ひどい。
それ以上にこの作品を的確に表現する言葉が思い浮かばない。ひどい。起承転結、徹頭徹尾、全方面に渡って余すところなくひどい。しかし、それは同時に驚嘆すべき事柄でもある。このような純度100%ひどさ、綿密な計算なしに到達できるものではないからだ。
自然界に「純水」は存在しない。真にピュアなものはいつも人の叡智によって作られる。もし本作の作者が天然自然に任せて思いついた下劣な言葉を書き殴るだけの人間であったなら、不純物を多く含んだ苦み走るひどさが姿を現して終わったはずだ。作品が作者のたゆまぬ努力に裏打ちされているからこそ、汚れを知らぬ乙女が初めて抱いた恋心のような澄んだひどさが生まれ得る。
さながらコーヒーを一滴ずつドリップするように、頭蓋の中のるつぼを掻きまわして少しずつ少しずつ純粋なひどさを抽出する。やがてコーヒーカップに溜まったそれは珍妙な色をしており、貴方はそれを一見して美味とは思えないだろう。しかし濃厚で芳醇な一風変わった香りが貴方を惹きつけて離さない。果たしてこのようなものが本当に美味いのだろうか。興味半分恐怖半分で口をつけた貴方は、きっと、ほとんど無意識にこう呟くはずだ。
「これはひどい」
是非、ご賞味下さい。
さらりとしているのに濃厚、匂い立つ個性、非常に味わい深い。
コンパクトで、トンチが効いていて、オチもある。一休さんパロディに求められる作話技術は高い。それを当然のごとくにクリアしてからの、容赦なくまぶされる下ネタ。
下ネタがこれでもかというほど丁寧に散りばめられている。むしろ敷き詰められている。土台の話からして下ネタなのに、その上に下ネタをトッピングする。下ネタミルフィーユ。
人生でこれほどまでに下ネタまみれの文章を読んだことがあっただろうか、いやない。あってたまるか。官能小説ではなくて下ネタ小説。エロがエロくならず、おかしみを醸すギリギリを攻め込み続けるエクストリームレーティング、面白い。バスの中で読んで悶絶している。
天才とはかくあるべき。
天才とは往々にして、衆愚によって淘汰され、彼等が日の目をみるのは没後となるものです。
しかし、幸か不幸か、僕を含むあなた方衆愚は(著者の才能と我々とを明確に分けるため、敢えて誤解を恐れずこのような言葉を選ばせてもらう)、著者の才能を彼が生きているうちに理解し、賞賛することが出来ます。
より多くに理解出来るよう、ネタの落としどころをきちんと弁え、ところどころに散りばめられたパワーワードは我々の内から笑いを引きずり出してきます。
ただの出オチ作品と思って敬遠している方には、是非読んでいただきたい作品です。
きっと、創作に対する著者の造詣深さに舌を捲くことでしょう。
僕もルサンチマンに囚われながら、この高みを目指して精進しようと思いますが、果たして到達はいつになることやら……