第15話

 監視ロボットから逃げた弐卦は、西の国の中央にある魔法都市を歩いていた。高度に発達した科学は魔法と見分けがつかない。そんな高度な科学のある町だった。

 人々は相変わらず、ただ黙々と働き、家に帰って行く。

 これが、ぼくの目指していた理想郷? 弐卦はそれを受け入れられずに混乱した。そうなんだ。作れるんだ。神々は作ろうと思えば、いとも簡単に、平等で民主的で博愛に満ちた社会を。それを、ぼくは知らずに、世間知らずだから、どちらの現実も受け入れられずに拒絶してしまったんだ。ぼくは、ただ、ありえるはずのない幻想を見ていただけなんだ。何が世界を救うだ。ぼくは、ただの世間知らずだ。弐卦は、地面に手をついて反省した。

「そうだ。会いに行こう。この国を操っている神々に」

 そして、弐卦は、機械とヒトが平等の人権を持ち、効率よく働き暮らす街を後にした。


 西の果てに、忘れられた都があった。

 今では滅んだといわれている古の巨人たちの暮らす町だった。

 この古の巨人たちが西の国の神々だ。あの効率重視の社会を作り上げた神々なのだ。

「遅かったじゃない」

 見ると、此花が先に来て、待っていた。

 やれやれ、此花の方が一枚上手らしい。

 巨人と二人は話をした。

 まずは、弐卦から話す。

「この国の人々は、何をして遊んでいるんだ」

 巨人が答える。

「仕事がいちばんの楽しみだ。働くのが楽しいようにできている」

「これが、平等で民主的で博愛に満ちた社会なんだろうか」

「そうだ」

「なぜ、こんな国を作ったんだ、あなたたちは」

「なぜ作ったというと」

「いや、あなたたち、神々といわれるこの惑星へ植民した第一世代が好きなように世界を作って遊んでいるのは知っている」

「それを知っているのなら、教えてやろう。そうだな、こういう落ち着いた社会がわたしは好きなのだ。他の神々とは趣味が合わない。ただ、それだけだ。おまえたちが外の国からやってきて、びっくりしたとしても、わたしの所為ではない。こういう社会もありえるだけだ。実際に、代わりにここの仕事をやってみても、別につまらなくはない」

「そうか。ここの人たちも、仕事が終わったら、家に帰って、夫婦でいちゃついているんだろ?」

「おまえは、世界の支配者の弐卦だったな。確かにこの国の女もすべておまえのものだが、おまえがわたしの国の温厚な家庭を壊すような真似をされては困るのだが」

「いや、ごめん、ごめん。全然、そういう意味じゃないよ」

 巨人の鋭い指摘に焦る弐卦だった。

「そうかあ。こういう国もあるんだなあ」

「悪くはないだろう」

「うん。だんだん、好きになって来たよ」

「他の国は、何百年もすれば、革命が起きて、騒乱が起こり、社会体制が変革されてしまう。だが、この国はずっとこのままだ。このまま、ずっとずっと長いこと同じ生活をつづけていく。それは決して無駄なことではない。一人一人の思い出となっていくのだ。これが人生というものだ」

「うん。ありがとう、巨人さん」

「いや、礼には及ばない」

 そして、二人は西の国から中央の国へ帰って行った。


 御殿に帰ると、此花は弐卦の顔をのぞきこんでたずねた。

「で、ここまでの間に何人の女の人とできたのかな」

「な、なんのことだかわからないよ、此花」

 あはは、と弐卦は笑った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

金も女もくれてやる。それで世界を救ってみせろ 木島別弥(旧:へげぞぞ) @tuorua9876

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る