第三十一回 アビゲイル(夏)・FGO2020年夏イベントにまつわるクトゥルー神話要素について

【はじめに】


 今回は2020年夏イベのクトゥルー神話側面の解説と水着アビゲイルの解説を行っていこうと思います。想像以上にクトゥルー神話の情報が満ち満ちていたせいで、正直言えばびっくりしています。

 クトゥルー神話はあくまでホラーのサブジャンルの一つで、現代劇から未来的SF・過去の歴史的物語・遠い世界のファンタジーなど様々な話のパターンを網羅することが可能な幅の広さと深みを持つものの、今回のホラーイベントでそこまで重要な役回りとは思っておりませんでした。ところが、事前に水着の情報が出た時に考えていたよりも遥かに物語の中核に食い込んでいるじゃないですか。びっくりです。そして神話知識を前提にした描写もアビゲイルの出番に伴って予想より多くなっています。とても驚きました。その結果、今回のクトゥルフ講座の内容は増えに増えています。普段の倍以上のボリュームがあります。そしてイベントが続く限り今後も増え続けることでしょう。今後も更新を行うので、気になることがあればカクヨムの応援コメントなどでご連絡いただければ幸いです。応援コメントの方がこちらも管理しやすいので。お願いします。イベントが終わった後に読みやすい抄訳版を書く予定もあるので、そちらの作成の為にもお手伝いください。


 それでは始めていきましょう。よろしくおねがいします。

 


【アビゲイル・ウィリアムズの台詞について①】


 まずはストーリーにおいてのアビゲイルの発言について纏めていきたいと思います。最初に印象に残った台詞はこれです。


「現実から、幻想へ逃げ出すなんて許さない……。夢に逃げるなんて、決して許さない!」


 とてつもない違和感がありました。

 幕間の物語において、ジェロニモが夢を捕らえる呪具を使って、彼女の暴走を防いだくらいです。本来、アビゲイル・ウィリアムズは夢を通じて藤丸立香を連れて逃げ出そうとすることさえあるのですが、見事に反転しています。

 またクトゥルー神話自体が作者のラヴクラフト御大の“夢”を題材にした作品をいくつも含んでいる以上、夢はクトゥルー神話にとって外せない要素の筈なのです。

 今回のイベントにおいては、多くのキャラの性質の反転が確認されておりますが、彼女もそのパターンの一つと見て良いでしょう。

 ですがこの反転、FGOというか型月世界的に見ても非常に危険な性質を持っております。本来、型月世界におけるクトゥルーの邪神は、魔神柱ラウムが、ラヴクラフトの見たがたまたま異なる宇宙の神々の姿と一致したことを利用して、この世界へと呼び出した筈のものです。そのを拒絶してしまうのは都合よく見ても自己の否定であり、最悪の場合は異なる宇宙の神々がではなくを侵食するものに変化してしまう可能性があります。ある意味ラウムの本来の狙いに近いのですが、とてつもなく危険であることに変わりはありません。

 そういう意味で「不味いな」と私が直観したのは一番最初のこの台詞だったわけです。


【アビゲイル・ウィリアムズの台詞について②】


 次に注目したのはこれです。


「混沌の淵から沸き起こる根源の恐怖」


 混沌というとクトゥルー神話ではニャルラトホテプが、FGO的に言えばBB(水着)が、思い起こされるかと思います。しかし、そもそも今回のアビゲイルは幻夢郷ドリームランドと呼ばれるクトゥルー神話の一舞台をモチーフにしたキャラ造形になっております。しかも、彼女自身がヨグ=ソトースの子という設定を持っていること、デザインもヨグ=ソトースの影響が強いことを鑑みれば、今回はニャルラトホテプよりもむしろアザトースを意識して話している可能性が高いです。勿論、ニャルラトホテプは幻夢郷ドリームランドに大きく関わっており、私自身「斬魔機皇ケイオスハウル」でニャルラトホテプが幻夢郷ドリームランドで活躍する話を書いているので、その辺りは理解しています。ですがそれならわざわざ「根源の恐怖」とつけくわえる必要はないんですよね。このイベントでは既に「出てきたものに意味がある」という紫式部からの言及がある以上、考えすぎることはないでしょう。

