なんでも作れる男の話

あるところになんでも作れる男がおりました

雑貨や洋服お手の物 お野菜果物なんでもござれ

果ては金銀財宝までをも作る

そんな男にある人は言いました

「君は私を作れるかい」


できるともさと男は答えました

だってなんでも作れるんだもの 断る理由はありません

男はある人そっくりの人形を作りました

しかしある人は首を横に振りました

「これは私ではないよ。もう一度作ってみてくれる」


そこで男は考えました

なんならある人は自分と認めるのか そもそもある人とは一体何か?

試行錯誤でいろいろ作る 宝石 小説 新しい文字

それでもある人は認めない

「これは私ではないよ。ちゃんと私を作って頂戴」


ついに男は尋ねました

「君を作るとはどういうことなの」

「私そのものを作って欲しい。命ある一人の人間として私を」

金銀財宝さえも作れる男です 命の一つや作れるでしょう

ある人の言うとおりでした 男はなんでも作れます

けれども一つ 心配でした


「そしたら君はどうなるんだい、同じ人は二人存在できないよ」

「大丈夫、だって私はもう死んでしまうから」

ある人が言うには 病に冒され 残された時間はあと僅かだと言うのです

「私がいなくなったら君はひとりぼっちでしょう。だから私を作って欲しいの」

なんでも作れる男は その類稀なる力を恐れられ ある人以外は傍に寄りつかなくなっていたのでした


男は首を横に振りました

「僕に君は作れない。だって、君でなければ意味は無いもの」

ある人は諦めたように笑いました けれど わかっていたようにも見える笑みでした


そのまま二人は 二人きりのまま 静かに時を止めました

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