ゴリザードリィ~狂ゴリラの試練場

久保田

ゴリザードリィ~狂ゴリラの試練場

 時はゴリラ暦千六〇〇年くらい。世界はゴリラに満ちていた。

 なんやかんやあって文明を手に入れたゴリラ達は、なんやかんやバナナを食べていた!

 しかし、天才魔術師であるゴーリラーが三日くらいかけて掘ったダンジョンに、世界全てのバナナを隠してしまったのだ。

 バナナを奪われ怒り狂ったゴリラ達は、狂ゴリラの試練場に挑む――




「ここが狂ゴリラの試練場……」


「ああ、何て精巧な作りなんだ」


 五人の若ゴリラ達の眼前に広がるのは、一つの洞窟だった。

 スコップの跡がはっきりと残ったむき出しの土壁は、恐らくゴリラの手によるものだ。

 飽きっぽいゴリラがこれだけの物を作れるとは……五ゴリラ達はゴーリラーの根気に恐怖した。

 曲がる事なく奥の奥まではっきりと見えるダンジョンは、如何なる恐ろしい罠が仕掛けられているというのか。

 だが、


「俺達なら出来る。そうだろう?」


「ああ、ゴリ助」


 ゴリ助、荒くれ者揃いのゴリラ達をまとめるゴリラ。その人望はバナナにも負けない。


「頼りにしてるぜ、ゴリ雅」


「フッ、我が知略をお見せしましょう」


 ゴリ雅、見ての通り村一番頭のいいゴリラだ。


「ゴリ平、お前の華麗な棒捌き見せてくれよな」


「我が棒の前に敵は無い」


 ゴリ平、村一番棒が好きなゴリラである。


「ゴリ朗、頑張ろうぜ!」


「うっほうっほ」


 ゴリ朗、ゴリラだ。


「ゴリ吉!」


「うほっ、うほっ!」


 ゴリ吉、ゴリラだ。

 彼ら五人のゴリラは今、狂ゴリラの試練場に挑む。

 特に扉とか無く、普通に足を踏み入れた先にあった物、それは。


「な、なんだと……!」


「天井にバナナ三本が吊り下げられていますね」


 ゴリ雅の冷静な分析が、狂ゴリラの試練場のトラップを見抜いた。

 天井に吊り下げられたバナナはよく熟しており、こらえ性がなくて青いままバナナを齧るゴリラ達からすれば垂涎の一品だ。

 すでにバナナの味を想像した彼らの口の中は、唾液で満ちている。

 そう、バナナを食べずにはいられない!


「それにしてもゴリ雅、数を数えられるなんてな。フッ、敵には回したくない奴だぜ」


「それほどの事ではありません」


「うっほうっほ、バナナうっほうっほ」


「待て、ゴリ吉。俺が先だ。待つんだ、ゴリ吉!」


 危険に満ちた狂ゴリラの試練場だが、勇敢なゴリ吉がバナナに向かってうっほうっほと歩を進めた。

 しかし、


「ゴ、ゴリ吉ィィィィィ!?」


「うほぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!?」


 なんとゴリ吉の姿が消えてしまったではないか。

 ゴリ助はその強靭な精神力によりバナナの誘惑より目を逸らすと、何と地面に大きな穴が開いている。

 直径にして数ゴリラ、深さは底がさっぱり見えない。

 これではゴリ吉が上がってくるのに相当苦労するだろう、落ちたくらいでゴリラが死ぬとは思えないし。


「なんて悪辣な罠でしょうか……!」


「これを作ったゴーリラーは何てひどい奴なんだ!」


 バナナに目が眩み、上だけを見ていれば吸い込まれるように穴に落ちてしまう。

 そんな恐ろしいトラップだった。


「くっ、ゴリ吉の犠牲を無駄にするわけにはいかない!どうすればいいんだ、ゴリ雅!」


「あれを見てください。階段と棒が置いております。あれをどうにかすれば……」


「ここは俺に任せてもらおうか……」


「ゴリ平!」


 村一番、棒で遊ぶのが好きなゴリ平がいれば!ゴリ助の中に希望が甦る!

 天井の高さは恐らくゴリラが頑張ってジャンプしても届かない程度、バナナを入れていたと思われる箱を積み重ねた階段は結構高い。

 そして、結構長い棒。

 つまり、


「うおおおおおおおおお!」


「そう、高飛び!」


 棒の反発力を生かし、飛ぶ!

 ゴリラの力、そしていつも棒で遊んでいるゴリ平の技量が組み合わされば、バナナにまで手を届かせる事は容易!