 実は、ラヴクラフトが幻夢郷ドリームランドを舞台にした「未知なるカダスを夢に求めて」において、アザトースは「の暗影」と形容されております。また、同じくラヴクラフトの作品である「魔女の家の夢」の中ではアザトースについて「窮極の混沌」という表現があります。

 魔女をモチーフとしたアビゲイルが、夢をモチーフとした幻夢郷ドリームランドを特色として付与した上で、「混沌」に言及していることには、クトゥルー神話世界のであるアザトースへの強い意識があるとしか思えないのです。

 無論、ニャルラトホテプがアザトースの使徒である以上、無関係という話も無いでしょうが、少なくとも今回に限って言えばもう既に夏イベで取り扱われてしまった以上、アビゲイルおよびそれに関わる邪神の方に焦点が当てられることでしょう。

 反転したアビゲイルを通じて、型月世界は「クトゥルー神話が現実になる」危機にある可能性があります。ホームズや項羽といった観測系キャラが出てこられないのは、「特異点の確立」に加えてこの「クトゥルー神話が現実になる」可能性を危惧している可能性は高いです。


【アビゲイル・ウィリアムズの台詞について③ 2020/09/01】


「いつの間にか私、どこかの神殿にいて、すっぽりとお召し物に身を包まれたとてもご高齢の方々に囲まれているの」


 これだけマイルーム台詞について補足説明。

 ご高齢の方々というのは古なるものどもエンシェント・ワンズと呼ばれる銀の鍵の門の向こう側に居る存在です。このあと説明するウムル・アト=タウィルと共に銀の鍵の門に到達したものを導く存在ですね。アビゲイルちゃんは彼らにとっては可愛い孫か年の離れた娘のようなものなのでしょう。お菓子をもらっているそうですが、それが本当に普通のお菓子とは思えません。一体何なんでしょうね。


【紫式部の台詞について①】


 戦闘ボイスの話に入る前に、補足説明です。


「皆様、身近にいた人間、あるいは家族の方々が豹変した状況をご想像ください。」

「死霊や隕石のような外的要因が理由となることも時にはありますが……。」


 実はこちらクトゥルー神話を踏まえた台詞です。現在話題の映画「カラー・アウト・オブ・スペース -遭遇-」、そしてその原作である「宇宙の彼方の色(原題:The Color Out of Space)」が下敷きにあります。ちなみにこの宇宙の彼方の色について、訳をなさった森瀬繚先生の考察が「H・P・ラヴクラフト聖誕祭」のツイキャスアーカイブ配信で聞けるので「https://twitcasting.tv/asagayalofta」からぜひ購入してみてください。

 こちらはそのものずばり「隕石(のようなもの)が降ってきたことを切っ掛けに一つの家が超自然的な方法で崩壊する」お話です。この台詞が出る前の段階でアビゲイルの話がされていたので、こちらも無関係ではないでしょう。

 FGOのシナリオ書いている方々は皆さまクトゥルー大好きなので、映画が今年公開だったことを踏まえてこの話をねじ込んでいたことが推測されます。


 なお、この台詞が出たクエストは、スティーブン・キング先生の「シャイニング」をモチーフとしております。キング先生は熱烈なクトゥルー神話ファンであり、ラヴクラフト愛好家としても有名です。そんな彼の作品をモチーフにしたステージだからこそ、アビゲイルから逃げ込んだになったし、そこでさりげなくこの話に触れられたのかもしれませんね。


【アビゲイル・ウィリアムズのビジュアルについて 2020/08/24追加】


 ボディペイント良いですよね……ではなくて、普段のヨグ=ソトースの触手に加えて、再臨前の段階で持っていた六角形の台座についての説明です。

 あの六角形の台座、「銀の鍵の門を抜けて(越えて)」に出てくるヨグ=ソトースの化身が使っているものですね。ウムル・アト=タウィル、最古なるものモスト・エンシェント・ワンと呼ばれる化身です。この化身は銀の鍵を手にして正しく運用した人間を型月で言うところの根源に連れて行ってくれるすごいやつです。

 また白スク水と司教冠ミトラについてなのですが、司教冠ミトラがウムル・アト=タウィルに従う古なるものどもエンシェント・ワンズの一般的な装備なのでこちらを意識していると見られます。

