スーパーひろしくんVSお花の妖精フローラ

ロッキン神経痛

花の惑星から来た悪魔


「オーホッホッホ!初めてですよ、私がこの姿を他人にお見せするのは」


甲高いダミ声が、テレビスタジオの中に響いた。このスタジオでクイズ番組の司会をして、もう30年にもなるベテラン司会者の草壁くさかべひろしは、こちらを勝ち誇ったように見下げるその得体のしれない生き物を睨むと、自身の額から流れる血を拭った。これまで、世界中の変わった動物たちを何百とレポーターミステリアスハンターと共に紹介してきた草壁も、このように二足歩行で人語を話す生物はついぞ見たことはなかった。


「私と互角に戦える生物がこの世界にいるとは、ふしぎ発見です」


草壁がそう強気に返すと、その生物はそれをあざ笑うかのように、オーッホッホともう一度高笑いをする。スタジオの壁には、直径3メートルもの大穴が開いており、そこから外の景色が覗いていた。このスタジオでの撮影はいつも深夜に行われていたが、その大穴越しに見える空は、まるで夕暮れのように赤く染まっている。


その赤い空は、大地の炎の色が反射したものだった。そう、東京が燃えているのだ。その上、見渡す限り一面が瓦礫の山となり、遠くの地平線がはっきり見えてしまう程壊滅的被害を受けている。


ある日突然、この国の首都を襲った規格外の暴力の嵐。それは、瞬く間に起きた出来事だった為、多くの人々は自分が死んだことにすら気づかなかったことだけが救いだった。



_____



その破壊は、世界中の人々に何の前兆を感じさせることなく、突如この東洋の島国の首都で始まった。空から降ってきた異物が、この都市を象徴する巨大な電波塔にぶつかり、それを横倒しにしたのがスタートの合図だった。


かつて人類が経験したことのない圧倒的な暴力は、その理由も原因も人に知らせぬまま、電波塔を中心とした半径30キロメートルの範囲を一気に吹き飛ばした。瞬く間に大勢の命を奪い、ビルというビルを倒壊させた圧倒的な破壊は、この国の中枢を麻痺させ、人々は、ただ逃げ惑うしかなかった。


この殺戮と破壊の意味を知る唯一の存在は、今、宙高く浮かび下界を見下ろしていた。その破壊の張本人は、やれ戦争だ、いや隕石だと混乱する生き残った人々虫けらのことなど最初から気にもとめていない。それは、破壊する事自体が目的であり、破壊をただ楽しんでいる為である。


人類とは全く違った価値観を持つこの生物は、遠い宇宙にある花の惑星に住む妖精であり、地球人から見ればいわば宇宙人であった。この宇宙人は、たまたまこの辺境の惑星ほしに訪れて、に人類を滅ぼそうとしており、そこに地球人が求める理由などなかった。あらゆる惑星を気の向くままに蹂躙し、支配し、植民地を必要とする宇宙人に売り飛ばす宇宙の帝王を自称する彼にとっては、地球人下等生物を眼中に入れることは、それ自体が難しいことなのだ。


見渡す限りが焦土と化すようなこの破壊も、最強を自称する力を持った彼には、ほんの腹ごなしの為の運動のようなものに過ぎない。可愛い妖精の羽根をぱたぱた羽ばたかせ、空を飛びまわると、倒壊を免れた高層ビルを、自身の蹴り一つであっけなくこっぱみじんに破壊していった。一通り散歩に飽きた後は、手のひらを地上に向け、それを呆然と見上げる生き残った人々に向けて光のエネルギーを放った。


ゼロから生み出された強大な光のエネルギー波は、哀れな地球人達はもちろん、そこにあったあらゆる構造物やコンクリートを根こそぎなぎ倒していく。辺りに立ちのぼった粉塵が収まった後に現れたのは、すりばち状にえぐれたむき出しの大地だけであった。


そんな圧倒的かつ徹底的な破壊の中で、彼は一つの建物が残っているのに気づいた。近寄ってみると、まるで自分の乗ってきた宇宙船にも似た円盤が乗ったそのビルは、周囲の圧倒的な破壊からそこだけが取り残されたように、不自然なまでに無傷であった。


彼が不思議そうにそれを眺めていると、そのビルの屋上に背広姿をした地球人が一人立っているのに気づいた。なんと、まだ人間が生きていたか、と初めて地球人に興味を向けた彼は、その生き残りの地球人に、運の良い虫けらめと、一発のエネルギー弾を放つ。するとその直後、彼にとって予想もしていなかった驚くべきことが起きた。


彼の放ったエネルギー弾の破壊力は、この星の軍事力と比べるまでもなく圧倒的なものだった。しかし、あろうことか、目の前の地球人は素手でそれを弾き飛ばしたのだ。地球人に右手で払いのけられたエネルギー弾は、赤く染まる空へと消えていった。


「あなた、一体何者ですか」


発した言葉に、少し驚いた顔をし、その年老いた男は一言答えた。


「私は、ただのアナウンサーです」


アナウンサー、それが何を指す言葉かは分からないが、まあ当然、私の敵になるような相手では


ドガァアアアア!!


