木の葉を隠すなら森の中

——犯人は森


 体育倉庫の床には、血文字でそのようなメッセージが残されていた。斉藤が血まみれの遺体となって発見されたのだ。騒ぎをいち早く聞きつけて集まった多数の生徒たちで、現場はごった返していた。


柚月「まだ遺体は温かい……。たった今殺されたと見て間違いないだろう」

木村「まさか森くんが斉藤くんを殺すなんて……」

森「ちょっと待って下さい、僕は犯人じゃありませんよ!」

村西「じゃあ何で斉藤は『森』って書いたんだよ?」

小林「ひょっとして、書いている途中で力尽きたんじゃないでしょうか」

森「そうだ! 森山と書こうとしたけど『森』までしか書けなかったんだろう!」

森山「俺に罪をなすりつける気か! つまらない言い逃れをしやがって! この殺人鬼め!」

木下「まあまあ森山くん、落ち着いて。森田さんという可能性もありますし」

森田「そんなわけないじゃん! 斉藤くんは私の彼氏だよ! 私が殺すわけないじゃない!」

木崎「ははっ、なおさら怪しいじゃないか。どうせ喧嘩でもしてそのはずみに……」

森田「最低! なんてこと言うの……」

木谷「他の可能性として、『林』と書いたところに、偽装のため犯人が『木』を書き加えたという可能性もありますね」

林「冗談じゃあない! これだけはっきり『森』と書かれているのに俺まで疑うのか! さすがにこじつけが過ぎるだろう!」

林部「今度は、『林部』と書こうとして力尽きたところに、犯人が『木』を書き加えたとか言い出すんじゃないよね」

桐山「当然その可能性もあるよね。おや? 林部は自分から可能性を言い出すことで逆に容疑者から外れようという魂胆か?」

森下「待ってよ。それじゃあ『林』どころか『木』だけで力尽きたのかもしれないじゃん! 木村、木下、木崎、木島、みんな可能性がある」

木島「おいおい、無関係の俺まで巻き込むつもりかよ。まったく、名前に『森』の字が入ってる奴はどいつもこいつもクズばかりだな」

森迫「何だと? 差別だぞ、それは! 言っていいことと悪いことがあるだろうが!」

小林「私関係なさそうだし手がベタベタするからちょっとお手洗いに行ってくるね」

柿崎「それじゃあ、桐山だって可能性があるだろ。斉藤は『桐』の『きへん』だけ書いたところで力尽きたんだ」

桐山「だからそれは名前が『きへん』の漢字で始まる奴全員に言えることだろ! なんで俺ばっかり疑うんだよ! 柿崎、お前だって含まれるだろ!」

木林「そこまで言うなら、そもそもこのダイイングメッセージすべてが犯人によって書かれている可能性だってあるな」

村田「おい、それじゃ結局何にもわからないじゃないか!」

木之本「どいつもこいつも勝手なこと言いやがって! 犯人名乗り出ろや!」

松田「あんたバカ? 名乗りでるわけないじゃない!」

森園「ああもう! みんないい加減落ち着いてよ!」

桐崎「自分が犯人にされそうだってのに、これが落ち着いていられるか!」

木田「待て、よく見ろ。……斉藤の指には血が付いてない!」

林原「なんだって! このメッセージは斉藤が書いたわけじゃないのか! じゃあ犯人は一体誰なんだ……?」

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