 また、第一段階の姿は「古代の秘儀の象徴」として「銀の鍵の門を抜けて」で描写される笏に類似したデザインです。

 ウムル・アト=タウィルとそれに従う古なるものどもエンシェント・ワンズのモチーフを強く取り入れたアビゲイルは、藤丸立香を導く役割を担っている故に、愛が重くなっているのかも知れません。


【アビゲイル・ウィリアムズの戦闘中ボイスについて①~セイレムとの共通点~ 2020/08/24追加】


「開け、門よ」


 こちらは普段どおりの銀の鍵とそれを用いる門の話です。これはセイレムについて触れた記事で取扱っているのでここでは省略します。気になる方はこちらで予習・復習してみてください。

https://kakuyomu.jp/works/1177354054880900124/episodes/1177354054884548368


「いざや、星辰の光輝あり」


 星辰の光輝とは、クトゥルーの神々が星の並びによって活動可能範囲や出力が変化することをうけての台詞です。これが整っている上に、あの特異点はドリームランドに見立てることができる仕掛けがあるので、セイレムの時のようにアビゲイルちゃん大暴れとなっております。


「いあ ええややはあふたぐん!」


 次はこちら。こちらに関しては実は情報不足です。上記のセイレムの記事を書いた時に、クリフォーライゾォムがアレイスター・クロウリー(とジョン・ディー)の魔術に由来するという話が出た際と同様で、まだここで書くには情報が不十分です。聞き取りが正確である保証も無いのでこの情報については今後追加いたします。

 同じヨグ=ソトースの子たるウェイトリー兄弟の断末魔とも違うんですよね。


【アビゲイル・ウィリアムズの戦闘中ボイスについて②~鐘と猫~ 2020/08/24追記事項あり】


「鐘の音が聞こえる」


 これはFate/Grand Orderに参加している桜井光 先生のスチームパンクシリーズ「黄雷のガクトゥーン」で扱われる「ガクトゥーンの鐘」が関与しているのではないかなと思われます。「黄雷のガクトゥーン」はニコラ=テスラが格好良くエジソン(ニャルラトホテプの姿)と殴り合ったりするヒロイックな大人向けゲームです。ここでは鐘は異能の覚醒に関わっていること、またスチームパンクシリーズが幻夢郷と深い繋がりを持つことから、モチーフとして入れていると推測しております。「黄雷のガクトゥーン」の主人公であるニコラ・テスラは夢わたる女神によって牢獄から救われているのですが、この夢わたる女神の本体の名前はエリシア、クトゥルーの邪神に対抗する神々“旧神”たちの本拠地として、ブライアン・ラムレイが設定した名前と同じだったりします。

 鐘がある限り異能が覚醒し、それが世界の危機に繋がる以上、鐘の音が聞こえると不味いです。

 ちなみに「ガクトゥーン」は「ンガ=クトゥン(N'gah-Kthun)」のもじりではないかという説を、森瀬先生がツイートなさっていました。ンガ=クトゥンはミ=ゴを支配する旧支配者であり、ミ=ゴは優れた外科手術能力を持ち、人間の脳を保存する技術を持っていることから、外部処置による異能の覚醒と絡めたりしたのかもしれません。

 また「ンガ=クトゥン」は旧神ウルタールの儀式を執り行う場所としても知られています。このウルタールと同じ名前の町が、幻夢郷ドリームランドにあることが知られています。


「猫は罪を裁く」


 今回のアビゲイルは猫(っぽい生き物)を連れており、戦闘中にもこのような台詞を放ちます。これがウルタールとの関与を強く示している台詞です。

 幻夢郷ドリームランドにはウルタールという町があり、そこでは猫を殺してはいけないというルールがあります。このルールが制定されたのは、ウルタールにおいて、罪もない子猫を始めとする多くの猫を殺したことで猫たちの復讐に遭い、老夫婦が無残な死を遂げたことが切っ掛けとされています。

