3月 ニート、情けない
遠くで聞こえる体育会の胴上げの声、学位記を持って写真を撮る袴姿の女子達、後輩から貰った花束を抱えて照れ臭そうにする卒業生の男子達。
一年前と変わらない風景が目の前に広がっている。俺と晶子ちゃんは、偶然休日が重なり、一緒に後輩の卒業式を祝いに来ていた。
「卒業おめでとう!」
俺達の姿を見つけて袴で走ってくる女子の後輩と、それを見ながらゆっくり歩いて近づいてくる男子の後輩。皆、清々しい表情で、この祝いの場を大いに楽しんでいる。
「晶子さん、来てくれてありがとうございます!」
「佐久間さんも来てくれたんですね」
「ていうか、何で佐久間さん来たんですか?」
「佐久間さん、写真撮ってくださいよ!」
「あ、じゃあ私のスマホでもお願いします!」
俺は言われるがままに、渡されるスマホで何枚も同じような写真を撮りまくった。晶子ちゃんは卒業生に混じって穏やかな笑顔でカメラのレンズを見ている。
「はい、もうこれで終わり」
「あ、佐久間さん待って! 祐子が来たからもう一枚だけお願いします! 祐子!」
女子の後輩の一人が走って田島祐子という俺達の後輩の一人が通り過ぎようとするのを追いかける。祐子ちゃんは気付いて戻ってきて、学位記と花束をカメラによく映るように掲げて笑った。俺はシャッターボタンをタップする。
「ありがとうございます!」
とにかく、テンションが高い。女子は特に、袴姿が華やかだし、ベラベラ喋りまくるし、「THE☆お祝い」状態だ。男子も食堂で開かれている祝会で出された酒を飲んできた奴がいて、まだ日が高いが飲み会モードだ。
俺だけが、この場の雰囲気に馴染めていなかった。それも当然だった。去年の俺と今の俺は何一つ変わっていない。就職もしていないタダのクソニートだ。後輩の門出を素直に祝う資格がない。
自分の卒業式の時、俺はこんな未来を想像しただろうか。漠然とした危機感はあったが、それと同じくらい熱さも持っていた。なぜなら、俺には夢があったから。人気ラノベ作家になって、一躍有名になりたかった。それがどうしたことか。大手企業の子会社で汗水たらして働いている同期の女の子の部屋に上がり込んで、ひたすら食ってバイトして寝て、最近じゃ、ノートパソコンの起動ボタンすら押さなくなってしまった。
情けない。なんて情けないんだろう、俺は。
どうしてこうなったんだろう。
原因はわかっているはずだ。
俺に能力がないからだ。機会にも恵まれていない。コネもない。認めたくないが、才能もないのかもしれない。
これからどうしたらいいだろう。いつまでも晶子ちゃんの世話になっているわけにはいかない。でも、今から就活したって、雇ってくれる会社があるとも思えない。雇ってもらえたとして、続くとも思えない。
俺の人生はもう再起不能なのか。起き上がるにしても、その後、どうしたらいいかわからない。まさに生き地獄。どうしよう。こんな俺に生きている価値はない。
ニートじゃない、小説家だ! 伊豆 可未名 @3kura10nuts
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