第1話 異世界に召喚された件について

……さてと、一体ここはどこかな?


目が醒めると、青色の魔法陣が描かれた、白色のコンクリートの上にアグラをかいていた。

周りを見渡すと水や草木に囲まれた雄大なガーデンのようだ。


お、お、お、OK、落ち着け上条正人(カミジョウマサト)。まだ慌てる時ではない!

何があったか冷静に思い出して見よう。


俺はつい先程までいつものように教室で寝ていた。

いや、先程までじゃなく、今現在も眠っている。

つまり、これは明晰夢だ! 自分で夢であると自覚しながら夢を見ている状態に陥ってるアレだ!


「いてっ!」


足首をネズミに似た生物に噛まれた。

……少し待て、痛覚があるという事は夢ではない?


噛まれた足首を軽く摩ってみると、痛覚と共に少量の血が手に付着していた。


……おい、やべぇよー、混乱しそうだよー。

この雄大なガーデンを見る限り、ココは天国ように見えなくもない。

そうか、俺は死んだのか……


何という事もない普通の人生。

対して頭も良くない高校に入学し、県内でも普通レベルの剣道部に入り、17歳という若さで死ぬ。


心の中のシコリがあるとすれば、人生で一度も彼女が出来なかった事だ。

おかげで童貞。

まだ若いからいつでも童貞卒業のチャンスは来る! と思い込んでいた自分を殴りたい。

すまない、息子よ。まさか未使用のままあの世へ旅立つとは……


「お目覚めですか?異世界の勇者よ」


俺が息子に懺悔していると、頭上から冷淡な女性の声が聞こえた。

見上げてみると、漆黒のローブを纏い、淡く柔らかな印象を与える紫色のショートヘアーに、髪と同色の、何も興味を持たないような冷淡な瞳をしている女性が、両端に騎士の格好をした人を引き連れ、立ち尽くしていた。


「……は? 異世界の勇者?」


Brain freeze……

この美人さんは何を言い出すんだ、まさかアレですか? 今ネットで流行ってる異世界転生系ですか? いや、待て! 冷静になって考えるんだ!

ネット小説とかだと、一番初めに何かしらのアクシデントが起こるはずだ。事故で死んでしまったり、正体不明の女神に連れ去られたり……


つまりこれは夢だ! 俺は死んでもいない! よし、そう思い込んでおこう! あぁ〜早く家に帰ってゲームやらねぇとなー!!


「今は頭の整理が出来ていないと思います。私が順を追って説明致しますので、少しご同行願いますか?」


俺の現実逃避思考をぶち壊すように言い放ち、俺の意思など関係無しに歩き出した。

黒ローブの両端にいた騎士達が俺の背中を軽く押して、さっさと進めと威圧してくる。

ご同行願いますか?って聞いてるんだから任意同行じゃねぇの?半強制的に連れて行かれるんですけども!まぁ、行く当てもないから良いけどさ……。


「ここでお待ち下さい」


それだけ言って、俺を水晶玉やタロットカードのような物が散乱している、いかにも胡散臭い部屋に放り込んだ。

あの黒ローブの人、声は可愛いけど何だか冷たいなー……。

そんなこんなを考えていると、1分も経たない内に、黒ローブが戻ってきた。


「お待たせしました。それでは、事のあらましをご説明させて頂きます」


ーー俺に説明力がないから簡潔に済ませてもらうが、事のあらましとやらはこんな感じだ。


こちらの世界、へブン・プロテクションは新生魔王が誕生した為、人類が危機的状況におちいっているらしい。そこで、魔王と同等の力を持つ勇者を、召喚士によって召喚されたのが、まさかの上条正人君。

俺が元居た世界は、現在どうなっているか分からない。

すまんな、お母様とお父様、そして友人達よ……いや、友達はいなかったけどさ。

そして魔王を倒して欲しいとさ、ま!ありきたりな設定だぜ。

その他には、この国の通貨や魔法,スキルの事について簡単に教えて貰った。

と、まぁこんな感じだ。別に俺がいた世界は、楽しいなんて感じた事ほとんど無かったせいか、ショックはあまりデカくない。


それよりも、異世界の勇者の件だよ! まさか平凡な人生を送り続けたこの俺が、異世界の勇者として選ばれるなんて!! 人生何があるか分からないねぇ……。

一度人生の幕下ろしてるけど……。


そして俺は今から、ステータス確認するらしい。

黒ローブ曰く、異世界の勇者には必ず莫大な力が備わっているらしい!!