 それ故に「猫は罪を裁く」なのでしょう。水着のアビゲイルが幻夢郷ドリームランドに強く影響を受けている証拠です。

 猫ちゃんの名前がルタールとノーシュになっていましたが、ルタールはこのウルタールが元ネタです。

 そして、読者さんからノーシュはサイクラノーシュ(土星)が元ネタかもしれないというご指摘が有りました。ありがとうございます。実際、前回がユーゴとミーゴだったので、一つが星の名前でもおかしくはないと思います。サイクラノーシュとドリームランドの関係は薄いのですが、マーシュだってつながりは薄いのでこちらのほうかも知れません。

 あと猫同士が仲が悪いというのも重要な指摘で、病室なのでちょっと正確な資料が無いのですが土星(サイクラノーシュ)の猫と地球の猫は基本的に仲が悪いので、そういう話を反映したと見て良いと思います。


【アビゲイル・ウィリアムズの宝具について(エネミー版&再臨前)】


 名前はそのものずばり「遥遠なりし幻夢郷ドリームランズ」となっております。現代では幻夢境ドリームランドという表現が主流ですが、あえてこっちを使ったのは、おそらく書いているライターの方々の趣味やバックボーンによるものではないかなと見ています。

 また、単数形ドリームランドではなく複数形ドリームランズなのは、本来地球人には到達できない筈の地球以外の星のドリームランドもアビゲイルならば動けることの表現だと推測しています。彼女は神の娘であり、移動装置である銀の鍵を持っているので、人間の制約を簡単に越えて移動が可能ですからね。

 続いて発動時の台詞です。


「七十七百の夢のきざはし 下りて至るは幻夢郷

 最悪(災厄)なる魔の都 隠されし厳寒の荒野

 蕃神の弧峰 未知なる絶巓

 其は夢見るままに まちいたり」

「深き眠りの門の彼方 下りて至るは幻夢郷

 最悪(災厄)なる魔の都 隠されし厳寒の荒野

 蕃神の弧峰 未知なる絶巓

 訪れど 去ることかなわん」


 現在、このような二パターンのボイス・映像が報告されております。一つずつ解説していきます。


「七十七百の夢のきざはし


 これはすなわち浅い眠りから深みに至る七十の階段、そしてその深みにあるとされる焔の神殿から幻夢郷ドリームランドに、すなわち深き眠りの門に至る為の七百の階段を指しています。


「深き眠りの門の彼方」


 これは、これは幻夢郷ドリームランドに向かう階段の先にある門への言及をした台詞となっています。どちらにせよドリームランドへの旅について話している訳です。


「最悪(災厄)なる魔の都」


 幻夢郷ドリームランドにおいて魔の都と言えばタラリオンとダイラス=リーンが有名です。

 タラリオンは無数の神秘が秘匿されている場所なのですが、そこに到達した人間が帰ってくることはないという型月世界における根源の渦に近い場所となっております。D・モジッグという研究者によれば、このタラリオンは集合的無意識を象徴するものであり、このタラリオンを闊歩する怪物は人間の意識の根源に結びついているそうですが、その辺りの研究も踏まえた言及なのかもしれません。なお、

 ダイラス=リーンは賑やかですが危険の潜む港湾都市となっています。ラヴクラフトの作品でも主人公が邪神の配下によって囚われたし、ブライアン・ラムレイのタイタス・クロウシリーズでも邪神によって支配されました。私もダイラス=リーンをモチーフにした町を舞台にロボット物書いたり、タイタス・クロウ一行にボコボコにされた邪神を宿した幼女とヤクザの話を書いてラヴクラフト御大の命日にデビューしたりしました。ともかくダイラス=リーンはとても有名な場所なのです。

 ですが、背景の画像が奇妙なんですよね。「繁栄した巨大都市」と「繁栄した巨大都市を遠くに望む港湾都市」の二つのパターンが確認されます。繁栄した巨大都市は、ダイラス=リーンというよりも、むしろタラリオンやセレファイスといった都市を想起させます。セレファイスのような大理石の壁と青銅の門とは言い難いので、タラリオンが近い印象を受けます。ところがダイラス=リーンに近い雰囲気を持つ港湾都市の方の画像では、巨大都市と思しき場所から空中都市へ向かう帆船が見えます。ダイラス=リーンからも月に向かう船は出ているのですがこれは邪神に従う者が操る黒いガレー船。全く別物なのですよね。

