あとがき

おわりに


こうして、彼は本当に失せてしまった。

ほんとうに、なんて恐ろしい男だったのかしら。


なんておそろしく……甘ったれだったのかしら。


確かに生まれた時代が悪かったと言いたくなる気持ちもわかる。

「それでもみんな堪えて頑張っている」なんて言葉は通用しないでしょう。

親の教育も少々不十分だったところがあったかもしれない。


でも、選んだのは自分自身。責任はすべて彼にある。


囚人と銃撃の話を御存知かしら。

箱の中に死刑囚を入れて、別の囚人に銃を持たせて

「発砲訓練に協力してくれ。あの箱に銃弾を当ててみろ」

とか何とか言って箱を撃ち抜かせるの。当然、中の死刑囚は死ぬわよね。

そして、撃ってから真実を知った発砲者はこう言うの。


「私は命令に従っただけだ。何も知らなかったんだ」


それは確かに事実だし、彼は嵌められたと言ってもいいくらいよね。

だけど、実際に彼は死刑囚を撃ち殺した。その罪からは決して逃れられないし、一生消えない。

ちょっと例えが野蛮だけど、彼に関しても同じことが言えると思う。

すべて他人と時代のせいにして、自らの意志で何かを生産することもなく、ただ与えられたものを消費するだけ。でもその現状を維持すると決めたのは彼自身。選択を先送りにした報い。

要するに、赤ん坊なのよ。生後二十五年の赤ん坊。

挙句最期は私を残して勝手に失せた。自己満足ここに極まれりとはこのことでしょうね。


ところで、何故彼はこの短い三篇の手記を遺したのかしら。

これは私の勝手な推測なのだけど、彼はさびしかったのではないかしら。

わけもわからず周囲に「異常」と認識され、誰も彼の話を聞かない。理解しない。

人は誰しも、他人に迷惑をかけちゃいけないと教わるし、かけたくないと思う。そこは彼も同じだった。

でも一方で、誰かしらと常につながっていたいと願う、わがままな生き物でもある。彼が共感していた犯人も、そういうのが動機の一つだったのではないかしら。

人は誰しも「構ってちゃん」であり、その手段が法に触れると犯罪者と呼ばれ隔離されてしまう。なんとも皮肉な話よね。


さて、彼は最期の最後に望みを叶えてこの世を去った。

残された私は、これからどうしようかしら。

手記を読んで考えたのだけれど、やっぱり筆を動かして文字を綴る行為を続けていこうと思う。

おそらく彼は最初に手記を発見するのは家族の誰かだと想定していたのでしょうけど、運よく私が最初の読者にうなることが出来た。お生憎様。

勝手に私を残したのだから、私も勝手にさせてもらったって、罰は当たらないわよね。


そういうわけで、この手記は私がもっと有効に活用させていただくことにしたわ。

彼のことを書けば、私も作家になれるかしら。

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生後二十五年 りろ・だは~か @liLoVinale

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