次の瞬間、圧倒的な力を誇る宇宙の帝王は、無様にも大地に身体を打ち付けていた。一瞬地球人の姿がゆらいだと思ったら、次の瞬間後頭部を強く打ち付けられる衝撃と共に、大地が目の前に近づいてくるのだ。それが攻撃を受けて自身が落下しているのだと気づく頃には、既に身体中に激しい痛みが走っていた。


「き、貴様・・一体」


「言ったでしょうアナウンサーだと」


謎の地球人は、そう言って


「おっと言い忘れていました、地球最強のね」


と付け足すと、空中に浮かび上がったまま、地球の平和を脅かす侵略者を見下ろし、微笑んだ。


シュワシュワシュワシュワシュワシュワ・・・


その地球人は、全身金色のエネルギー体に包まれ、自身の生み出す風圧で背広がぱたぱたと風になびいている。どうやらアナウンサーとは、ただの地球人の名称ではなさそうだった。


「オーホッホ、私としたことが虫けら相手にずいぶんと油断していたようですね」


そう言いながら、彼は耳当てのついた眼鏡のような機械のボタンを押す。ピピピと機械音が響き、相手の分析を始めた。これは、フラワーカウンターといって、花の惑星に住む妖精である彼、フローラの一族が使用する特殊な機械であった。これによって、彼らは戦わずして相手の力量を測ることができるのだ。


「あなた、アナウンサーさんとおっしゃいましたね、仕方無い、宇宙最強の私が相手になってさしあげましょう」


フラワーカウンターの眼鏡部分はディスプレイになっており、そこに相手の戦闘力フラワーパワーが数値として表示される仕組みになっていた。この地球人を計るフラワーカウンターの数値は、5から100、100から1,000へと上がっていく。


(ほう、地球人の平均を大きく超えた戦闘力フラワーパワーを持っているようですね。それならさっきの攻撃も納得がいく・・・何っ!?)


そのまま桁が6桁を越え7桁を表示した直後、ボンッという派手な音と共に、その計測器は壊れた。100万の戦闘力フラワーパワーまで計る事ができるはずのフラワーカウンターだったが、一体どうしたことだろうか。


「クッ・・・故障ですか」


役に立たなくなったフラワーカウンターを地面に叩きつけ踏みつぶす。


「まあいいでしょう、すぐに八つ裂きにしてさしあげますよ」


キエエエエイ!宇宙人は、甲高い叫びをあげながら背広を着た地球人の元へ跳躍し、まず太い尻尾をその胴体に叩きつけた。そのまま無様に吹っ飛んだ先へ移動し、地面に叩きつけ、そしてエネルギー弾を


「ば、馬鹿な・・・」


そこには、防御の姿勢もとらず、最初の尻尾の攻撃を受けても微動だにしない地球人の姿があった。叩きつけた尻尾は、そのままむんずと掴まれている。そして、そのままぐるぐると砲丸投げのような回転と共に放り投げられ、なすすべもなく瓦礫と化したビルに叩きつけられた。


「ガハァッ!」


口から紫色の血を吐き出す。馬鹿な、この宇宙最強の帝王の私が、叶わない相手などあっていいはずがない。しかもそれがこんな辺境の惑星の、チンケな原住民共の中にいるなど、許されるべきではない。今すぐに叩きつぶさねば、帝王の誇りに傷がついてしまう。


「き、貴様ァ・・・!!」


ビリビリと、宇宙人の周囲にエネルギーが集まり、電気が走る。まさかこの惑星で本気を出すとは、彼自身思いもしなかっただろう。目にも止まらぬ速さで地球人に向かって拳を叩きつける。さすがに今度は動かざるを得なかったのか、その地球人もそれに合わせて右の拳を突き出した。拳と拳がぶつかりあうすさまじい衝撃波が辺りの空気を揺らした。