 セレファイスは賑やかな商業・港湾都市であるダイラス=リーンや神秘の都市タラリオンとは違い、我々の知る世界から来た夢見人と呼ばれる人間が治めている平和で豊かな都市です。むしろ邪神に対抗する為の土地として有名で、ダイラス=リーンのように支配されることは中々ありません。

 じゃあセレファイスなのか、と聞かれると更にややこしい問題があって、実はアビゲイルの宝具台詞パターンによっては翡翠と思しきものが採掘されている山の画像も出てくるんですよ。幻夢郷ドリームランドで翡翠と言えばイラーネクという場所から齎されるものが有名で、しかもその翡翠ってダイラス=リーンで取引されているんですよね。

 意図的に、セレファイスともダイラス=リーンともタラリオンともつかないように見えるんです。おそらく一定の尺でより多くの情報を詰め込むために、意図的に少しだけずらした表現を使い、より多くの幻夢郷ドリームランドの土地を示唆したのではないかと私は考えています。


「隠されし厳寒の荒野」


 レン高原です。これはカダスのある土地が凍てつく荒野と称され、特にカダス周囲はレン高原と呼ばれる危険な土地になっていることから断言できます。レン高原は様々な場所に通じており、現実世界と幻夢郷ドリームランドの境界も危うく、様々な世界の接点なのではないかと言われている難所です。

 これを(色々あったけど)無事に越えたのはランドルフ・カーターのみとされています。ランドルフ・カーターはセイレムでも出てきたあの人の元ネタになっております。

 この荒野を越えた先に、神々が静かに隠れ暮らすカダスの山が存在します。

 独自考察ですが“神仙”が住む蓬莱の山と、地球固有の神と蛮神が住むカダスの山を重ね合わせているのかもしれません。地球固有の神の顔を掘った石像が、中国系の人々の顔に近いので、そういった縁を利用することで、蓬莱をカダスに見立てたアビゲイル(クトゥルー神話勢力)が干渉してきている可能性が考察されます。


「蕃神の弧峰」


 宝具演出を見た当初、これはすなわちカダスと呼ばれる土地ではないかと見ていました。ここにはニャルラトホテプのような邪神(蕃神)と地球固有の神が隠れているとされています。しかし面白いことにこの台詞を言う時の背景が「神々の像が安置された山」なんですよね。そこから幻夢郷ドリームランドにおいてかつて神々が存在し、その像を残したングラネク山も示唆している可能性もあります。像の顔が一部分だけ映されていませんが、これは人種的にセンシティブな問題を持った描写が含まれるため、その問題に対する配慮の一環として石像の顔面を映していないことが推測されます。


「未知なる絶巓」


 こちらは間違いなくカダスです。ランドルフ・カーターだけがたどり着いて生還した場所であり、ランドルフ・カーターは窮極の門を越えて神と一つになった存在でもあるので、詳しい話は残っておらず、やっぱり未知は未知のままです。そもそもこの辺りの話のタイトルが「未知なるカダスに夢をもとめて」なので、未知とついている以上、未知なる絶巓カダスなんだと思います。

 これは仮説なのですが、カダスは未知の場所なので、宝具の際に出てくる映像に含まれていないんじゃないかと見ています。

 たどり着けないという点においても、蓬莱山=カダスという見立てでアビゲイルが暴れているとしか思えないんですよね。


「訪れど 去ることかなわん」


 これは幻夢郷ドリームランドの性質の話です。私みたいに重度のクトゥルー神話ファンやディープな夢見人だったりするなら帰らないことは充分考えられます。ですが通常、去ることは可能です。幻夢郷ドリームランドを自由に歩き回る夢見人でも、幻夢郷から戻ってくる人が居るくらいです。わざわざこんなことをアビゲイルが言っているのは藤丸立香を絶対逃したくないからじゃないかなと判断しています。


