エピローグ

1





『「オウ・ランジ・ジウス」を下さい』



「は?オレンジジュース?」

『オレンジジュースではありません「」です』


 出発して約数時間が経過した頃。

 なんだか機体がカスッカスッとおかしな音を立て始め。

 ノアがアナウンスを流した。


『「オウ・ランジ・ジウス」は箱舟の燃料で御座いマス。ハイパードライヴモードは大変エネルギーを消費するものなのでそろそろ燃料の補給が必要デス。底をついてしまえばこれ以上進むことはできません』

「墜落しちゃうの!?」

『ご心配いりません。もともと当機体には地球時間でいう、ひと月分の燃料が積み込まれておりマス。ボンベ一本分の「オウ・ランジ・ジウス」で一週間は持ちます。デスのでタンクに早めの補給をお勧め致しマス』


 言われるまま、僕らは宇宙船の尻尾の部分まで行き、燃料タンクのバルブを捻る。


「う……わ」


 蓋を開ければむあっとなま暖かい、柑橘系の甘酸っぱい匂いが広がる。

 果肉らしきものがそこらじゅうにへばりついて、確かに言われた通り、深いタンクの底にちょびっとだけ残っている。橙色の液体。


「オレンジジュース!!」


『オレンジジュースではありません。オウ・ランジ・ジウスです』


「いや、どこからどう見たってオレンジジュース以外のなにものでもないだろこれは……!」


 目を離した隙に顔をタンクに突っ込んだノルンが指で掬いとってぺろんと舐める。


「おいしい!」


 本当にそれだったみたいだ。


「ど……うなってるんだこの船は!ほんとにオレンジジュースが燃料なのか!?そんなもので宇宙まで飛べるだなんて!ば、馬鹿げてる……ッ、誰だこんな設定思いついたの!クレイジー過ぎる!」

『な、――創造主である神を愚弄する気で御座いマスか!?いいから早くオウ・ランジ・ジウスを下さい、本当に動けなくなりますよ』


 取り乱す僕にノアが叱責し、補給を促す。

 ちょっとどういう理論で成り立っているのか突っ込みたくてうずうずするのだが、船が落ちるのはそれ以上に困る。


「燃料はどこ?」

『隅に纏めて積まれておりマスので、それをお使いくださいませ』

「ないよ?」

『いえ、そんなはずは……』


 いや。ほんとに見当たらない。


『なんですって……燃料がない!?何故!?ありえません!!あるはずなんデス!ないなんてこと絶対にないデス!右の隅に……積んであったはずなんデス!補給分のボンベが!!』


「――え」


 ……あ。


「ライ君。どしたのその顔」


 ボンベ。ボンベ……。

 ……ボンベ。

 積んであった。ボンベって……。


 僕。

 それ、さっき……。


 無我夢中で取り外した座席を外にぶん投げた映像が蘇る。



「捨てちゃったかも…………」






 おわり?


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魔法少女の機械兵 天野 アタル @amano326

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