見える、見えるぞ……っ!ここで俺の凄まじい潜在能力が花開く時が!


「それでは勇者様、この魔力探知玉に手を置いて下さい」


「魔力探知玉?」


「あぁ、失礼しました。コチラの水晶玉は、触れた者のステータス一覧が表示されます」


ほぉ〜、随分と高性能な水晶玉だな。もしや知らないだけであって、俺が居た世界の水晶玉も、似たような力が備わっているかも知れない。

もし戻ってしまう事があったら試してみようかな。

……まぁ、戻る事はないだろうけど。


「それでは改めて、この魔力探知玉に手を置いて下さりますか?」


「りょーかい!」


俺は内心緊張しながら、俺TUEEE! 的な淡い未来を妄想しつつ、魔力探知玉に手置いた。


「これは…!?」


コレはもしや世界揺るがす強大なチカr


「筋力、体力、魔力、敏捷性、器用度、知力度、全てにおいて普通だわ……」


「……ふぇ?」


思わず萌え声が出てしまった。


「スキルは、ファイヤー、サンダー、ブリザード、エアロなどの初期スキルがいくつかと、特殊スキルはフラグ・エンペラー?聞いた事ないわね……」


俺の思考は一時的に停止した……。

待て待て待て、どういう事だ! 異世界からの勇者は莫大な力を元々持っているんじゃ無かったのか!

それに、俺が描いた淡い妄想!全て砕け散ったじゃねぇか!


……つーか、フラグ・エンペラーってなんだ?神は俺に喧嘩を売っているとしか思えないんだが。


「この魔力探知玉、壊れてるのかしら……」


「黒死蝶(コクシチョウ)サマ!!」


突然、凄まじい勢いで扉が開いた。

そこには息を切らした傭兵らしき青年が驚愕の表情を浮かべながら、黒ローブを見ている。


つか、黒ローブは黒死蝶って名前なんだな。黒死蝶の意味は分からないが、なんかイメージ通りって感じだ。


「何があったのか簡潔に述べなさい」


「ゆ、勇者様がもう一人! もう一人召喚されています!!」


へぇ〜、俺以外にも召喚されていたんだな。まぁ、そりゃそうか。魔王と同等の力を持つ者を召喚しまくれば、魔王討伐なんて時間の問題だろうしな。

魔王をリンチにするのは盛り上がりに欠けるが……。


「他国が無断に召喚した可能性は?」


「その可能性は低いと思われます! 国への伝達が届いていませんし、召喚魔法を使用した時に放出される膨大な魔力も、感知されていません!」


「…………」


何を言っているのかさっぱり理解できずに戸惑っている中、黒死蝶は考える素振りをしている。感情は顔に出していないけど。


「あの〜黒死蝶さん、一体何が起こったんですか?」


思わず聞いてしまった。

色んな事を頭によぎらせて考え中なのは分かるが、流石に気になる。

異世界に召喚されて早々、非常事態に見舞われるとは……良い加減少しは休ませて欲しいものだ。


黒ローブは考える素振りをやめずに、目線だけを俺の方に向けた。


「異世界の勇者は、最大一人しか召喚されないはずなんです。

詳しい事は後々お教えします。まずは新たな勇者が召喚された場所まで移動しましょう」


「了解しました! 馬車をご用意しておりますので、こちらで目的地まで向かいましょう!」


マジかよ……かなり気になるが仕方がない。

俺は、モブ臭溢れる傭兵の先導に従い、馬車に乗り込んだ。

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異世界に召喚されたので人類と魔王を滅ぼしてみます。 蒼井・ミクロ @MrMikuro3

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