「其は夢見るままに まちいたり」


 ふんぐるい むぐるうなふ くとぅるう るるいえ うがふなぐる ふたぐん。

 死せるクトゥルー、ルルイエの館にて、夢見るままに待ちいたり。

 青ひげの旦那も詠唱していた一節と同じようなものです。

 クトゥルーも封印の中、海の底で眠っています

 アザトースも玉座で眠っています。

 今回の宝具において、夢見るままに待っているのは、これまでの考察からクトゥルーではなくアザトースや窮極の門の彼方のヨグ=ソトースなのではないかと推察されます。


【アビゲイル・ウィリアムズの宝具について(第一再臨後) 2020/08/24追加】


「深き眠りの門の彼方、旅巡るは千の驚異、神秘のすべて

 失われし黄金都市、壮麗なる永遠の花洛、神々の御座、夢果つる極限の門

  訪れども去る事は叶わじ、『遥遠なりし幻夢郷ドリームランズ』」

「70、700の夢の階段きざはし。旅巡るは千の驚異、神秘のすべて

 失われし黄金都市、壮麗なる永遠の花洛、神々の御座、夢果つる極限の門

 いざ禁忌を破り夢幻をくぐらん。『遥遠なりし幻夢郷ドリームランズ』」


 こっちも2パターン! 情報が……多い! とはいえ勘所は既に説明してあるのでこちらでは変更点についてだけ説明していきましょう。

 失われし黄金都市は初期の幻夢郷ドリームランド作品である「白い帆船」において示唆されていたカトゥリアだと思われます。ある優れた夢見人が到達に失敗し、夢を見る力を失ってしまった黄金の町です。

 壮麗なる永遠の花洛は今度こそセレファイス……ごめん違うわ。永遠って入っている上に花のみやこなので、ソナ=ニルです。スチパンシリーズでもあったよね“紫影のソナーニル”。あれの元ネタです。

 神々の御座は例によってカダス、アザトースの玉座という可能性もゼロではないのですが、再臨前なのにアザトースの玉座にわざわざ言及するか? という疑問があるのでこれは保留させてください。

 夢果つる極限の門は、銀の鍵の門と見て良いでしょう。幻夢郷ドリームランドの冒険を終えたランドルフ・カーターはその門へと向かい、それを越えたので。

 再臨前の台詞はより「白い帆船」のイメージが強化されているので、アビゲイルの意図するものを感じてみたい方はThe Creative Cat様の無償公開版の翻訳「白い船」(http://www.asahi-net.or.jp/~YZ8H-TD/misc/WhiteShipJ.html)を読んでみてください。


【アビゲイル・ウィリアムズの宝具について(第三再臨後) 2020/09/01追加】

「深き眠りの門の彼方、天うは星々の帆船ほぶね

 雲のとばりの摩天楼、猫くつろぎし聚楽じゅらく、神々の宮、凍てつく荒野の絶景! 

 訪れし客人まろうどは、去りたしとはゆめ願わじ。『遥遠なりし幻夢郷ドリームランズ』!」

「七十、七百の夢の階段きざはし。天き交かうは星々の帆船ほぶね。雲のとばりの摩天楼、猫寛くつろぎし聚楽じゅらく、神々の宮、凍てつく荒野の絶景! 探索の徒らは、待望しその戸口を叩かん。『遥遠なりし幻夢郷ドリームランズ』!」


 こちらの2パターンですね。

 もう説明した要素しかねえな! 大丈夫! それにしても再臨するごとにクトゥルー面を隠そうとしますね! 俺がダブルクロス3rdプレイしてる時みたいだ! そういうことすっから卑劣扱いされるんだぞ! ダブルクロス3rd最新サプリ「クローリングケイオス」近日発売よろしくね!


 さて、雲の帳の摩天楼はセラニアンだし、猫が寛いでいるのはウルタールだし、神々の宮と凍てつく荒野は問題ないでしょう。

 ただ補足するとすればあれですね。

 ドリームランドに訪れた探索者が必ずしも帰りを願わないこともないですし、探索をしているからといって頑張って行こうとしなくても良いものです。

 たどり着く人は遅かれ早かれ着きますので、無理に麻薬などに頼って向かおうとしてはいけません。僕も病状がひどく診断がつかないときに麻薬性鎮痛薬に頼ったことがあるのですが、あれはいけません。とても楽になります。楽になってしまうと今何が起きているのか分からなくなってしまいます。分からなくなってしまうのは辛いですからね。なにごとも。


