第3話 『嘲す』

雑な作りのフローリング床のうえを、コツコツと歩く。


まずは壁の掲示板を確認する。


猫探しの依頼、盗賊討伐団のメンバー募集、魔族の巣の調査。

物騒な世の中だ。さまざまな仕事募集の紙が貼られてある。


――だが、ここには、俺の仕事はない。


カウンターで、コップを拭いていたオヤジに話しかける。


「仕事はあるかい?」


「あぁ、仕事だぁ?」

オヤジは、舌打ちをした。

「そこの掲示板をよ……」

と言いかけて、オヤジは口をつぐんだ。


「あぁ、お前さんの仕事ね――龍に関係したクエストのことな」

「そうだ」

何度も何度も繰り返されたやりとりなのに、まだ一向にオヤジは覚えてくれない。

酒の銘柄は、百科事典の生き字引かと思うくらいに造詣が深いのに。


「ねぇよ。こないだの赤龍討伐が、ここいらでの最後の仕事だ」

「そうか……」


酒場の喧燥が耳に入ってくる。

親父は言った。

「おい兄ちゃん? ここはギルドでもあるが、酒場でもあるんだぜ? 仕事のことを聞く前に、することがあるだろう」

「……? ああ、すまない」

俺は言った。


「ビールを一杯。氷魔法で作った氷も入れてくれ」

王国銅貨を3枚、カウンターに置いた。

「何度も何度もしてきたやりとりなのに、兄ちゃんは覚えてくれないなぁ? ここに来たらまず酒を頼むことをよ」

「違いない。すまなかった」

人のことを言える義理ではなかった。俺は、自嘲ぎみに笑った。

「銘柄は何にする? 公認、密造酒、この国だけでも数百の醸造所があるんだぜ?」

「知るか。新鮮であれば何でもいい」

「兄ちゃんは人生損してるぜ」

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