死にたい男

@teikazeroyen

死にたい男

男は苦しかった。

それは1年ほど前の出来事であったが、男は見知らぬ世界に、いつのまにかいたのであった。


その世界は、食べ物も水もない、自分以外に誰もいない…あるのはただ、見慣れた風景が広がっているだけの世界であった。


しかし、男はこの世界に来てからというものの、腹も減らなければ、喉も乾かないのであった。

この世界に来てから1年の間、色々なことを試した。

建物から飛び降りてみたり、自分の首を絞めてみたり、とにかくこの世界が苦痛だと感じていた男は自殺を図った。

が、痛みも感じなければ苦しくもない、高い所から落ちても傷一つつかない、いったいどうなっているのか…

男は考えたが、やはりわからない。


そうこうしているうちに2年が過ぎた、苦痛も通り越してこの世界に慣れてきた、どうせ死ねないのであれば、なんとか自分以外の人を見つけてみようと、いろんな場所へ行ってみた。


歩けども歩けども、同じ景色、自分が見たことのあるような場所しかない。

いや、実際見たことのある場所なのであろう。

だんだん嫌気がさしてきて、そのうち歩くのをやめた。


そうすると不思議なもので、また死んだらどうなるのだろう、とか、死にたいなとか思うようになってきた。



3年目、急に体が重くなった。

ここにきての日数などすでに数えるのをやめた男にとっては3年、などという数え方は意味のないものなのかもしれないが、とにかく、急に苦しさを覚えた。


長らく、そんな体の異常など感じたことのなかった男にとっては、少しうれしくもあったが、同時に不安でもあった。


4年目、ついに一歩も動けなくなった。 不安などとうに無くなっていた男は、やっと死ねるのか、と安心していた。

が、同時に息苦しさに加えて体のいろいろな場所が痛み始めた。

腹や背中、頭…とにかく痛いのだ。


5年目、既に何も感じなくなっていた男は、薄れゆく意識の中自分の姿を見ていた。 ほとんど骨と皮だけになって、ベッドに横たわる自分の姿を見ていた。


周りには、見たことのある顔がある。

その顔を見て、自分の見に何が起こったのか、男はすべて思い出した。


あの日、交通事故にあったのだ…

恐らく植物状態になり、ずっと病院のベットに寝ていたのだろう。

そして今、自分は死んだのだ。



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