ある丑三つ時の出来事

最近ペンタブが欲しいチャーハン

魔人と青年の話

 丑三つ時である。

 一人の青年が、一軒の豪邸に近づいた。青年が窓に近づき中を覗くと、ひどく太った男が豪華な戸棚の前に立っていた。青年には男が、何かを必死にいじっているように見えた。

 青年はあらかじめ用意していた石を投げてその窓を割り、素早く室内に侵入した。中年男は青年を見て唖然とし、少ししてからあわてて逃げ出したが、もう遅かった。彼の肥えた肉体では、どうやっても青年に追いつかれた。

 青年は持っていたナイフで中年男を何度も刺し、動かなくなるまでそれを続けた。中年男は終始無言で、うめき声一つ漏らさずに死んだ。

 青年は中年男が持っていた、金色のランプを拾い上げた。彼はそれをもって豪邸から逃げ出し、夜の闇を蛇のように駆け回った。

しばらくして、彼は街のはずれにある空き家に隠れた。床に座り込み、服のポケットからあのランプを取り出した。青年はそれを目の高さまで持ち上げ、満足げに笑った。ランプの金色が、窓から射した月の光を受けて光った。

 青年は服の袖でランプをこすった。途端にランプの口から煙が噴き出し、驚いた青年は咄嗟に目を閉じた。少しして彼が目を開けると、そこには一人の男がいた。男は宙に浮かび、耳は異様に尖っていた。


「またか」


 男はそう言うと、深々とため息をついた。青年は聞こえなかったのだろうか、大はしゃぎで言った。


「やった、やったぞ。噂は本当だった。あの資産家が持っていたのは、本当に魔法のランプだった」


「私はランプの魔人だ。前の主人を殺した者が、次の主人となる。新たな主人はお前だ」


「ああそうだ。あいつを殺したのは俺だ」


「ならば願いを聞こう。ただし、一つだけだ」


 青年は魔人と名乗る男の言葉を聞き、前からずっと抱いていた願いを告げた。


「俺を、大金持ちにしてくれ」


 すると、男は首を横に振った。


「そんなあやふやな願いではだめだ。もっと詳しく伝えてくれなければ、私とてどうすることもできない」


 青年はそれを聞き、ふと、一人の顔が浮かんだ。その男は資産家で、街でも有数の大金持ちだった。生活は豪華で、見るからに幸せそうな男だった。

 青年はにやりと笑って、自分の前にいる魔人に言った。


「お前の、前の主人のようにしてほしい」


 そこで、青年の意識は途切れた。











 青年が目を覚ますと、そこには驚くべき光景が広がっていた。

 部屋の床には真紅のじゅうたんが敷かれ、その上には高価そうな調度品が配置されていた。高い天井からはシャンデリアが吊るされきらびやかな室内を余すとこなく照らしていた。自分の願いが叶ったと知った青年の心は歓喜に震え、直後に凍り付いた。

 青年はその部屋で一人、人を殺した覚えがあった。

 そして今、青年は、自分の腹がでっぷりと太っていることに気付いた。

 青年は壁につけられた戸棚に飛びつき、その上に飾られたものをむんずとつかんだ。全身に変な汗をびっしょりとかきながら、彼はそれを必死になってこすった。金色をしたランプからはもう、煙が出る様子は無かった。

 その時、ガラスの割れる音がした。見ると、部屋に一人の男が入ってくるところだった。痩せた体に汚らしい服をまとい、ぎらぎらとした瞳でこちらを睨みつけていた。青年はその男の顔を知っていた。彼が右手に持ったナイフで何をするのか、嫌というほどわかっていた。

 青年だって鏡ぐらい、見たことはあった。

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