エピローグ こうした世界になるちょっとした要因の一部分を貴方に伝えようとしたけれども全ては闇に葬られ誰の目にも留まらぬまま永久に消えた真実など誰が掘り起こしたり信じたりするものか

 さぁ、皆様! 足元が悪い中、よく集まってくださいました!


 今回、皆様に報告したいのは……かねてから我々が調査していた例のウイルスのことです。


 そう……。

 ついに……発見できました!


 ああ、この発見までにどれだけの月日を費やしたものか! 出資や経費などの面で散々苦労を重ねてきましたが、とうとうその成果が実ったのです!


 まぁ……我々の苦労話なんて、普段から忙しい皆様には興味無いのでしょうね。ですから、細かい内容は省きますよ。不本意ながら……。


 さて、それではウイルス発見までの経緯を簡単に説明させてもらいます。


 我々は数年もの間、西インド諸島にてウイルスの研究を続けてきました。

 なぜそこに拠点を置いていたかというと……その島々周辺ではゾンビとして死体を操って農場の労働力として使役する文化があったと言われているからです。ヴードゥー教の呪術師が死体を蘇らせていたという文献が数多く発見されました。

 ゾンビパウダーという人間を仮死状態にして数時間後に蘇らせる毒薬を使用していたという説もありますが……そんなもの我々の眼中にはありません。

 我々が目指しているのは……本当に人間を蘇らせるウイルスなのです!


 我々はその呪術師の末裔と呼ばれる人物の家系を遡り、当時呪術を使用していた人間の墓を発見しました。


 そこに……あったのです!

 本物の……!

 死体を蘇らせるウイルスがっ!


 墓の中で結晶化した体組織の中にありましたよ!

 発見に最も貢献してくれたのは、我らが早田そうだ早苗さなえ女史です! 彼女に心から拍手を送りたいっ! 彼女は何年もの間、研究員を率いて研究を進めてくれました! 苦しいことも悲しいことも沢山あったと思います! ですが、めげずに地道な活動を続け……とうとうこの日を迎えることが出来たのですっ! 私は彼女にノーベル賞をあげたいっ!


 ……すいません、熱くなり過ぎましたね。


 では、話を戻します。

 その採取された体組織の結晶を解析したところ、中にウイルスが閉じ込められていました。どうやら、そのウイルスは体の組織内でないと生きられないようです。

 そのウイルスを培養して人間の死体に注入した結果、注入から数分後には体が再度活動を開始するのが確認されました。

 いやぁ、どうです? 皆さん? 現在、スクリーンに映し出されているこの動画、信じられないでしょう?


 我々はこのウイルスを、『パペットウイルス』と名付けました。この感染者は呪術師に意のままに操られていたらしいですからね。まるで傀儡人形パペットのように……。そこから採って、こうした名前となりました。


 ただ、文献と少し異なっていたのは……起き上がった死体が感染者を増やすために他の人間に噛み付こうとすることですね。文献の内容だと、ゾンビは無気力で命令が無い限りはボーッとしているらしいのですが……。

 彼らに噛み付かれると、体内でパペットウイルスが急速に毒素を生成して人体を死へと追いやります。そして再び起き上がり、新たな増殖場所、つまり非感染者を探し始めました。


 さらに、このウイルスの興味深いところは……人間以外の生物にも影響を及ぼせる点ですね。

 マウスで実験したところ、マウスが巨大化してオオカミのようになりましたよ。そして、そのマウス……いや、オオカミは非感染のマウスを無視して人間へと襲い掛かりました。これによって何人の研究員の命が失われたことか……!

 このウイルス……という環境が整っている限りは、何が何でも人間への感染ルートを確保したいようですね。すごい執念だとは思いませんか?

 その後も実験を重ねた結果、人間の体温と似た温度環境にある生物には影響を及ぼすことが判明しました。気温が35℃近い日には取り扱いに注意しなければなりませんね。特に蒸し暑い場所は要注意です。


 しかし、そんなことはあまり問題ではありません。呪術師の墓から発見されたウイルスはそれだけではないのです!


 起き上がったゾンビたちを操るための、女王蜂となるウイルスの発見にも成功したのですから!

 このウイルスを注入された人間はパペットウイルス感染者に襲われることはありません。人間以外の感染生物でも同様です。その気になれば簡単な命令も出せます。体内での毒素生成も確認されませんでした。


 かつて、西インド諸島の呪術師と農場の権力者はこのウイルスを体内に打ち込んでから死体を操っていたのでしょう。無闇にパペットウイルス感染者を出さないように、深夜に生きている労働者を頑丈な寝床に押し込めてから、死体に作業させていたようです。


 使い手である呪術師シャーマンから採って、我々はこちらのウイルスを『シャーマンウイルス』と名付けました。


 さて……今後、このウイルスを使った活動の場についてお話しましょう。特に、そこに座っている軍事関係者の皆様、よくお聞きください。

 ウイルスは『シャーマン』と『パペット』でセット販売する予定です。

 このウイルスの真価を発揮できるかはシャーマン感染者次第! パペット感染者に大量の爆弾を持たせて敵の基地へ突っ込ませたり、斥候せっこうとして罠の中を歩かせたり、その使い方は様々でしょう!

 ただ、パペット感染者を野放しにしないように細心の注意を払ってください。グローバル化が進んだ現在では、「あ」っと言う間にウイルスは広がるでしょう。もしそうなっても、我々は責任を負えませんからね。


 それでは、この演説の終了直後にウイルスのご注文を承ります。


 ここまで、ご静聴ありがとうございました。


 以上、三尾森みおもり森太郎しんたろうがお伝えしました。

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ゾンビが大量発生中だけど、三尾森美緒は狙われない ゴッドさん @shiratamaisgod

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