来栖と増田
大澤めぐみ
来栖と増田
「来栖ってクリスマスなんか予定とかあんの?」
期末テストの最終日、誰もいない教室でもたもたとロッカーを片づけていたらバスケ部のジャージ姿の増田くんがスーッと戻ってきて、自分のロッカーをちょっとゴソゴソやった後に、思いつきのほんのついでみたいな感じでそう声をかけてきたから、わたしは飛び上がるほどビックリした。っていうか若干飛び上がった。
「え? え ?え? ととと特にないけど? えっと……なんで?」
と、わたしが手に持っていたノートでとりあえず顔の下半分ぐらいを防御(防御?)しながら返事したら、増田くんは逆に不思議そうな顔で「え? だってなんかあるんじゃないの? よく知らないけど、仕事? 役目……とか、会合? ミサっていうんだっけ? そういうのとか」って、片手に靴紐だけ持ってぶら下げている体育館シューズをぶらぶらさせながら言う。あ、体育館シューズを取りに戻って来たんだ。バッシュがどうにかなったのかな。
「ミサ……? ってキリスト教の教会とかでやるやつ? えっと、うち禅宗だからそういうのは別に」
「え、そうなんだ」
増田くんはカンペでも見ているみたいな感じで明後日のほうの虚空をしばし眺めてから、わたしのほうを見て「でも、来栖って天使なんだろ?」って言う。わたしはノートをサッと上げて防御する。ボッ! と頭のてっぺんまでなにかが突き抜ける。タッチの差で防ぎきれなかったっぽい。
「ええええと、テンシってなにかな」
天子? 展示? テネシー州? わたしの頭はグルグル高速回転するんだけど、歯車がどことも噛んでないっぽくてビュンビュン空回り。増田くんはあいた手でポリポリと頬を掻きながら、ちょっと困ったような顔をしていて、て言っても表情の差はものすごく微妙で、ふたつ並べて比較検討してみないとよく分からないぐらいの、バスケ部の副部長でスポーツ万能でそこそこ頭も良くて顔も綺麗なのにイマイチ女子に敬遠されているっぽいのはこういうところ。あんまり表情に変化がなくて、いつもちょっと怒っているような感じに見える。
「え、だって来栖、羽生えてんじゃん」
「ななななななななんのことかな!!!!!!」
あまりのことに思いがけず大声が出てしまって、それでまたなにかがボッ! って頭を突き抜ける。わたしはしばらくノートの裏に顔をうずめてたんだけど、高まった頭蓋骨の内圧が耳の穴からプシューッと抜けるのを待ってからコソッと覗き見てみたら、増田くんがまた微妙にちょっと、あーって感じの顔になってる。
「あー、ひょっとして本気で隠してるつもりだった? えっと、その、悪かった。来栖が本気で触れてほしくない話なら、もうこれ以上はこの話はしない」
しない、と言うのに合わせて、増田くんは小さく、野球の審判がやるセーフのジェスチャをする。しない、という意味のジェスチャらしい。
「いやいやいやいや、触れるとか触れないとか以前に、もうなんの話だかまるで意味分かんないし! 羽? そんなのあるわけないじゃん? ね?」
って、わたしの頭の中枢のほうからお前もう喋らないほうがいいぞー! っていう指令がビュンビュン飛んでくるんだけど、現場は勝手な判断でどんどんテンションを上げていっちゃう。いつだって事件は現場で起こっているのだ。会議室でふんぞりかえっている偉い人たちにはそれが分からんのです。
わたしがマイケルジャクソンばりの前傾姿勢になりながらまくしたてると、増田くんは微妙なフーって感じの顔をして、それからちょっとかがんで、床からなにかを拾い上げる。
「これ、来栖のだろ?」
羽根。真っ白でつやつやしてて、大きいの。結婚式で宣誓書にサインする時に使うペンみたいなやつ。
「いや? 知らないよ? あれじゃない? ホラ、サッチーのダウンジャケットのやつじゃない? ダウンジャケットってよく中身出ちゃうよね? 羽毛布団とかも! わたしの部屋の羽毛布団も別に穴開いてるわけじゃないのにどっかから羽根がぽろぽろぽろぽろ出てきちゃってさ!!!!」
わたしはミッキーマウスみたいに胸を反らせて両手を大きく広げて、やましいことなんてなにもありませんよーってポーズで主張をするんだけど、増田くんは「いや、無理っしょ」って半目になって言う。真っ白でつやつやしてて大きい羽根を机に置く。
「来栖さ、それ絶対背中になんか入ってるじゃんね」
「入ってない入ってない! わたしすっごい猫背なんだよね! これ! 背中!!!!」
全力でブンブン両手を振って、ないない、のジェスチャ。
「授業中に居眠りしてる時とか、それわさわさ動いてるから」
ああ神様! もう二度と授業中に居眠りしたりしませんから! いまのこの難局をどうにかしてくださいませ! うち禅宗だけど!
わたしが両手を組んでお祈りのポーズで固まってしまったのを見かねたのか、増田くんはちょっと間を置いてから「だからさ、本当に嫌だったら別にもうこの話はしないって」って言ってくれるんだけど、わたしは「だから! べ! べ! べ! べつに嫌とかそういうことじゃなくて」と、飽くまで一歩も譲らない徹底抗戦の構え。なぜ世界から戦争はなくならないのか。本当に見栄や建前を捨てて話し合うことができれば人と人は分かり合えるのではないか。分かり合えないまでも、共に生きることはできるのではないか。
「あのさ、俺らももう17じゃん」
と、そこで、それまでは通りすがりの立ち話って雰囲気だった増田くんが近くの椅子を寄せてきて前後逆で座る。なんとなく、雰囲気でお前も座れって勧められているっぽかったから、わたしも「うー」って謎のうめき声を出しながらヨロヨロと座る。
「未成年とはいえ、もうクソガキって言うほど分別もつかないような歳じゃないんだからさ。他人が本気で触れられたくないと思っていることを、わざわざおもしろ半分でからかったりはしない」
「う……うん」
「本当に、ただちょっと気になっただけだったんだ。まさか、素で気付かれていないと思っているとは思っていなかった」
増田くんが大人の対応すぎて、逆にますますつらくなってくる感じがあって、ちょっと自己嫌悪。
「いや……わたしもまあ、バレてるんだろうなとは薄々気付いてはいたんだけど……」
「まあ、普通に気付くよね。だって、羽ついてるし。デカいの」
「ううー」
「普通にみんな知ってて、でもなんかあんまり触れちゃいけないところなのかな、ぐらいの感じだったんだと思うんだけど」
「うん……まあ、そんな感じはする」
そう言っている間にも、わたしの背中の羽は気まずい雰囲気に合わせてワイシャツの中で居心地悪そうにもぞもぞとしている。
「あのさ、ひょっとして天使てきな事情で守秘義務とかそういう感じ?」
「いや、全然そういうのじゃなくて、ほんとにこれ、ただ生えてるだけだから。羽が生えているっていうだけで、あとは別に、ほかの普通の人と同じ」
もうさすがに、話がここまで来たらしらばっくれるのも無理かなーって感じで、わたしは自然と、今まで誰にも話したことのない秘密を打ち明けているんだけれども、気持ちは逆に落ち着いていたりもする。増田くんも「そうなの?」とか相槌うってて、なんか先を促しているような感じだから、わたしはそのままつらつらと話を続けてみたりする。
「羽が生えてるからって、これで空が飛べるわけでもないし」
「あ、飛べないんだそれ」
「うん。なんか知らないけど生まれた時から生えてるってだけ。お父さんもお母さんも別に羽生えてないし。突然変異? みたいな、そういうのらしいけど」
「ふーん、そっか。じゃあ本当に、天使とかなんかそういうのってわけじゃないんだな」
「うん……ていうか、羽が生えているってだけで、そういう特別ななにかとかを期待とかされるのもしんどいって感じで、それでいちおー隠してるんだけど。人によっては、突然祈ってきたりとか、もっとすごい人になるといきなり助けてくれー! ってきたりとか。できませんって言うとがっかりされたり、ひどい場合だと逆に怒られたりとか」
「あー、それは分かるかもな。背がデカいだけでバスケ上手いと思われちゃうヤツとか居るもんな。別に特別ヘタクソってわけでもないのに期待が高いだけにウスノロ扱いされたりとかな」
「なにそれ、実体験?」
「ん? いや、俺はそうとうチビだよ。それに、バスケ上手いし」
増田くん、チビなのかな?なんか175はないかな、みたいな。172とか3ぐらいの。なんか、ちょうどいいなって感じ。なにがちょうどいいのかは知らないけど。
「仲井のほうがわりとそんな感じじゃね? アイツ身体はデカいから身体能力はあるけど、根本的に器用なタイプじゃないからな。性格的にもあんまりシャキシャキはしてないし。まあでも、おっとりしてても根が真面目だから部長とかも務まってるんだろうけど」
ちなみに増田くんは実際に、強豪校であるウチのバスケ部の中でも一番ってくらいにバスケは上手いらしいけど、ちょっと性格に難ありってことで部長ではなくて、でもやっぱエースだからってことで副部長に収まってるっぽい。あんまり副部長らしい感じではないかもしれない。今もたぶん、練習中なんだろうけど、こうして平気でサボってるみたいだし。
「じゃあ、とりあえず来栖は羽は生えてるけど天使じゃないし、天使じゃないからクリスマスだからといって別になにか役割があるとかいうわけでもなく、つまりクリスマスは暇だってことでいいんだな」
増田くんが頭の後ろで腕を組みながら、ここまでの流れを要約して、話を最初の「クリスマスなんか予定とかあるの?」に戻す。こういうところは、ちょっと副部長てきな、リーダーてき存在てきな仕切り屋っぽいところもあるかもしれない。でも、そうなるとやっぱり話は見えてこないから、わたしも最初に戻って「え、まあそうだけど、なんで?」って言う。
「じゃあどっか行く?メシとか」
完全に不意打ちで、なんの防御もないままなにかがボッと頭を突き抜けていく。クリーンヒット。
「え? なんでそんな話になるの?」
「ん? だって暇なんでしょ。俺も暇だし。クリスマスだし。まあお金ないから行ってもサイゼとかだけど」
って、増田くんは本当になんの他意もありませんよって感じ。表情は、なんだろうこれ、微妙すぎて分からない。んーって感じ。
「べべべべべべ別に、いい、いいけど」
「あ、ほんと? じゃあ、そん時でいいから羽見せてよ」
「だっだだだだだダメに決まってるじゃないそそそそそんなの!!!!!」
ビョーンって立ち上がりながら、わたしがすごい大声を出すから、普段は表情の変化が微妙な増田くんもさすがにちゃんとビックリした顔をしてて、わたしのことをポカーンって感じで見ているから、わたしはまたボッ! ってなりながらも、なんかちょっと勝ったような気にもなっていたりする。なににかは分からないけれども。
「そうなのか」
座る。
「そうなのです」
間……。
また増田くんはしばらくカンペを見るように、首を明後日のほうに向けて虚空を眺めてから、こちらに目線を戻して言ってくる。
「あー、もしかしてそうだったとしたら本当に申し訳ないと思うからもしそうなんだとしたらそうだと言ってほしいんだけど、ひょっとして、今の俺の発言っていうのは、来栖にとっては、たとえば、パンツ見せてとかおっぱい見せてとかそういうのに相当したりする?」
「いや、別にそういうわけでも、ないんだけれど」
と、わたしもなんか知らないけれども、恥ずかしくなってきて、俯いてスカートの裾を両手でいじっていたりする。
「いっつも隠してるし、人に見せたこととかほとんどないから、やっぱりちょっと恥ずかしいかな……」
「えーっと、その恥ずかしいっていうのは、たんにあまり見せたことがないからであって、別に性的なアレで恥ずかしいとかいうことではなく?」
「たぶん、だけど。その、あんまり分かんない」
増田くん、今度は腕を組んで考えこんじゃう。うーん、としばらく唸ってから、パッと腕を解いて。
「いやいやいや、待って。ほら、天使の絵とかでも別に羽根のところに修正が掛かってたりはしないでしょ。別に人に見せちゃいけないものだったり、見せると恥ずかしいものだったりはしないんじゃないか?」
「でも、ビーナスの誕生とかっておっぱいも普通に出てるし、芸術っていうのはそのへんわりとおおらかだったりするのでは」
「いやー、そうかもだけどさ。でも、鳥だって別に普通に羽根を広げてるわけだし」
「牛だって普通におっぱいを絞られているよ」
「あーそうだなー、まあそういう話にはなるよなー。だいたい来栖は動物じゃないもんなー」
って、なんだか知らないけどどうでもいいような論点で言い合いになったりする。増田くんは天を仰いじゃってウガーって感じになってて、なんだかちょっと楽しい。
「んー、でもつまりだな。俺は別にいやらしい目的とか性的なアレとかではなく、純粋に好奇心というか、興味があって来栖の羽根を見てみたいだけなんだ」
「その理屈って、別にパンツ見せてでもおっぱい見せてでも使えちゃったりしない?」
「あーそうだよなー、まあそうなるよねー、うん、分かる。分かるなぁ。分かる分かる」
今度は前後逆にしてる椅子の背もたれのところに腕組んで顔うずめて、分かる分かるマシーンになってウンウン唸ってる。パッて顔を上げる。
「そんなに嫌?」
「えっと、むしろ逆に、なんでそんなに見たいわけ?」
「だって、綺麗っぽいじゃん。こんなに大きくて白くてつやつやしてるんだし」
増田くんはそう言って、机に置いてあった羽根を手にとってクルクルと指先で回す。大きくて白くてつやつやの羽根がクルクルふさふさと揺れる。またまたボッ! と、頭をなにかが通り抜けていく。
「そんなにさ、来栖が自分で思ってるほど気にして隠すほどのことでもないんじゃないかって感じもするんだけど」
増田くんは羽根をまた置いて、右手をパーに開いて縦にする。ちょっと通りますよ、みたいなポーズ。
「俺さ、この右手の中指の第一関節のところ、ちょっと曲がってるんだよね。たぶん、俺以外は誰も気にしてないし気付いてもいないと思うんだけど、俺はこれがすごく嫌でさ」
増田くんの手は大きい、っていうか、長いって言う感じで、普通だったらずんぐりしているはずの親指も、なんか長い。ヒュッヒュッとしてる感じ。長くてヒュッとした中指の、先っちょのところがちょっと内側に折れていて、そこもなんかひょうげてるっていうか、チャーミングな感じがする。
「増田くん、手、綺麗だね」
ついつい反射的に、口をついて出たって感じでわたしがそう言うと、増田くんは一瞬微妙に、なに言ってんだコイツって顔をして、あ、いまそういえば増田くんは自分の手が嫌だっていう話をしてたんだっけ? ひょっとしてちょっと無神経だったかなって、しまったなって思ったんだけど、でも増田くんはフッと息を吐くみたいな、微妙な、しょうがねぇなぁ、みたいな顔をちょっと見せたあとで「ありがとう」って言って、それでなんか、そのありがとうをいいなって思っちゃう。正しい、っていうか、適量、みたいな。適切なありがとうだなって思う。
「これ小学生の時にバスケで思いっきり突き指してさ。パンパンに腫れてたんだけど、どうせ突き指だからってあなどって湿布貼ってそれで放置してたんだよね。でも、やっぱたぶん骨がなんかなってたんだな。腫れが引いたらもうこうなってたの。曲がっちゃってて、もう直らない」
左手で、右手の中指の折れ曲がったところを真っ直ぐにしてみせるんだけど、やっぱり手を離すと元通り折れ曲がってて、やっぱそうなっちゃってるっぽい。
「うーん、そんなに気にならないけど。長くて綺麗だし、ちょっと曲がってるのも、別に悪くはないと思うよ」
「ま、他人から見りゃそんなもんだよなぁ。俺自身は、大人になったら絶対にお金を貯めて、整形手術して真っ直ぐに戻してやるって思ってるぐらいに思い詰めているんだけど。まあ、いくら掛かるか知らないし、いざその時になったら、意外とこれぐらいの曲がりは、そのうち自分でもなんとも思わないようになってたりするのかもしれないけど」
今だって、曲げちゃった当時に比べればそこまでも気にならなくなってきた感じもするしなー、なんて言いながら、じーっと、自分の手をいじいじしていた増田くんは、唐突にクルッとこっちに顔を向けて。
「つまり、そういうことなんだよ」
って雑に話をまとめようとする。
「いや、どういうことなのよ」
「そういうこと。だから、羽見せて」
なにがどうだからそういうことなんだか。
「いや、でもやっぱ、羽は背中から生えてるから、羽を見せようとすると必然的に肩とか背中とかまで見せることになるし、さすがにサイゼとかでは無理だって」
って、わたしが言ったら、間髪入れずに「じゃあウチ来る?」とか言うから、抜け目ないし、実際のところこれはなにをどう考えているんだかって感じ。
「え、さすがにそれはマズくない?」
「ああ、アレだよ。別に普通におふくろも居るよ。今日はうち両親いないんだよねとかそういう展開はないから大丈夫大丈夫。おふくろ、俺のこと全然信用してなくてそういうの超過敏だから、その点は安心安全」
「あ、家に女の子を連れ込んだりしたことはあるのね」
「連れ込むってなんだよ、おふくろみたいなこと言うなって。普通に友達だよ。家に遊びに来たりするでしょ。しないの?」
うーん、実際あんまりしないかな。羽のこともあるしね。
「ダメ?」
「うーん、まあ、そこまで言うなら、見せてもいいかなって気はちょっとするけど」
「あ、ほんと? じゃあ決まりね。サイゼ行ってからウチ来る? それともウチでクリスマス会する? おふくろも居るけど。はりきっちゃうかも。クリスマス会とか小学校の時以来だし」
なんなのかな、この拒絶の気配にはわりと敏感だしジェントルなのに、ちょっと隙みせるとガツガツ来る感じ。まあ、そんなに嫌ってわけでも、ないんだけど。全然、嫌ってわけでは、ないんだけれども。
「お母さん、びっくりなさらないかなぁ」
「さあ、びっくりはするんじゃない? クリスマスに羽生えてる女の子連れてきたら。でもまあ、クリスマスだし、それぐらいのびっくりはあってもいいでしょ」
なんて、なんかなし崩してきにそういう話になったりもする。
「来栖さ、家に居る時も羽を服の中に仕舞ってんの?」
「いや、さすがに家に居る時はキャミだけとかで羽出してたりはするかな。実際、わりと窮屈なんだよねコレ。あと、身体包むように羽閉じておくと、冬でもめっちゃ暖かいし」
「それって自分で動かしてるの? どんな感じで動かしてるの?」
「うーん? 自分で動かしてるよ。無意識に勝手に動く部分もあるけど。まあ、それは身ぶり手ぶりとかと同じ程度には。どんな感じって言われても難しいところあるけど」
なんて、どうでもいいようなことをついつい話こんじゃったり。ああ、なにも隠し事しないで喋るのって、こんなに楽なもんなんだなぁとか思ったりもする。
「あ、やっべ。さすがに戻らないと。んじゃ、そういうことでまたな」
って、増田くんは時計を見て急にあわてて、話も途中でバツンと切り上げてピューンと走って居なくなっちゃったりして、なんかクリスマスの約束もどういう段取りなんだか、本当に有効なんだか、ていうか連絡先も交換してないし、やっぱただの今だけのノリだったのかなーみたいな、曖昧な尻切れトンボな幕切れなんだけど。
羽かー。
わたしは机に頬杖を突く。
ためしに、増田くんに羽を見せてあげている自分をイメージしてみる。
わたしの背中の、白くてつやつやで、大きな羽。目一杯、広げてみせてみる。だって、綺麗っぽいじゃん。こんなに大きくて白くてつやつやしてるんだし。
自分でも、わりと綺麗だなって思ったりもする。服を着るのに邪魔だったり、仰向けに寝るのも難しかったりで、不便なこともいっぱいあるけれど、そんなに嫌になりきれないのも、やっぱり綺麗だなって思うからっていうのがあって。
増田くん、見たら綺麗だねって言ってくれるのかな、って考えてみる。
分からないけど。
もしそう言われたら、フッと笑って、ありがとうって言おうと思う。適切に、ありがとうって言えるように、心の準備をしておこうと思う。
来栖と増田 大澤めぐみ @kinky12x08
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