徐々に押されている。宇宙人がそれに気づいたのは、それからしばらく経ってからだ。お互いに決定打となるダメージを与えられないまま、ただ時間だけが過ぎていった。そんな中、ふと地球人が見せた一瞬のスキを突いて、地球人を上から力任せに地面叩き付けることに成功した。


奴が地面から立ち上がる前に、両手から連続エネルギー弾の嵐を浴びせかける。キェキェキェキェ!!このエネルギー弾の一発一発が、ビルをなぎ倒し、地面に大穴を開ける程の破壊力を持っている。これを何十発と叩きつけたのだ、これで間違いなく殺ったに違いない。しかし、土埃の向こうから現れたのは、エネルギー弾の隙間を抜けてきた地球人の余裕に充ちた表情だった。しまった、あのスキは故意に作られたものか、そう思う前にボディに強烈なタックルが入っていた。ゴハァ!まずい、このままでは負けてしまう。プライドにこだわっている場合ではなさそうだ。


「ククク、仕方ありませんね、奥の手を使いましょう」


そう言って、あくまで余裕を装いながら距離を取る。


「ほう、まだそんなものを隠していたんですか」


ムカつく程に穏やかな口調で地球人が言う。まるで本当に感心しているような様子が、いちいちこちらの神経を逆撫でしてくる。

ふん、まあいい。今見せてやろう、真の姿を・・・



___



ハァァァアアアアア!!


その生き物が拳を握り叫ぶと、一気に辺りの気がビシッと張り詰めた。まるでそれに合わせるかのように空も暗くなり、黒い雲に辺りは覆われ、ぽつぽつと雨も降り始める。すさまじい気が辺りに巻き起こり、風圧に飛ばされそうになった。そして、生物の気が爆発的に強くなったかと思うと、さっきまでとは全く別の姿をした生き物がそこに立っていたのだ。


頭から生えていた2本の角と、その間に生えた一輪の赤い花、可愛らしい羽、赤青緑黄色のサイケな柄の体の模様は全て消え、あっという間に全身が、白と紫だけのシンプルな色に変わったのだ。

ブンブンと、身体と同じほどの長さを持った尻尾を振り回すその生き物は、小さな身長からは想像もつかない力を秘めているのが、草壁には分かった。


さっきとは比べものにならない程禍々しいその気は、見た目の変化だけでなく、この生物がさっきまでとはまるで別物の力を手にしたことを知らせていた。こんな短時間で変体を遂げ、草壁に匹敵する強さを持つ時点で薄々感づいてはいたが、恐らくこれは地球の生き物ではないのだろう。宇宙は、まだまだ草壁ひろしの発見していないふしぎで溢れているのだ。


「さぁ、ショータイムです」


そう宇宙人に言われると同時に、突然目に映る景色がぐるんぐるんと回転した。攻撃の軌道が全く見えない、それ程に速い一撃だった。一直線に吹っ飛ばされながら、草壁ひろしは思う。負けるかもしれない、と。


飛ばされた先は、無傷だったテレビ局のビルだった。壁に大穴を開けて、局内にゴロゴロと転がり込んだ草壁。あまりのダメージに全身を包んでいた気が解かれ、頭を怪我したのか流れた血で視界が赤く染まっている。そこは、皮肉にもさっきまで収録中だった自身の番組のスタジオだった。


「草壁さん、大丈夫ですかっ!?一体何が、う、うわあああああ!」


収録中、慌てて外へ出て行ったかと思えば、今度は壁に大穴を開けて戻ってきた司会者に、番組の出演者であり、パネラーの野々崎が駆け寄った。しかし、その後から入ってきた異様な姿の生物を見て、驚きのあまりへたりこんでしまった。いつもは場の空気を読み、気の利いたジョークで番組を沸かせる野々崎も、宇宙最強の花の妖精を前にしては、ただうろたえるだけであった。


「オーホッホッホ!初めてですよ、私がこの姿を他人にお見せするのは」


勝利を確信したのか、高笑いをする宇宙人に、草壁は精一杯の軽口を叩いてみる。しかし、その表情に余裕はなかった。まさかこの宇宙人がこれほどの力を隠しているとは思いもしなかった。もしも私が負けた後、人類に勝ち目はあるというのだろうか。


