夢の続き

弔はあの時の夢と同じ暗い場所にいた。

それと同時に弔はここにあるものがすべてわかった。


あの時と同じだ。


そして同じなら葵がまた僕を…………

弔はそこまで考えると頭を抱えた。


夢の中であれ弔はその思考から逃げられなかった。

いや夢の中だからこそ逃げられなかった。


また足音が聞こえる。

また首がそこに転がってる。

また体が動かなくなる。

また首が砕ける。


そして月明かりが死神ヤツを照らす。

全身が得体の知れない恐怖に包まれる。


逃げられない恐怖とはこの事を言うのだろう。


そこにいたのは


葵ではなかった。


だが狂気の瞳を輝かせていた。


弔の幼馴染久留矢未来がその凶器を血に染めてそこに立っていた。


「あ、弔君・・・」


久留矢は久し振りにあったかのように笑顔を見せた。

だがその顔は明らかに笑ってなかった。


そしてナイフが月明かりにあたり光った。

弔は人形のようにそこに立ち尽くした。


照らされたナイフが目にも止まらない速さで一つの方向に向かった。

その方向は弔の心臓だった。


ナイフが突き刺さったはずなのに痛みすら感じなかった。

久留矢はナイフを突き刺した手を離した。


弔は顔に返り血を浴びた。

血の香りが鼻をかすめた気がした。


「私ね・・・ずっと昔から・・・」

久留矢が心臓に刺さったまま弔に話しかけた。

「好きなんだ・・・弔君の事・・・」


弔は人形のように何も感じなかった。

聞いた事をただ頭の中に入れて理解するという作業は完全に停止していた。


「だから・・・」

久留矢は弔の胸に深く突き刺さったナイフを取った。


「ずっと私の横に居てね・・・」


光る刃が振り上げられた。


弔は目を閉じた。


久留矢は高笑いを浮かべている。


その姿はまさに「狂気」だった。






そしてまた


目を開ければベットの上だった。


ベットシーツはぐっしょりと濡れている。


弔は手で頭を押さえた。


自分はどうかしたのだろうかこんな夢に身を投じてまでわかりたいことがあるのだろうか。


弔は自分自身に質問を投げかけた。

だがその質問の答えは出てこず。


朝日の方向に消えていった。



弔は久留矢の笑顔を思い浮かべた。

狂気に染まった久留矢ではなく普通のいつも通りの久留矢の笑顔を

思い浮かべると弔は部屋を出た。


「所詮・・・夢だ・・・」


一人で弔はそう呟いた。

そう呟きながらも弔は気になっていた。

夢に出てくる葵と久留矢の狂気の姿そして教授の謎の死。


それは弔の日常のサイクルとは明らかに違う出来事であることが容易に理解できた。


それでも弔は弔の日常を進めることを選んだ。

そうしていた方が楽だった。


そう思った時弔の背後で誰かが囁いた。


「次は


弔は一瞬にして背筋が凍った。


一瞬で弔は振り返った。

しかしそこには自室のカーテンが風に揺られているだけだった。


弔はなんとも言えない恐怖に覆われた。


その時弔はきずかなかった。

本来弔は窓を閉めたはずなのだからカーテンが風に揺られているはずがない。

これが後に弔の圧倒的な恐怖になることはまだ弔は知らなかった。


夢の中の春がようやく終わりを迎えた。











  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

その死でさえ嘘だとしても夢春の章 創夢深大 @sanzenrenya

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