解決編
解決編
「犯人はあなたです! 木之本楓さん!」
金田探偵は、そう言って木之本楓をピタリと指さした。
「……って、はあ!? ふざけないでよ! 私は何もしていない! いったい何の根拠があって私を疑うのよ! まさか『オレオ』は私を指しているとでも言うの!?」
木之本は探偵の言葉にいきり立つ。だが探偵は動じず、淡々と説明を続ける。
「ええ。このダイイングメッセージは、あなたが犯人であると明白に示しているのです」
金田は厚紙を持ってくると、フェルトペンでこう書いてみせた。
——木ノ本
そして、探偵はこの文字列の右下を手のひらで隠す。
——木ノオ
「おいおい、まさか……」
「そうです。このダイイングメッセージは『オレオ』ではありません。刺された折尾さんは、『木ノ本』と書こうとして途中で力尽きたんです」
「そんな馬鹿な話があるわけないじゃない! 誰かの陰謀よ! 私じゃない! 私は誰かにはめられたのよ! 何か証拠でもあるっていうの!?」
自分が追い詰められつつあることを感じた木之本楓は、どうにか推理から逃れようと髪を振り乱して絶叫する。
「犯人は、凶器の包丁はもちろん、雨合羽やガムテープを用意するなど、周到な準備のもとで犯行に及んでいます。しかし、手袋は見つかっていない。ここまで道具を用意しておいて、うっかり手袋を忘れるなんてことは考えにくい。そして、相手の体にここまで深く包丁を突き刺すには、軍手などでは持ち手が滑って犯行は不可能でしょう。犯人は丈夫なビニール手袋を嵌めて犯行に及んだはずです」
探偵は自信満々に続ける。
「この閉ざされた山荘では手袋を処分する場所も時間もなかったはず。どこかを調べればきっと、内側に木之本さんの指紋が残ったビニール手袋が発見されるはずです。あたりが血の海になるまで激しく包丁を振り回したんですから、皮膚の断片も残されているでしょう。あなたの部屋を捜索させてもらってもいいでしょうか」
他の客たちの、恐れるような、あるいは憐れむような視線が女に突き刺さる。木之本楓はぐしゃぐしゃと髪をかき回し始めた。
「……あいつが……折尾がぜんぶ悪いのよ。あんなものは小説じゃない……折尾は死ぬべきだったのよ。あんな馬鹿げた小説を生み出す奴は……。なんで、なんでみんな私の小説を読んでくれないの……なんで星を入れてくれないのよ……なんであいつばっかり……あいつの手抜き小説は注目されるのに、なんで丹精込めて書いた私の小説は誰も見てくれないのよ……なんでよう……」
そう言うと木之本楓はへたりと座り込んで、わんわん泣き始めた。おいおい、そんな動機かよと一同は思ったが、小説の恨みは怖いともいう。悪ふざけはほどほどにしておいたほうがいいだろう、そして自分も誰かに刺されたりしないような小説を書いていきたいなと、金田探偵は心底そう思うのであった。
オレオ殺人事件 小林稲穂 @kobayashiinaho
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