【補足:ヨグ・ソトースと不老不死】


 今回のアビゲイルが強いのはドリームランドが再現されていることだけが理由ではありません。


 実はクトゥルー神話においても、不老不死と死者蘇生を追求した魔術師は存在します。しかも彼らの多くがヨグ=ソトースに由来した魔術を使っているのです。「チャールズ・ウォードの奇怪な事件」でヨグ=ソトースを崇拝していたと思しき魔術師ジョゼフ・カーウィンが子孫の肉体を奪ったり死者を蘇生することでこれらの目的を果たそうとしていました。ヨグ=ソトースと死の超越というテーマは元より親和性が高いのです。また、ヨグ=ソトースの異名に「戸口に潜むもの」というのがあるのですが、ラヴクラフト作品の中に「戸口にあらわれたもの」というのがありまして、この登場人物がアセナス・ウェイトという名前なんですよね。アビゲイルのモチーフの一部となった「ダンウィッチの怪」におけるウェイトリー一族と似た名前だと思いませんか? このアセナス・ウェイトの一族もジョゼフ・カーウィンのように他者の肉体を奪いとることで不老不死を追求していました。

 このように、蓬莱における不老不死の追求という状況下に、ヨグ=ソトースの親和性は非常に高く、その結果、巫女としてアビゲイルが大幅に強化された状態で動いていたと考えるべきでしょう。


【終わりに】


 現段階で出ている情報への考察は以上です。


 追加でお話したいこととして、アビゲイルのお披露目は8/20でした。ラヴクラフト御大の聖誕祭がある8/20に、ラヴクラフト御大の分身たるランドルフ・カーターを導いたヨグ=ソトースが、ゲームの中でメインで取り扱われたことには、非常に大きな意味やリスペクトがあると考えています。私は「水着アビゲイルが居るけどクトゥルー神話要素はまあフレーバー程度、ホラーの一ジャンルとして扱われるくらいだろう……」と、思っていたのにこんなデケえ愛を浴びてしまって幸せです。本当に最高だよFate/Grand Order……! こんなすげえクトゥルー神話が目の前で繰り広げられているなんて信じられねえよ……生の映画を見ているようなモンですよ。最後までついていきます! ありがとうございます!


 勿論、何かあるたびに解説などを書いていきますし、他のゲームであってもリクエストや需要があると判断すれば、解説を書いていきます。何か有ったらまた見に来てください。

 また、小説ではなくて、別の形でクトゥルー神話の世界に寄与できるお仕事の話も今相談しているところですので、この記事が役に立ったなあ気に入ったなあと思っていただけたら、ぜひそちらの方も応援してください。お話できるようになり次第、こちらで告知いたします。よろしくね。

 以下に今回の記事と関連するこれまでの記事の紹介を載せておきます。

 復習も兼ねてぜひ読んでみてください。


 次回まで、くれぐれも家賃以上の課金の呼び声へと耳を傾け過ぎぬように。


【関連項目】


第七回 亜種特異点Ⅳ「異端なるセイレム」に出てくるクトゥルー固有名詞について

https://kakuyomu.jp/works/1177354054880900124/episodes/1177354054884548368


第八回 葛飾北斎体験クエストに出てくるクトゥルー固有名詞について

https://kakuyomu.jp/works/1177354054880900124/episodes/1177354054884822732


第十五回 FGO 2018年夏イベント「サーヴァント・サマー・フェスティバル!」に出てくるクトゥルー神話要素について

https://kakuyomu.jp/works/1177354054880900124/episodes/1177354054886687846


第二十二回 FGO“楊貴妃”のクトゥルー神話要素について

https://kakuyomu.jp/works/1177354054880900124/episodes/1177354054893387413


【宣伝】


 しがない高校教師が、麻薬村のエルフたちと暮らす内に、悪徳貴族と戦う必要に迫られた挙げ句、麻薬王にまで成り上がってしまう異世界転生ものです。

 僕が転生するならもっと綺麗なドリームランドが良いなあ~って思うんですが、綺麗汚いはさておきとっても面白いのでぜひご一読ください。

 フォロー、☆、応援コメントなど、とっても歓迎です。


「異世界麻薬王~元化学教師が耐毒スキルと科学知識で迫害されたエルフを救い麻王-まおう-となる~」

https://kakuyomu.jp/works/1177354054897365656

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