切実で胸の痛くなる百合物語

作品として質が高いと思います。
少女の手紙と過去と現在を交錯させながら、高めていく手法。少女の心理に焦点をあててうまく創作されていると感じました。

『東北に住んでいないからそういう事が言えるのだ。東北に住む者にとって、東北の雪が好きなのはまだ小さい子供だけだ。』
この表現に、作者の揺るがない視点を感じました。言いたいことがある、伝えたいことがあるという気持ちが伝わってきました。
現実とテレビの向こうの隔絶、現実と心の隔絶。そうした気持ち、言いたいことがあるというのは創作の巧拙に無関係に必要なものだと感じます。必須です、魂です。
私はこの作品、とても好きです。

百合という世界において敵は何かな、と私も考えたことがあります。そうしてみると間違いなく『卒業』なんですよね。実は異性でも大人だけではなく、その一点だと私も思います。そして、これは創作に限った話ではなく、十代の折には卒業が死神、それが現実であるという風に、かつては自分も感じていたことがあります。
伝えたいという気持ちは強みです。
そのメッセージを起点に、世界をダイナミックに広げた物語を、樫木さんの創作の広がりをもっと見たいと感じました。