委員会ではすでに耳にした議題でもめていた。真弓はそれに加わらず他にもなにかできないだろうかとキューブの有効利用法を思案する。

 相変わらず、まともなアイデアは浮かんでこない。A賞を獲得できればいいとそれで満足すべきなのだろうか。欲張るべきではないのだろうか。

 白熱する議論がうるさかった。

 どうせ落としどころなどわかっているのに、この人たちはいったい何故そんなことさえ見えず、自分の意見を必死に押し通そうしているのだろうか。うるさい。考えに集中させて欲しい。さっさと委員会など終わればいいのに。

 そんな風に思っていたのがいけなかった。意見を求められた真弓は結論を出してしまった。ただ、早く議論を終わらせて欲しい一心で、あらかじめ知っていた答えを口にした。

 委員会が終わり帰ろうとしたところ議事録に目を通していた委員長に呼び止められる。

「君は周りがよく見えているね」

「いえ、自分は……」

 ただ答えを知っていただけだ。ぶつかりあう論から折衷案を導き出したわけではない。

「謙遜しなくてもいいよ。よかったら、これから少し仕事を手伝って欲しいのだけど」

 期待のこもったまなざしで見つめられては断ることもできず、真弓はそのあとこまごまとした仕事を任せられるはめになった。

 すべてをこなし時計を確認する。

 やばい。急がなくては五時に神社に辿りつけなくなる。

 校舎を飛び出し自転車小屋に急いだ。まだ飛ばせば間に合う。

 できれば、時間までに到着して恵介のいないところでキューブに触れたかったが、最悪彼と出くわしてもかまわない。

 真弓は自転車を漕ぎながら前回のじゃんけんを反芻する。

 運が良かったから真弓が勝ったのではない。

 じゃんけんをする時、ほとんどの人間は握った拳を振り下ろしながら手を変える。

 グーならば握りこんだまま。チョキならば二本の指を開く。パーならばすべての指を開く。

 その動き、あるいは動きの予兆を見た瞬間にこちらの手を変えたのだ。

 握りこんだ手が最下点に達する寸前に、相手に勝つ手を出す。

 中学時代の卓球部で鍛えた真弓の動体視力を持ってすれば簡単だった。目が良ければ誰にでも可能な手段だ。

 それは言ってみれば後出しだったが、相手にバレなけれ問題はない。キューブがかかっていたからこそ真弓は禁じ手を使ってまで勝ったのだった。

 しかし、今度はそんな卑怯な術を用いる必要すらない。相手の手はすでに把握しているのだから。

 神社に到着し息を整えながら時計を見る。なんとか間に合った。

 そして、粟坂恵介が待っているだろう場所へと真弓真一郎は駆け出す。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る