「どうやらこちらの地球人は、あなたのような力は持っていないようですね」


ゴシュ、ゴシュという独特な足音をさせ宇宙人が、野々崎の方へ近寄る。


「あなたっ、私以外の人間に手を出すのはやめなさいっ!」


そう言って、宇宙人に駆け寄った草壁は、尻尾で軽くはたかれパネラー席にまで飛ばされた。


「草壁さん!あなた大丈夫ですの!」


パネラー席の陰に隠れていた、同じく出演者の黒林が消え入りそうな声を出す。


「おやおや、まだ人間が隠れていましたか、順番に殺してさしあげますから、そこで大人しく待っておいでなさい」


「ほんまにー君は何やね、外国人選手かなにかかー?」


そこに事態の深刻さを分かっていないのか、トイレから戻ってきた出演者の板西が宇宙人に気安く話しかけた。


「順番にと言ったでしょう!キエエエイ!」


「ゆでたまぶっ!!」


宇宙人が指から発射した光線に貫かれ、板西は事切れた。


「板西さん・・・」


草壁は、悲しそうな目で板西の亡骸を眺める。


「オーッホッホ、殺す順番が変わってしまいましたね」


いやらしい程に丁寧な言葉遣いの宇宙人は、地面にへたり込んだままの野々崎の首を掴んだ。それを見て、やめろと絶叫する草壁。しかし、その必死の声も虚しく、宇宙人は野々崎を、そのまま壁に開いた大穴から天高く放り投げた。


「野々崎くんっ!!!!」


「うわあああああ草壁さああああん!!」


デデーン(効果音)


宇宙人が空へ舞い上がる野々崎に片手を向け、指をクイッと上に曲げる動作をする。それと同時に、野々崎は内側から膨らみ、空中で木っ端みじんにはじけ飛んだ。


「オーッホッホホ!見てごらんなさい、まるで花火のようですよ!花だけに!」


ドクン・・・


目の前で古き友が、まるで虫けらのように殺された。突然現れた宇宙人に、何の意味も無く。


「おやおや、あまりのショックに声も出ないようですねぇ、でも安心してください」


ドクン・・・


草壁は生まれて初めて真の怒りというものがふつふつと自身の身の内に沸き上がってくるのを感じていた。しかし、そんな激しい怒りの中で、何故かそれを冷静に俯瞰しているもう一人の自分も同時にいた。静と動、二人のひろしが見つめ合っている。


「すぐに、あなたも木っ端微塵にしてさしあげますよ、あの地球人のように」


ドクン・・・


「あの地球人ですって・・・?」


「失礼ですが、それは野々崎くんのことですか・・・?」


今なら勝てる、いや勝たなければならない。強い思いと共に、草壁は立ち上がる。何故か、これまでにない気の充実を感じる。大気中の気という気が、草壁に集まってきているかのようだった。野々崎を殺したこの宇宙人を、私は許さない、絶対に、許してはならない!!


「野々崎くんのことですかぁぁぁああああああ!!」


すさまじい風圧が草壁を中心に生まれ、遠巻きに様子を見ていたスタッフが、スタジオの壁に叩きつけられその一部となった。白髪染めによって黒く染まっていた草壁の頭髪が、みるみる根元から金色に変わっていく。そして、虚無空間から現れた赤いヘルメットと赤いマントを草壁は力強く手に取ると、それを自身に纏った。ヘルメットとマントに包まれ、神々しい黄金の気に包まれた草壁は、全くの別人のようだった。



___



「ふん、金色になったからどうだって言うんです」


そうは言ってはみたものの、目の前の地球人の雰囲気は、さっきまでとは明らかに変わっている。完全体と化した自分の相手になるとは思えないが、油断はしないほうがいいだろう。


「残念ですが、この力の制御が上手くできそうにないので、一瞬で殺してしまうかもしれません」


宇宙人がやれるものなら、と言い終わる前に地球人が動く。ドスンという衝撃がみぞおちにしたかと思うと、遅れて激痛が襲ってくる。気づけば、ビルから遠く離れた空に向かって身体が打ち上げられていた。反撃しようと相手の姿を探すが、今度はズドンと首元に衝撃が走る。受け身も取れないまま、渾身の力を込めて地面に叩きつけられてしまった。仰向きになって見上げると、こっちに向かってすさまじい光が向かってくる。速い、追いつかない。


「くたばりなさいっ!」


すさまじい力が身体の内から沸いてくる。まさかこの歳であれ以上の高みへ、自分の限界を越えることができるとは思いもしなかった。ある種の感謝と共に、ありったけの力をこの宇宙人にぶつける、ぶつける、ぶつけ続ける。決して一瞬たりとも休ませはしない。これは惨めに死んだ野々崎くんの分、顔面にエルボーを入れる。これは死んだスタッフの分、尻尾を掴み、地面に何度も叩きつける。


