圧倒的な文才、近年稀に見る物語作家です

私が氏の作品にしばしば立ち戻るのは、例えばここです。

--引用ここから--
わいせつ石膏の村だからといって、村の人たちが皆わいせつな人間だということはない。おおいに勘違いされていることだけれども、滅多なことでもないかぎり、人前でわいせつな行為をしたり、わいせつな話をしたり、そんなことはしないのだ。女の巡査がどろぼうのあそこに噛み付くなんてのは、よその村の話だ。

むしろ、石膏的な人間が多い。このことは、村を訪れたことのない人に説明するのはむつかしいと思う。
--引用ここまで--

そうだよな、と思います。「女の巡査がどろぼうのあそこに噛み付く」この判らなさ、不可思議さも、想像と思考が試されて、心地いい。

私も多少、物語やエッセイを、歌をやりますが、黄金頭さんの才能にはただ素直に感嘆するばかりです。嫉妬は不思議にも感じない。作者はよほど心根がきれいな方なのだと思います。あるいは様々の醜い己(おのれ)から、せめて作中は、読者に対しては、きれいなものだけを残して提供したいというストイックさ、その結晶、結晶に向かう努力、積み重ね、石膏職人的な何かを感じます。

そのあたりを軸にして、近年稀に見る物語作家です。一般受けはしないかもしれない。分かる人だけ分かるタイプかもしれない。だがその種の才能こそ、商業出版や商業編集者、パトロンが守らなくてどうする。

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