五話「結束! チーム名は、チーム名未定!」

「二人共、準備はいい?」

「大丈夫よ」

「なあ、優乃。今日で集まらなかったらさ……」

「い、今はそのこと言わないでぇ……」

「わ、悪ぃ……」

 どこから説明すればいいのかわからないけど、とりあえず私は高校二年生になりました。はい。

 あのあと、チーム無所属だったのは私達三人だけだったことが発覚した。つまり、無理やり他のチームから引き抜く以外にメンバーを増やす方法はなかったのだ。しかし、他のチームを敵に回してまで六人揃える気にはなれなかった。

 今日は入学式。今はそれも終わり、体育館のステージでチーム紹介が行われている。私達はこれが終わった瞬間全速力で飛び出し、最低三人かき集めなければならない。それができなければ……今はこれ以上考えたくない。

 五年連続校内大会で優勝したことで更に調子に乗っているであろう本郷は、今年もキャプテンだ。順風満帆で満足だろうが、苦境に立たされ続けた者の気持ちを知らないお前に人の上に立つ資格はない。初めての挫折を味わわせてやる……。



「……以上でチーム紹介を終わります」

 同時についに運命の勧誘タイムが始まった。

「希!」

「おうよ!」

私の掛け声と共に希は飛び出した。彼女に任せたのは個人的に誘う押し売り戦法。一人を確実に捕まえてもらうのだ。

「蓮子も行って!」

「任せて」

私の掛け声と共に蓮子はゆっくりと前へ出た。彼女に任せたのは個人的に誘う押し売り戦法。一人を確実に捕まえてもらうのだ。

「よし……後は私だ。頑張ろ!」

私は元気よく飛び出した。私が任されたのは個人的に誘う押し売り戦法。一人を確実に捕まえるのだ。これで合計三人確保。ステガをやるには充分な数が集まる。私、軍師になれそう。

「入ってくれ! 頼む! 入らないとひどいぞ!」

 本当に押し売りだ! 希なのに希望が薄いな……。これは誰か一人でも失敗すればアウトな作戦なのに……。

「入ってくれないかしら……。まだ人数も足りてないし、試合もしたことないし、ここの学校の伝統でもあるチームに楯突くことになるけど……」

 誰が入るんだそんなチーム! 何一つ嘘じゃないせいで文句は言えないのがつらい。でももう少し上手く勧誘できないものか。私がお手本を見せてやろう。

「…………」

 しかし、宛もなくさまよっているような生徒はもう見当たらなかった。

「何やってたんだよ優乃!」

「あなたがやりたいって言ったんでしょ!?」

「ご、ごめんなさい……」

 もう終わりだ……! 解散しよう……! そう思った矢先に――

「すみません、まだ募集……されてますよね……?」

 目の前には少し困ったような表情をした金髪女子がいた。関係ないがかわいい。後輩ならしっかり面倒みよう。

「も、もちろん!」

 私は元気よく返事をした。

「ま、マジかよ……。どうしてこんなとこを……」

 希は現実を受け入れられないと言わんばかりの表情でそう言った。

「うーん……。私は料理を独学で研究したいんで高校自体行きたくなかったんですけど、親が高校くらい出てくれってうるさいので一番面白そうなところに来ただけなんです。だから、部活選びも一番面白そうなところにしただけです。えへへ」

 彼女は参加申請用紙を書きながらそう言った。

「これでいいですか?」

 私は用紙を受け取る。

「ふむふむ。野丸愛花のまるあいかちゃんね」

 よっしゃ! 一年生だ! このまま事情を話さず私のものにしたいところだが、やはり話さなければならない。このチームの目的を。

 私は全てを話した。しかし、愛花は私が驚くだろうと予想していた内容とは違う内容に驚きを示した。

「優乃さん、家飛び出してここへ来て仕送り無しの一人暮らししてるんですか!?」

「そ、そんなに大きな声で言わないでよぉ……」

「あ、ごめんなさい! でも、その……必ず戻ってくるので少し待っててください!」

 彼女は慌てて体育館を出ていった。

「どうしたんだろ?」

「優乃の自宅を調べにいったんじゃないかしら」

「ええ!? 愛花ちゃんこわ!」



 二十分ほど経って彼女は戻ってきた。もう一人女子を連れて。

「お待たせしました! この娘も優乃さんと全く同じ状況なんです!」

 それを聞いて私は驚いた。視線をその娘に向ける。目が合うと、彼女は慌てて話し始めた。

「ほ、幌路芽衣ほろろめいと言います」

「芽衣ちゃん、その、私と同じ状況ということは……」

「詳しく言うと、優乃さんよりもっと悲惨です……。私の場合本当にお金が無くて入学金と授業料、教科書代を払っただけでスッカラカンです……。制服どころか、住むところも……。ネットで稼ごうと思ってたのに……」

 彼女は赤いラインの入った黒いコート、ブーツ、指出し手袋というなんとも斬新な格好をしている。単にこのファッションのために制服を着てこなかったのかと思っていたが、そういう理由があったのか。私の制服とその服交換しませんか。

