第33話

「確認しました。次の指示を待ちなさい」


 『勇者』の追撃もなく、『ようさいワニ』に乗り込んだボクたちが、『妖魔軍』に戻って得たのが、元帥のその言葉だった。3姉妹の顔に浮かんだ、嬉しさが印象に残ってる。

 部屋に待機となり、ボクたちは傷を癒すことに専念する。


「やあ」


 それは本当にふらっと、だった。フジコさんが、部屋に入ってきたんだ。

 ミドたちはいない、探検っていってたかな。


「いいかな?」


「告白ですか?」


「絶対に違うね」


 照れちゃってもう。

 フジコさんは椅子に座り、しげしげとボクを眺める。


「村を襲った、『勇者』とあったって?」


「はい」


「……どうだった?」


 ボクに聞いているんじゃない。

 同じ思いを抱いているものとして、答えを聞きたがってるんだ。


「難しいですね、でも―」


「でも?」


「一発、殴ってやりたくなりました」


 正確には、ひっかくだけどね。


「……ふふ」


 いい笑顔だなあ。やっぱり、フジコさんは好きだ。


「そうかい」


「そうですね」


 膝を抱えて、悪戯っぽく微笑む。ああもう、なんなんですか? 悶え死にさせようとしてるんですか? それもいい!


「偶然じゃないよ」


「……」


「キミの村も、モンスターに変えられたのも、『勇者』も」


 わかってるよ。

 あの村で『勇者』と会った時、確信に変わった。それまでちょこちょこ、引っかかりはあったけどね。

 偶然にしてはロマンチックだよ。たぶん、最初の襲撃から、元帥は読んでいたのかもしれない。


「……どうする?」


 眼を落して、柔らかな口調でフジコさんは問いを続けた。

 

「決まってますよ」


 ボクはフジコさんを見据えて、答えた。


「敵討ちです」


「『魔王軍』にかい?」


「はい」


 木の義手を、動かす。見事な、滑らかな動きだった。


「だから、フジコさんに協力します」


「ボクとは、目的を違えたようだけど」


「『勇者』を倒せるくらいじゃなきゃ、魔王に勝てませんよ」


 そう、今のままじゃ、勝てない。

 

「フジコさんは、フジコさんの『勇者』を倒すのに、ボクたちを利用すればいいじゃないですか。ボクたちも、利用させてもらいます」


「……」


「そしてなにより、将来設計について―」


「それはないね」


 素直じゃないなあ。

 運命的なのになあ。

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僕は魔王軍の一員として、精いっぱいがんばります! あいうえお @114514

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