第6話 必殺の少女6

「…結構入念に殺したんだ。──それにしても、父の刀を砕くとは。相当な力を持ったな、君」


ㅤ呆れたように、巫扇さんは大刀洗へ言う。

ㅤ大刀洗は、若干俯いて黙ってしまった。


「…あの刀はどうなったんですか」


 あの刀を、仕方ないとはいえ壊してしまったことに対する申し訳なさを覚えて、僕は巫扇さんへ問いかけた。


「ああ、アレね。あれなら大丈夫だよ。

「──…え?」


 いやそんなはずは無い。

 あの刀は彼女の針によって砕かれ、もはや原型を留めていなかった。残ったのは、柄と鞘のみ。あれで〝刀〟と呼称するのにはあまりにも無理がある。


「嘘だと思うかい? しかし、信じきれないと、この先やってけないぜ」


 そう言って巫扇さんは、身につけている和服の袖から柄を取り出し机の上へ置いた。

 しかし、それはただの柄であった。

 刀身は相変わらず砕けたままで、辛うじて残った刃渡り数センチほどの刀身があるものの、これを刀と呼ぶには相応しくない。


「――?」


 何かしらの謎かけだろうか。

 僕が小首を傾げていると、彼女はふふと笑みを零した。

 ますます謎である。馬鹿にされている気さえしてきた。


「大刀洗くんの反応が全てを物語っていると思うがね」


 僕は大刀洗を見やる。

 大刀洗は、まるで化け物を見るかのような目で刀を見ていた。


「うっすらとだけど、刃が…ある」


 呟くような声で、それを説明する声には驚きを隠せていなかった。

 彼女の声の抑揚からして、嘘ではないことは確かではあるが――。


「僕には何も見えませんが」

「それはそうだろうさ。まだ君は信じきれていないのだから」

「信じきれて…?」


 信じれば見れるのか。

 そう思い立ち、僕は脳内で、そこに刃がある…と念じてみた。

 すると、


「はっ、そんな暗示で見れるわけが無いだろう」


 巫扇さんに笑われてしまった。


「じゃあどうすればいいんですか」


 若干の苛立ちを抱えながら僕は問うた。


「まあまあ、そんなに焦んなさんな。今すぐ信じなくていいんだぜ。…そもそも、人間がそういう形の無い何かを信じるのには時間がかかるんだ。地道に少しずつ信じて、気付けば全てを信じるようになっている。マインドコントロールの手口でもあるね」


 巫扇さんは含みある言い方をして、大刀洗を見る。大刀洗は目を伏せ唇を噛んだ。


「…大御漆おおみうるし。その名に聞き覚えがあるはずだ」


 巫扇さんは神妙な顔をして、大刀洗へ問う。大刀洗は恐る恐る顔を上げ、


「はい。私の――恩人です」


 そうはっきりと告げたのだった。

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雫の境内 櫟木ぞ乃 @zono0628

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