 いやいや、それより住むところがないのは大問題だ。

「それじゃ今日までどうやって……」

「おとといの夜まで家にいました。昨日は野宿だったでお風呂に入ってません……臭います……?」

「いや、そんなことないよ」

 ということは今の匂いは彼女自身の匂いに近いのかな、くんかくんか……私きも! それにしてもギリギリまで家にいるというのは上手いと思った。私より計画性がある……ようでないこの娘のことがとても気になったし助けたくなった。

「じゃあ、うちに来る?」

 私の言葉に目を丸くする彼女。

「い、いいんですか……?」

「いいよ。あ、そうだ。その代わり私のチームに入ってね」

「入ります! あ、事情は愛花から聞いてますよ。協力させてください。元々チームどころじゃなかったんでこれからどうするか教室で悩んでたんです。そしたら、たまたま仲良くなった愛花から……ありがとう、愛花。ありがとうございます、優乃先輩」

 五人に増えただけではなく、なんとなく絆も生まれた気がする。あと一人、あと一人いれば……しかし、もう時間的にも希望は――

「ゆ、優乃……!?」

 声の聞こえる方を向いた途端、私は今日謝罪をしなければならない人がいる事を思い出した。

「か、か、華園……さん」

「華園でよかったのに! え、これ、優乃のチーム?名前未定……って名前なのね、ふふ」

「あの、ごめんなさい。せっかく私のために色々提案してくれたのに……」

「いや、いいのよ。それより良かったじゃない。ゲーム仲間が見つかって」

「ゲーム仲間……?」

「え、違うの?……てことは、まさか……」

「はい。確かにゲームもしますが、まずはステガの大会に出ます。それが今は最優先です」

 私は力強い口調でそう言った。そして今度は弱々しくこう付け足した。

「ですが、見ての通り人数不足で……。勝手なことした上にこのありさまで恥ずかしいです……」

 華園は先程からずっと顔を下げている。どんな表情をしているのか確認する事はできそうにない。ゆえに彼女の返答も全く読めない。

 少し間が空いた後、華園は口を開いた。

「……すごいよ」

 全く予想してなかった一言だった。

「すごいよ優乃! 誰にでも出来ることじゃない。折れないでここまでやれたことがすごいよ、ほんとに。 皆もありがとう。あなた達が支えになったからこその結果でもあるわ。」

 各々照れる。彼女は続けた。

「でも、一人足りないのは事実よね」

 その言葉は全員に突き刺さった。

「そして私の言葉が優乃を動かしたのも、事実よ。だから、私はあなたを手伝う義務がある」

「え……それって……」

 華園は申請用紙に名前を書いた。

「これで六人よ」

「よっしゃああああ!!」

 希が声を上げた。蓮子も、愛花も芽衣も順番に喜びの声を上げる。

「いいんですか!? 義務なんてないですよ! それに華園……はマジャライの副キャプテンで――」

「義務じゃなくてもやるわよ。絶対こっちの方が面白いわ。それとも私じゃ嫌……?」

「嫌なわけないです!! じゃあほんとにいいんですね! ありがとうございます!」

「よろしくね!」

 夢のようだ。もう、ここにきて良かった……。

「あれ、何このチーム。華園何してんの?」

 声を聞いただけでゾクッとした。この声の持ち主は……。

「千秋……悪いけど私、マジャライをやめさせてもらうわ」

「は? あはは、あんたも冗談言えたんだ。くだらないこと言ってないで、そろそろ練習始めるわよ」

「本気なんだけど」

 張り詰めた空気に私達、チーム名未定メンバーはたまらず固まってしまった。

「ちょっとさっきから何言ってんの? 大事な時にふざけんじゃないわよ!!」

 ついに本郷千秋は声を荒らげた。

「今日何人落としたと思ってるの?」

「今年は去年よりひどかったわ。あなたが席を外してから、追加で五人落としちゃった」

「はあ……。一緒に頑張るって考えは持てないの? あんなの見せられたら誰も良い気持ちしないわ。だから士気が上がらない。だから……公式戦で勝てない」

「それは関係ないわ!!」

 マジャライはステガの校内大会で全て優勝してきた。しかし、地区予選すら突破したことはない。それは他の全ての競技にも言える。この学校は、地区予選を突破したことがない。

「だからこそこのマジャライが今年こそ第一歩目を歴史に刻むのよ!」

「いや、それはマジャライじゃなくてこのチームの役目だぜ」

 ついに二人の間に割って入った者がいた。希だ。

「ぷっ! やめときなさい、まずうちと当たる前に消えるわよ」

「いえ、ひいき目なしに考えても華園さんが入ってくれるならマジャライに勝てる可能性はあります。彼女は中学時代から結構噂になってますから。そんな彼女がいても予選を突破できないということは……」

「黙れ!! 言い合いじゃ話にならないわ。試合で思い知らせてあげる。華園、あなたはもうクビよ。じゃあね」

 彼女は背を向けた後、首だけ動かしこちらを、私を見た。数秒間眺めるように見て何も言わずに去っていった。

 今日、本格的にチームは始動した。そして、本当に校内最強チーム「マジャライ」と敵対することとなった。

 見ていろ本郷。私は絆でお前を倒すぞ。

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家出と機械と妹分 天空優牙(あまぞらゆうが) @Urushi_midori

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