毎日を自堕落に生きるめんどくさがりの男の、平凡な日常とその行く末のお話。
ホラーです。それもドロドロと鮮烈なえぐさが山盛りの不条理系ホラー。とにかく強烈というか濃厚というか、いろんな種類の「不快」が一気に降り注いでくるかのような、本当に容赦のない作品です。
何かにつけては「だるい」といい、あらゆることに対して投げやりな態度の主人公。率直に言ってあまり好感の持てる人物ではなく、実際どう見ても褒められたものじゃない言動も多々あるのですが、でもそんな彼の行く末に付けられたこの『愛の尻拭い』という表題。なかなかにえぐいものがあると思います。
中盤にある衝撃の展開を皮切りに、一気呵成に畳みかけてくるかのような悪夢の猛ラッシュ。この終わりのない憎悪と不快感のエレクトリカルパレードみたいな展開が、もう本当の本当に刺さりました。いやだって確かにひどいやつだけどでもこいつそこまでのことした!? と、つまりは「もうやめてあげて」とごく自然に祈ってしまうほどのこの救いのなさ。こんな体験だけは絶対にしたくないと思わせてくれる、あまりにも地獄めいた物語の終着点。とにかくしんどくて、本当にキツくて、その辺りがとことん最高な作品でした。
うまくいえないが、無駄がなくてすごい。というと、〈作品の狙いがある一つの効果(オチ、シーン)に絞られていて、その狙いに向かって作品のすべてが収斂していく〉ことが想像されるかもしれないが、そういう話ではない。
作品のどこを読んでいる時点でも、その読んでいる部分の強度(インパクト? リアリティ?)がすごい。私に〈さて話はこれからどう展開するのかな〜?〉などという、読者として安全圏にいるからこその余裕を抱かせることなく、起きていくことだけに引きずり込む。
その意味では、先述したような〈オチに収斂する〉作品とはむしろ対極かもしれない。そういう作品は、オチだけに強度を集中していて、他の部分は強度あるオチをへもっていくための道具だから。
でもじゃあ、どの瞬間も強度あるのを連打してくるせいで、結末の印象が弱まり閉じた感がなくなるんじゃないかと心配されるかもしれないが、それもきっちりクリアしてくる。
理屈づけるなら、〈(健全な状況なら)健全な見解〉を作中唯一結末で発揮することで、異常が日常と化してしまい、そのちっぽけな健全さにすがって異常状況下で過ごしていくしかないと決まった語り手の、これまでと質の一段異なった絶望が生まれている、ということだと思う。
ほんとうに惚れ惚れする。