死の病の収束
「……それでは、円観と文観に死人に変えられた者達は皆眠ったのだな」
「そのようです」
数日後、義貞と顕家は、あの寺の焼け跡で落ち合っていた。
「ただ、死人に襲われ感染した者達は戻っていないですし、師直殿曰く、寺から遺体は発見されていないようですので、おそらく円観も文観も死んではいないかと」
「師直殿生きているのか……。さすがしぶといな……」
「ええ……」
ただ、気掛かりは師直の腕の傷だ。しかし顕家は黙っておいた。あの男なら少々の事では死なないはずだ。
「そういえば、義貞殿、一度亡くなったというのにお元気ですね」
「ああ。道誉殿が『死人が死人を食らえば腐敗が止まる』と言っていたと師直殿が教えてくれた」
顕家が、ぎょっとして義貞を見た。
「まさか正成殿を食べたのですか!?」
「ああ……。死人は媒介が破壊されると灰となるようだが、正成殿だけは肉体が残っていた。私の体を使ってくれと正成殿が言ってくれたのだと思う、多分」
「びっくりした。……しかし、これどうしましょう」
二人の膝には、合わせて七つの骨壷が置かれていた。
「私が預かろう。東国へと帰る道すがらに然るべき地で供養しよう」
「では供養は任せます。私は引き続き文観等を追います」
「帝はいいのか?」
「北畠顕家はもう死にました」
「そうか……」
おもむろに、義貞が骨壷を手に立ち上がる。
「霧が濃くなってきた。私はそろそろ失礼する。貴殿も無理はしないようにな」
「すぐに帰りますよ」
「文観の件もだ」
「はいはい」
そう言いながらも顕家も満更でもなさそうだ。歩み出した義貞も小さく笑っている。
「それでは、縁がありましたら又会いましょう」
応、と手を振る義貞の後ろ姿は、やがて霧の向こうへと消えていった。
雫 森林樹 @itsukishinrin
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