男子用の札だったつーの」

 いや、まて? かかってた? これだけ立派な設備で、女子用は別校舎にあるから「かけ替える必要もないもの」が、かかってた?

「語るに落ちたわね。そんな札どこにもかかってないどころかかけていた跡すらなかったわよ。女子の札は金属プレートがはめ込まれていたけれどっ」

 や・ら・れ・たーっ!

 最初から全部しくまれてたのか? かかってた跡もないってことは幻術系の術でもかけられてた可能性? いや、いまはそれよりも弁明だ。

「いやこれは、あの生徒会長……ミラールにはめられたんだよ。信じてくれっ!」

「私をここに案内してくれた生徒会長はミラールなんて名前じゃなかったわよ? さぁ、覚悟はいいかしら? へ・ん・た・い・や・ろ・う・っ!」

「あの野郎っ! 名前もウソかよっ!」

 彼女が右にこぶしを握り構えるとその近くにどこからか岩石が集まっていき、でかい腕が形成される。

「打ち砕け剛なる魔拳! 岩塊腕(いわくれかいな)っ!」

 こちらに向かって振りかぶると、ものすごい勢いで打ち出してきた。彼女との距離は優に10mは離れてるけど、その速度は俺の身体速度ではとても交わしきれるものでなく……。

ドガァアアアン!

「やった!?」

 やってねえよ!

 俺はぎりぎりでそのこぶしを交わしていた。つっても裸で破片とか受けたから無傷ってわけにはいかないけど。

 テレポーテーション。俺が受け継いだ才能の一つだ。最も、地球の裏側とか月とかまで行けるじいちゃんたちと違って、移動距離は約50㎝、使用回数に制限はないけど三十分に一回しか使えないっていう残念仕様だが、間違いなく俺の切り札の一つだ。

 次はっ!

「っ!? 痛った!?」

 彼女はいきなりその場にうずくまる。必殺地味に痛いシリーズ、「サイコキネシスで足の爪を逆に引っ張る攻撃」だ。俺のサイコキネシスは範囲が狭いうえ、力も小さいのでこんな地味な嫌がらせしかできないのだっ! 言ってて悲しくなるな。

 さて、あとは彼女の横を駆け抜けるだけだ。見たところ魔法系パワーファイター。スピードだけは獣人の脚力をちょっとだけひいている俺の方が有利なはずっ!

「逃……っがすか!」

 彼女が左手を地面に突くと。横を通り過ぎ扉へかけていたお俺の足元が沈んで、俺は見事にすっころんだ。

「飲み込め柔なる魔拳。……泥沼腕(どろぬまかいな)」

 うっそだろ? こいつコンクリートを戻しやがった!?

 乾燥したワカメを水で戻すんじゃねぇんだ。化学変化の逆行だぞ!? なんて奴だ!

 つかまずい、コンクリートが再び固まって動けな……っ。

「じゃあさよならね。変態さん!」

 先ほどの岩の拳が、再び俺に向かって発射される。もう回避する手段は……っ無い!

「そこまでっ!」

 突如シャワールームに響いた声によって。俺に振り落とされる寸前だった岩石の腕はピタリと止まる。見ると岩の拳を一本の槍が止めていた。

 振り返ると、そこにいたのはリザードマン。声からすると女の人か?

「双方術を引け! この場は私、生徒指導のカルグム・バラが預かる」

「でも、こいつは痴漢で……」

「それは誤解だ。現在、学園内にD級犯罪者ミラール・ミラーレが侵入していることが分かっている。幾人かの生徒が行方不明だ。おそらくその少年も被害者だろう?」

 俺はコクコクと首を縦に振る。D級ってのは犯罪者の罪の重さじゃなく種類を表す言葉だ。Dは確か詐欺罪だったかな?

 それにしても、ウソだったのは名前じゃなくて、立場だったか。いや、いきなり生徒会長とか言われて信じた俺も俺だけど、よく堂々とそんな嘘つけるな。詐欺師の才能って奴だろうか?

「そういえばさっきあんたミラールって……」

「そうなんだよ。でもさっきまでのあんたじゃ話聞いてくれなかったろ? いったん逃げて落ち着いてからの方がいいと思ったんだ」

「うっ、確かに私も悪いとこはあったけど、そもそもあんたが私の裸見ておきながら逆切れしてきたのが……っ」

 そんな風に興奮して胸を張った瞬間、彼女の大きな胸はバスタオルを弾き飛ばした。

 当然その大きな胸は外気にさらされるわけで……。

「きゃあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 俺は無事、コンクリートの中から、彼女の左手によって殴りだされたという訳である。

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