「そしてこれが、死んだ視聴者達の分ですッッッ!!」


両手から連続して気の塊を放つ、地面からやっと立ち上がろうとする宇宙人にぶつかったそれは、派手な音と共に爆発した。土埃が舞い、宇宙人の影が見えると、そこには満身創痍ながら、こちらをにらみつける鋭い眼光があった。


「ちくしょう・・・ちくしょう・・・ちくしょおおおおおおおおお!」


心底悔しそうに叫ぶと、その宇宙人の細身の筋肉は、瞬く間に数倍に膨張し、筋肉にビキビキと太い血管が走った。感じたことのないすさまじい気が辺りに充満している。宇宙人の中で限界にまで高められた気が、今にも外に溢れ出てきそうだった。おそらく、これは限界を超えた力なのだろう。それほど強力ではあるが、同時に不安定な力だった。しかし、それは限界を超えた力をふるう草壁にとっても同じこと。今まさに、二人の決着の瞬間が近づいていた。


限界と限界、究極の力と力が二人の肉体を通してぶつかる度、辺りには轟音と共にすさまじい衝撃波が広がる。お互いに一歩も譲らない、少しでも譲った方が敗北するぎりぎりの戦いだった。一撃一撃に大地が揺れ、雷が二人の周りに落ちていく。それは、まるで永遠とも一瞬とも取れる不思議な時間ときだった。もはやどちらが勝つのかは神にも分からない。結末は、ただ二人の肉体のみが知る、究極の戦いが続く。


「ハァ、ハァ・・・ククク・・・」


そんな極限状態の中、突然攻撃を止めた宇宙人が、邪悪な笑みを浮かべ空高く飛び上がった。草壁は、一瞬怪訝な表情を浮かべた後、その意図を察したのか宇宙人に向かって叫ぶ。


「あなたっ、外道にも程がありますよっ!!」


「うるさい!貴様のような目障りな地球人は、俺に殺されるべきなんだーーっ!!」


いつまでも決着のがつかないことに焦りを感じたのか、その宇宙人のとった手段は、この惑星ごと地球人を葬りさるというものだった。この惑星を手に入れられないのは残念だが、自分を圧倒するような力を持つ、こんな危険な存在を許しておく訳にはいかない。自分の持てる全ての力を込めて、文字通り最後にして最大の一撃を奴にぶつけ、この地球もろとも破壊してやるのだ。


「くらぇぇぇええええええ!!」


両手を上にかざし、瞬時に巨大なエネルギーの球体を作り上げ、地球に向かって投げつける。宇宙人の全エネルギーをつぎ込んだそれは、地上の草壁から見て、全体が見えない程に大きなものだった。


「そうはさせませんよっ!はぁぁああああああ!!!」


草壁も、負けじと全身全霊の気を両手に集中させる。黄金の光が、草壁の周りでバチバチとぶつかり合い、足元はヒビ割れ、辺りの瓦礫や岩が重力に逆らうように宙へと舞い上がる。


「ボッシュゥゥゥウウウウト!!!!!」


その気合の入った掛け声は、ひろしが昔飼っていたネコ、ボッシュと遊んでいた時に思いついたもので、以来何十年と彼の決めゼリフとなっているのだ。


愛するこの地球を、不思議で溢れるこの緑の大地を守る為、草壁が両手を、こう、花!そう花みたいな形にして放った気の塊は、宇宙人の放った巨大なエネルギー球の中心にぶつかり、そのまま渦となり、そのエネルギーを吸い取るようにどんどんと膨張していく。


「馬鹿な、馬鹿な、ありえない、こんなこと、ありえちゃいけないんだあああああああ」


テレッテレッテぽゎゎゎゎ~~~ん(効果音)




「ちくしょぉぉおおおおおおおおおおおお!!」


宇宙人の必死の叫びも虚しく、ついにエネルギー球をかき消した気の塊は、醜く膨張した筋肉の宇宙人を、その存在ごと消し去り、暗雲を貫くと、宇宙に向かって巨大な光の柱を立ちあげた。


全ての力を使い果たした草壁ひろしは、膝から崩れ落ちた。髪の色は元に戻り、ヘルメットは割れ、赤いマントもボロボロと崩れ落ち霧散していく中、空を見つめている光無き瞳には、雲ひとつ無い晴天が映り込んでいる。さっきまでの激しい戦いが嘘だったかのように静まりかえった瓦礫の山の中心で、人知れず地球を救った英雄はあの穏やかな笑顔を浮かべていた。



【旧版】

http://rockinsink2.hatenablog.com/entry/2016/05/10/122217

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