後編
◆
「何故だあああっ!!」
六日目の夜。今日もヒロトがグリーンドラゴンに相手されることはなかった。
昨日も今日も性に奔放なグリーンドラゴンはスライム(体内侵入プレイ)、ゴブリン(複数&疑似輪姦)、ミノタウルス(淫語責め)などなど相手をとっかえひっかえしては楽しんでいた。
その全ての種族を滅ぼしてきたが、ドラゴンはヒロトを性の対象として見ない。
「どうして……」
「トラックだからよ」
ヒロトにはそれがわからないし、おバカなガミダには筋道立てて説明できない。
「あと一日、あと一日しかない!」
「ね、もういいじゃない。格は落ちるけどワイバーンとかなら卵売ってるし最初から育てればイケるかも、」
「俺はグリーンドラゴンじゃなきゃダメなんだよ!!」
「ひっ」
「!」
車体が揺れるほどの剣幕に怯える女神を見て、ヒロトは一層自己嫌悪に陥る。
「チクショオオオオ!!」
月に吠えても答えはない。寒々と光るだけ。
「ヒロト」
女神はどうにか彼を元気づけようとして口ごもる。
彼の気持ちがわからないわけではない。
声優を目指していたころ、彼女もあわよくば憧れの男性声優とお近づきになりたいなヤリたいなという願望がなかったでもない。というかそれが全部だった気もする。
だから、夢を諦めてしまった人間として心折れようとしている彼を支えたい気持ちは本当だ。
だが、
(やべーよ、さっぱりだよ……)
ガミダはトラックを慰めたことが無かった。人との付き合いももとより苦手だ。
引っ込み思案とオタク趣味が原因で、学校でも職場でも一歩引いてしまいがちだった。男性とのお付き合いも何だか生臭い気がして長続きしない、そんな人間だ。
トラックを、ましてケモホモだなんて。
「ど、どんま~い?」
ブパッ、ブパッ!
こんなもんだ。かける言葉が見つからない。
彼女はぶはー、と息を吐いて静かに吸いなおす。
自分の匂いがした。乗り慣れた運転席にすっかり染みついてしまっているのだ。
思えば誰かとこんな近くに居続けるなんて人生で初めての経験だ。もしこれから誰かと結婚したとして、ここまで一緒にいられるだろうか。
彼女は、そっとヒロトのピラーを撫でた。
「ヒロト」
この澄み渡る夜空の下、少しだけ彼のことが愛おしい。
だから、これまで秘めてきた真実を告げることにした。
「ドラゴンカーセックスが表現規制の結果生まれたって話、デマらしいよ」
「まじで」
その三文字の返答にはあらゆる感情が込められていた。
「あれは
「ペンタゴンが……。そんな、嘘だ」
彼女は一日目の夜にスマホでググって知ったのだが考えてみれば当たり前だ。
「いくら規制されたからってドラゴンが自動車犯すのに流されるわけないじゃん」
とどの詰まり、『元々そういうのが好きな人』がいたということ。
ヒロトは最初からアメリカに踊らされた哀れな道化に過ぎなかったのだ。
「俺は、どう、すれば……」
目に見えて元気を失くしていく彼の中で、彼女は思いっきりクラクションを殴りつけた。
ブパーーーーーーーーッ!!
「うるさーい!」
「いや押したのはアンタだろ」
「私は貴方に言ってます! 大体やることがみみっちいのヒロトは!」
彼女は勇気を奮って人型の血の染みを怒鳴りつける。
「相手が好きな人を排除するなんてヤンデレとやることが同じじゃない。そんなの上手く行ってもナイスボート不可避よ、ジョースター卿よ!?
貴方は相手のことをちっとも見てないわ。どうして好きなのに正面から向き合わないの? あんなに行動力ある癖にビビっちゃって情けないんだから。
男なら! まっすぐ! 突っ込みなさい! 以上!」
「ガ、ガミダ……」
「ヒロトならできるわ。ダメでもその時は、」
ここまで思いっきり喋れたのに、その先の恥ずかしさは流石にきつい。
でも、言いたいんだからしかたない。
「わ、私が慰めてあげるから」
尻すぼみな言葉は夜の闇に消えて行った。
すべての勇気もどこかへ行ってしまい、赤面する彼女はもじもじとうつむく。
しばらく静寂が場を支配し、焦れたガミダが顔を上げるとやっと彼は口を開いた。
「ありがとう」
その返事には何時ものはきはきとした力強さが戻っていた。
「真っ直ぐ突っ込む、か。そうだな、それしかない」
「わかったら今日はもう寝なさい。毎日走ってばかりでずっと寝てないでしょ?」
「ダメだ、明日は最終日だぞ、今から飛ばさないと山には間に合わない」
「それなら任せて!」
彼女はキーを回すと、軽やかな手つきでトラックを発進させた。
「お、おい! 危ないだろ!」
「平気平気。私、中型持ってるから」
「え、なんで?」
「女神になる前は、実家の酒屋の手伝いもしてたの」
「前から思ってたけどアンタ本当に女神かよ!」
「何? 失礼しちゃう……」
この後身の上話に花が咲き、結局ヒロトは一睡もできなかった。
◆
七日目、正午。
グリーンドラゴンの繁殖期は百年に一度。百年後にはヒロトは朽ちているだろう。
次はない、これが最後だ。
グリーンドラゴンはまるで挑戦者を待ち構えるチャンピオンのように山頂で身を休めていた。
昨夜も盛んに腰を振ったことだろう。真っ赤に晴れ上がったペ〇スは今もギンギンにそそり立っている。
「グリイイイイイイイインドラゴオオオオオオオン!!」
ヒロトは自分をふるい立たせるように雄叫びをあげた。
「な、なに、どうする気?」
「まっすぐ突っ込む!」
ヒロトは正面からドラゴン目掛けて全速力で直進する。
目標はグリーンドラゴンの股ぐら。
「ヒロト! つ、突っ込むってそういう意味じゃないからあああ!」
「グオオオオオオオオオオオオッ!!」
咆哮一つ、グリーンドラゴンが火を吐いた。
「甘い!」
ヒロトはハンドルを切り、いとも簡単に炎をかわす。
「グオオオオオオオッ! グオオオオオッ!」
続いて投げ放たれた岩の数々も彼を捉えることはできない。
すべて四日目から行ってきたモンスターの虐殺の中で鍛え上げられたためだ。
家ごと潰されたゴブリン達も、腰から真っ二つに轢き殺されたミノタウルス達も、無駄死にではなかったのだ――
「グオオオオオッ!!」
山の王者としてグリーンドラゴンに逃げることは許されない。飛びもせずに待ち構える竜は、近づいたヒロトに鋭い爪のついた両腕を振り降ろす。
右、空振り。
左、空振り
「ガミダァッ、屈めぇ!」
ガミダの視界に、竜の赤いズル剥けペ〇スが、フロントガラス一杯に広がった。
「ギャアアアアアアアアアアアアア!!」
バリーン!!
「い、生きてる……」
ガミダが抱えていた頭を上げると、助手席をドラゴンのチ〇コが貫いていた。
そして、ヒロトの染みがあったフロントガラスは粉々に砕け散っていた。
「ヒロトォ!!」
「なんだ?」
「あれ、無事なの? 貴方のど根性の上半分消滅してるけど」
「昔から人一倍性欲が強かったからな。下半身が本体なんだろ」
説得力があるような無いような説明だが、とりあえず元気そうだ。
一方、グリーンドラゴンは追突の衝撃に耐えかねて、背後の大岩に叩きつけられていた。だが死んでも気を失ってもいない。ピンピンしている。
「グオッ」
竜は立ち上がると、ヒロトをガッシと両手で捕まえた。
「おっと、始まるな」
「え?」
ドラゴンがヒロトを攻撃することはなかった。
両手でトラックを固定し、チ〇コが抜けきらない程度に腰を前後に動かす。
ギチッギチッとヒロトが規則的な音を出すのを聞いて竜の顔に笑みがわく。
「グオッ……グオッ……」
こぼれる吐息は性的興奮を現している。
以前見たイラストとは違い、前からのファック。オーラル? それとも駅弁?
いずれにせよ、これは明らかにアレだ。疑う余地はない。
「ど、どうして? 今まで見向きもしなかったのに」
「こいつの性欲も竜一倍だったってことさ。つまり相手なんかなんでもいい、穴があったら入れたい年頃だったんだ。お前に言われるまで気付けなかったよ」
「! や、やったのね! おめでとうヒロト!」
「ああ!」
「よっしゃーーーー!!」
ドラゴンのあれの臭いが充満する中、ガミダは喜びを爆発させた。
入れ挿しは続くにつれてだんだんと激しくなっていく。
メキメキと車体のきしむ音が聞こえてくるとガミダは次第に不安になってきた。
「ね、ねえヒロト、これ、ヤバいんじゃない?」
これまでヒロトが全く損傷せずに異世界を駆け抜けモンスターを皆殺しにできたのは女神である彼女が加護をかけていたからなのだ。
中に異物が差し込まれた今はそれが使えない。そのことは彼にも再三伝えた。
「そうだな。ガミダ、危ないから早く降りろ」
だというのに彼はとんでもないことを言い出した。
「バカ言わないの! 早く逃げるわよ」
「バカじゃない、お前が怪我したら悲しい」
何言ってんだか、ガミダはレバーに手を伸ばした。
すると、
ブシュッ!
ドアが開き座席ごと彼女は射出された。
「ギャッ」
まったくの不意打ちで、腰を打ちつけて喘いでいるうちにドアは閉まってカギを掛けられてしまった。
「グオオオオオン!」
グリーンドラゴンが軽く絶頂に達し、トラックが持ち上げられる。パラパラと何かの部品がたくさん落ちていった。
「ヒロト!?」
ドラゴンが翼を開く。行為を継続しながらも空へ飛ぼうとしている。
資料によればグリーンドラゴンの交合は高度一万キロまでに抜かずの三発は基本、あの異常性欲のドラゴンならば抜かずの六発は余裕でやるとみるべきだ。そこまでやればヒロトのボディが間違いなく破壊されてしまう。
それでもヒロトはされるがままだ。陽気な鼻歌まで聞こえてくる。
「ふざけないでよ! このままじゃ死んじゃうって!」
ヒロトは明るい調子で彼女に答える。
「ガミダ、地球の高度一万キロがどんなところか知ってるか?」
「何言ってるのよこんな時に!?」
「宇宙との境目だよ」
一度、二度と翼が打たれ、ドラゴンの巨体が浮く。
それからはあっという間で、彼はガミダに一言しか喋れなかった。
「俺、子供の頃は宇宙飛行士になりたかったんだ」
◆
会社員だったヒロトにとって人生とは流されるものだった。
みんなするというから大学まで進み、みんなするというから会社に就職した。
彼にとって流れとは世界の形だった。彼にとっての能動的な行為とはその形にどううまく合わせるかということだった。
「グオオオオ」
想像を絶する外気圏の環境でもグリーンドラゴンは元気ハツラツ。
腰の振りもかえってパワーアップする一方だ。どうでもいいが。
「ふう……」
そこはいい眺めだった。テレビやネットで見たのと同じ景色だった。
この星の曲線が見える。地球と同じく、異世界の惑星も丸い。
そう、世界は丸い形をしていた。
誰かに合わせたりしなくても、ちゃんと形があって存在していたのだ。
竜と一つになったこの刹那、自分にも形があったことをヒロトは悟った。
「グオオオオオオオンッ!!」
バキバキバキッ
握りしめられたトラックのコンテナが砕けて、竜が最後の絶頂に達する。
どうでもいい。
この星も黒い宇宙の中で目が覚めるような青さだ。異世界の惑星も水が多い。
地球の原子は年々減っていると聞いたことがある。
大気中の水素などは地球の引力から離れて宇宙に拡散していくのだそうだ。
そう、世界は流れてなんかいなかった。
ひと時同じところにいても、みんな最後はどこかにいってしまう。
今もまた竜の両腕が
(だったら、流されずにもっと好きなことすればよかったなあ)
それぐらいのこと、宇宙になんて来なくても、転生なんてしなくても。
全部わかっていたはずなのに、この目で見るまで納得できなかった。
ヒロトはゆっくりと落下し始めた。
見上げれば徐々に宇宙が、彼のいずれ行くところが遠くなっていく。
(どうでもいい、またいつか行くのだから……)
落下の最中、この七日間に出会った者たちが彼の胸中に浮かんでは消えていった。
グリーンドラゴン。アナメリカ王。ネコの方のドラゴン。ドウテイツ大統領。
オークキング。絶滅させたオーク。絶滅させたスライム。絶滅させたゴブリン。
絶滅させたミノタウルス。絶滅させた大魔王クリトリ=スマス。…(中略)…
そして、女神メ・ガミダ・ゼ。
みな、悪いヤツではなかった。
だんだん速度が上がっていく。風の音が滝のように降り注ぐ。
別に宇宙に行きたいのならドラゴンカーセックスでなくてもよかったなとか、何もモンスターの赤ん坊まで全員バラバラにすることはなかったかなとか、今は思わなくもない。何も聞かなかったガミダもいけないと思う。
だが、これでよかったとヒロトは満足していた。お似合いの末路だ。
(……?)
ところが、このまま墜落しようとしていたヒロトを抱きしめる者がいた。
「グオオッ!」
グリーンドラゴンだ。
「グオウ! グオウ!」
誰だって肌を重ねれば情が移る。竜は完全に母体を気遣う雄の顔をしていた。
出会うはずの無かった一匹と一台が世界の果てで触れ合う奇跡。
竜は自動車姦に目覚めたのだ。
ヒロトも今ばっかりはその気持ちに共感できた。
「グオオオッ……!」(ドラゴンカーセックス、最高……!)
彼はドラゴンに保護されたまま、ガミダの待つ山へと帰って行った。
◆
差たる時間もかからず、ヒロトはあの山頂で女神と再会した。
目に溜めた涙を気取られぬよう彼女は気丈に手を振って迎える。
ヒロトはドラゴンにより丁寧に地面に降ろされた。
「おかえり、宇宙飛行士。気分はどう?」
「最高だ。もう思い残すことはない」
「あら、そうかしら? 実はね……」
ガミダはいたずらっぽくトラックに微笑む。
「月まで飛びながら交合するホワイトドラゴンが来月から繁殖期なんだけど」
オワリッ!
7日間。竜は自動車姦に目覚めるか? しのびかに黒髪の子の泣く音きこゆる @hailingwang
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