「う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」


「ゴ、ゴリ平ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」


 だが、なんという事か!

 見事、バナナをキャッチしたゴリ平だったが、その真下は何と穴!


「こ、これをゴリ美に渡してくれぇぇぇ……!」


「ああ、わかったぜ、ゴリ平。お前のバナナ、無駄にしない!」


 深遠に消えていくゴリ平は、手にしたバナナをゴリ助に投げ渡し、ゴリ助はバナナを一本食べた。


「ゴリ平……貴方のバナナ、いただきます」


「うほっ、うほっ」


 ゴリ雅、ゴリ朗もゴリ平のバナナをむしゃむしゃと食べた。

 仲間を失った悲しみを胸に、彼らは更に先を目指す。

 バナナのいい匂いはすでに近い。

 この長きに渡った旅も、終点が近付いていた。


「これは……」


「箱、ですかね……」


 ゴリ雅にも数えられないほどの歩数を歩くと、次の部屋へとたどり着く。

 そこは数ゴリラほどの広さの部屋であり、中央には一つの箱がある。

 奥には遺失技術と呼ばれる、ゴリラ文明以前の存在である扉が存在していた。


「扉……聞いた事があります。鍵と呼ばれる棒がなければ開けられないそうです」


「棒……くっ、ゴリ平がいれば」


「失ったゴリラを嘆いても仕方はありません。この部屋を探してみましょう」


「そうだな、まずは箱から」


「うっほ、うっほ」


「待つんだ、ゴリ吉!いや、ゴリ朗?どっちだ!どっちにしろうかつだぞ!」


 どっちかのゴリラは箱の前に座り込むと、何やら丸いでっぱりを押した。

 かしゃん、という音と共に箱の下からよく熟れたバナナが一本飛び出す!


「うっほ、うっほ!」


 もう一度、でっぱりを押すとバナナが一本飛び出す!


「これは……」


「何か気付いたのか、ゴリ雅!?」


「ええ、どうやらこのでっぱりを押すとバナナが飛び出すようです」


「なんだって、本当か!?」


 がしゃん、バナナ!


「凄い、この箱さえあればバナナがいつでも食べられるじゃないか!」


 がしゃん、バナナ!


「ええ、魔法の箱でしょう」


 がしゃん、バナナ!


「……ところでゴリ吉、ちょっとそこを変わるんだ」


 がしゃん、バナナ!


「うめえうめえ」


「いいえ、ここは私が変わりましょう。どんな危険があるかわかりません」


 がしゃん、バナナ!


「うめえうめえ」


「おい、ゴリ吉」


 がしゃん、バナナ!

 がしっぼかっ!


「ゴ、ゴリ吉ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!」


「これも貴方が悪いのですよ、退かないから!」


 がしゃん、バナナ!

 がしゃん、バナナ!

 がしゃん、バナナ!


「ゴリ雅」


「バナナうめえ」


 がしゃん、バナナ!


「おい、ゴリ雅」


「うっほうっほ」


 がしゃん、バナナ!

 がしっ、ぼかっ!バナナ!


「ゴリ雅ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」










「ゴーリラー……絶対に許さん!」


 ゴーリラーの罠により全ての仲間を失ったゴリ朗だが、その正義の怒りは消せやしない。

 鍵とかよくわからなかったから扉を蹴破ったゴリ朗は、最後の部屋へと辿りついた!


「ククククク、よくぞここまで来たな……」


「ああ、俺の正義の心は消せやしない。覚悟してもらおうか、ゴーリラー!」


「よくぞ吠えたものよ、一人でわしに勝てるとでも思ったか!毎日バナナを食べているワシは無敵!」


「くっ、確かに……さっきまでバナナたくさん食べていたとはいえ、俺はここしばらくバナナを食べていなかった。俺一人じゃ勝ち目はない……!」


「おっと、俺を忘れてもらっちゃ困るぜ」


「ゴリ男!」


「俺の出番のようだな!」


「ゴリーラ!」


「コーホー」


「ウォーズマン!」


「これが、友情パワーだとでも言うのか!?」


「ああ、一人でバナナを食べていたお前にはわからないだろう、この俺の身体から出る輝きが!」


 死闘を繰り広げていた強敵とも達が集い、今こそ真のゴリラ力が発揮されるのだ!


「しかし、まだ負けたわけではない!」


「いいや、もう終わりだ!ご愛読ありがとうございました!」


 俺達の戦いはここからだ!

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