最強最弱のイツキくん
@kobutya
プロローグ
春、桜が舞い散る季節。ふと桜を見ようと花見に来ていた俺の眼前では、なぜか桜では無く、火花が散っていた。
どういう事かと説明すると、赤髪ポニテ美少女と灰色ロングヘアー美少女が剣で競り合っているのだ。
「あのー……」
真昼間の公園。そんな所で少年漫画さながらの戦闘を行っている二人を見て、俺は少し戸惑いながらも口をはさんだ。
「…………」
ところが二人とも無反応。こちらには目もくれずに剣を当て合ってる。
本来ならば、こんな危なそうな輩なんかとは関わらずにどこかへ行くのだが。
「そこ、俺の場所なんですけど……」
運悪く、彼女らが戦っている場所は俺が花見のために敷いたシートの上だった。先程少しトイレに行ったあと、小走りで戻ってみるとこうなっていたのだ。
その後も俺の事など気にせずに戦闘を続ける二人。さすがに腹が立ってきた。
「いいかげんにしろよ!」
普段はあげないような大声で怒鳴ってみた。こうでもしなければずっと無視される事になるだろう。
「……なによ、あんた」
怒鳴った甲斐あってか、やっとポニテの子がこちらを見てくれた。もちろん剣で競り合いながらではあるが。
「そこ、俺が場所取りした所だから、やるなら他所で出来ないか?」
二人の必死の戦いとは対照的に俺は冷静な口調で頼み込んだ。
「はぁ!? なんであんたなんかに指図されなきゃいけないのよ!」
気に障ったのか、ポニテ少女がこちらを睨んできた。あまりの殺気に少々怖気づきそうにもなったが、こちらは何も悪く無い事を思い出し、気を持ち直した。
「こんな所でドンパチやられても困るの!」
「うるっさいわね! 終わるまで待ってなさいよ!」
また怒鳴られてしまった。さすがに二回も怒鳴られると気が少し落ち込む。
「あら、他所見なんてしてる場合でしょうか?」
今度はこれまで黙って俺らの会話を聞いていたロングヘアの少女が、完全にこちらに気を取られているポニテ少女に対して呟いた。それと同時に彼女は剣で一気にポニテ少女を押し切って、そのバランスを崩した。
「ふぇっ? ちょっ!」
「まだまだですね……」
どん、と大きな音を立ててポニテ少女を倒れてしまった。すかさずロングヘア少女がポニテ少女の首元に剣を突きたてた。
「私との戦いの最中なのに、他に気を取られるなんて。甘すぎます」
少し眉をひそめながら言うと、ロングヘア少女はどこかへ歩き去っていった。
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!」
ポニテ少女が手を伸ばして彼女を引き留めようとするが、あちらには聞こえて無いようだ。それに気付くとポニテ少女はうなだれてしまった。
「落ち込むのはいいが、とりあえず俺のシートからどいてくれないか?」
「なによあんたぁ! あんたのせいで負けたじゃない!」
キッとこちらを睨んでくるポニテ少女。しかも少し涙目。負けたのが悔しかったのだろう。
「お前らが俺のシートの上で戦うからだろ」
そう、彼女らがここで戦ってさえいなければ、俺は口をはさむ事は無かった。要するにTPOは良く考えろ、という事だ。
「ううっ。ここがあんたの場所だったなんて知らなかったんだから仕方ないじゃない!」
大声を出すと共に彼女の目に溜まっていた涙が溢れだした。
「はぁ。泣きたいのはこっちだよ」
「しらっないわよ! ……あら?」
肩を落としている俺を尻目に、ポニテ少女が何かに気付いたように凝視していた。
「な、なんだよ?」
「あんたの顔……どこかで」
目を細めるポニテ少女。そのまま渋い顔をしながら数秒黙り込んだ。
俺はその様子を見て、ため息をつきながらも、シート回収のため仕方なしに彼女が思案するのを待つことにした。それから数秒。
「ああああああああああああああああ!?」
「うおっ」
突然先程までより大きい声を上げるポニテ少女にびくっとしてしまった。少女の方はというと物凄く驚いた顔でこちらを指差している。
「あ、あ、あんた! イツキとか言う奴じゃないの!?」
「え、そうだけど?」
彼女の言う通り、俺の名前はイツキだ。そんな世の終わりみたいな顔で呼ばれる名前では無いとは思うが。
「う、嘘。こんな奴が」
そのまま彼女は狼狽した様子でこちらを見ている。俺が何かしたのか? いやきっとこの場合、次に叫ばれるであろうセリフは。
「こんな奴が最強の能力者だなんてええええええええ!?」
である。
最強最弱のイツキくん @kobutya
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。最強最弱のイツキくんの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます