一見ぶっ飛んだ設定に、丁寧に作られたドラマと世界観、心揺さぶられる!

化物の出現によって災厄に見舞われるようになった日本。唯一の有効な手段が〝生け贄を捧げること〟であると確認され、恒常的にそれを供給するための施設として「生け贄養成学園」が設立された――中々ぶっ飛んだ設定ですが、ホラーらしい理不尽さと、世界観内での整合性を持っており、ちょっとした描写に不条理で恐ろしい世界で生きる子どもたちのリアリティを感じる作品。
入学当初は絶望していても、一ヶ月もするとその状況に馴染んで、平和な日常を送り始める様はとても納得がいき、同時に薄ら寒さがありました。また、設定を活かしたキャラクターの配置も巧みで、先の展開への予想や期待をかき立て、どんどん読者を引き込んでくれます。
また、個人的にも「恐ろしげな場所に閉じ込められて、そこでの生活を強いられる子どもたち」、というテーマは大変好物ですね。日常から無理やり引き剥がされ、死がずっと近い非日常に放り込まれながら、徐々にそれを日常としていく変化、それに伴う心の動き……。主人公のクラスから、初めて生け贄が選出されたと知らされるシーンは、「学校のHRでのお知らせ」というごく当たり前の風景と、死の知らせという組み合わせが、登場人物たちの置かれている状況をよく示しているようで、怖さと悲しさを同時に覚えました。冷たさと熱さが交わりきらない、なんというか夏の北海道の朝みたいな空気感を覚えます(日が照っている場所は普通に暑いのに、少しでも日陰に入るととても涼しくて、妙にギャップがあるあの感じ)。また「介添人」の制度も、中々辛い選択を迫られるシステムでいいですね。
これら序盤の雰囲気は、10話から少し違ってきて、おやホラージャンルだけど、方向転換しちゃったかな? と少し不安になったのですが、それでもミステリー・サスペンス要素でぐいぐい話に引きこまれ、終わってみると、間違いなくこれはホラーの読み味でした。主人公の奉理くんは、知襲に励まされた時のリフレインで、逆に彼女を励ますシーンとか、とても素晴らしい人物だったのですが……だからこの結末は、なるほど「悔しい」。希望はないわけではない。けれど……
 にがく、苦しく、辛く、悔しく。ある種の妄執が生み出した、悪夢のように不条理な社会。読者を惹きつけるエンターティメントであり、人の衝動をつき動かす素晴らしい作品でした!